【江戸瓦版的落語案内 】湯屋番(ゆやばん)
道楽の末、親許を勘当された若旦那が、出入りの大工・熊五郎宅の二階に居候をしていた。働きもせず、毎日ゴロゴロと寝ている若旦那に、熊五郎が奉公でもしてみたらと進めた。しばし考えてた若旦那、熊五郎の知り合い湯屋が奉公人を募集中と聞き、乗り気に。紹介状を持ち湯屋に行き戸を開けるなり、女湯に飛び込んだ。驚いた湯屋の主人、とりあえず外回りを頼むというと「いいですね。芸者を連れて温泉地の視察ですか」ととぼけた答え。燃料にするための木屑集めだと言うとキッパリと拒否。
「そんなことより、番台に座らせて」と図々しいことこの上ない。その強引さに仕方なく主人が昼飯をとる時間に、代理で座らせる事に。ところが、男湯には客がいるが、女湯は空っぽ。しかも男湯の客といえば、汚いケツで、おまけに毛がびっしり野郎ばかり。そんな現実から妄想の世界へ…。
そのうちに、いい女がやって来るんだ。その女がなんとこの俺に一目ぼれ。連れの女中に「あら、ごらんなさい。ちょいと乙な番頭さんだね」。うしし…照れるなー。ある日偶然その女の家の前を通りかかると女中が目ざとく見つけ、「姐さん、憧れの君、お湯屋の番頭さんですよ」って家の中に声をかけるね。すると女は、泳ぐように出てきて、「ちょっと上がっていって下さいな」って俺の腕をつかむんだ。
「いえ、それは困ります」「いいじゃないですか」「いやいや、それは…」と一人で手を引っ張ったり、引っ張られたり。「おいおい、番台に変な野郎がいるぜ」と、客が集まりだしてきた。そんなことにも気が付かず、一人芝居はエスカレート。家に上がり込むと、2人は盃をやったりとったり。その時ちょうどいいタイミングで雷が落ち、女は癪を起して気を失ってしまった。
そこで、盃洗の水を口移しで飲ませる。すると女は目を開き「今のは嘘」。ここでさらに芝居がかり、「雷様は恐けれど、二人がためには結ぶの神」「うれしゅうございます。番頭さーん」「馬鹿野郎、いい加減にしろ!」とうとう客がブチ切れた。「俺は帰る! 下駄はどこいった?」すると若旦那「はて? 見当たりませんね。じゃ、そちらの高そうな下駄を履いてお帰りなさい」「ほかの人の下駄じゃねえか。履いてったらそいつが困るだろう」「いえ、順に履かせて、しまいの人は裸足で帰らせます」