門脇麦 不器用で引っ込み思案なヒロインを自然体で演じる

 デビューしてわずか6年で、映画、ドラマ、舞台など広いフィールドで活躍中の門脇麦。そこにいるだけで目が離せなくなる不思議な魅力で、超個性的な役をさらりとこなし、普通の女の子の役を自然に演じる。そんな門脇の主演映画『世界は今日から君のもの』が7月に公開。生きることに不器用な主人公の真実について、また最近の自身の撮影に向き合う時の変化などを率直に語る。

ヘアメイク・藤垣結圭/スタイリスト・岡本純子/撮影・蔦野裕【衣装】 ・ラップドレス 3万7000円/メゾン ド ソイル 恵比寿店(TEL:03-5773-5536) ・ピアス 1万3000円/Vlas Blomme 目黒店(03-5724-3719) ・靴 2万7000円/CARRIE FORBES(ビショップ)(TEL:03-5775-3266) ・中に着たチューブトップ/スタイリスト私物 ※価格はすべて税別

ストイックにやるのがすべてじゃないと思ってからラクになった。

「苦手ではないです。というか苦手じゃなくなってきました。昔は難しかったですけど…」映画の中の真実のように、とっても人見知りで会話が続かなかったら…。門脇の醸し出す雰囲気があまりにも真実にそっくりなため、ついつい最初に「インタビューは得意ですか?」と聞きたくなってしまった。その答えが、冒頭の返答だ。

 門脇と真実が似ているのもある意味当然なのは、脚本・監督の尾崎将也氏が門脇に向けて書き下ろした作品だから。門脇をイメージしてあて書きした女の子が主人公なのだから、その印象がダブるのも仕方がない。やはり自分に似ていると思った?

「私個人の感想ですけど、それはちょっと違っているんじゃないかなって。尾崎さんとは、以前『ブラック・プレジデント』というドラマでご一緒して、その時は尾崎さんは監督ではなく脚本家として、作品に関わっていらっしゃたんですけど、そこで私はやっぱりちょっと変わった大人しい女の子の役をやっていたんです。多分、それを演じていた私をイメージしてあて書きをしているのであって、私にあて書きをしているわけじゃないと思います。ただ、撮影が終わってから、監督に“今度は門脇さんにはよく喋る役をお願いしたい”みたいな事を言われたので、ちょっと違ったと思ったのかも(笑)。実際、真実は私じゃなくて尾崎さんなんですよ。だから私は女版尾崎さんだと思って演じていました。ですから監督は自分にあて書きをしていたんじゃないかな。『ブラック・プレジデント』の時も、数あるキャラクターの中で、私の役が一番ご自身を投影しやすい役なんだろうなって感じていましたし。ほんと、まんま尾崎さんだと思いますよ、真実は。今回の作品に関しては、ちょうどドラマが終わって打ち上げの時に“今度映画を作りたいと思っているんですけど、一緒にできたらいいですね”という話をした時から、こういう変わった女の子の役だろうなということはなんとなく想像していました。ですから、台本を読んだ時も“そういう事だよね”って感じで、“なんでこういう役なんだろう”というのは一切なかったです。監督からは言われませんでしたが、台本を読んだ時点で、監督の分身だなって分かりましたし」

 監督の分身だとして、なぜ監督は自分の分身を女の子にしたのだろう。

「何ででしょうかね。尾崎さんは女性的な部分が強いのかもしれませんね。『ブラック・プレジデント』の時も、なんで女の子の気持ちがこんなに分かるんだろうって思いましたし、今回の作品の母娘関係もそう。母親と娘の関係って、女の人にしか分からない独特な感じってあると思うんですよ。今回母親役のYOUさんとのシーンでも、親から抑圧されて育った感じとか、そいういうのがとっても繊細で、でも皆が何となく共感できる話というか、こういう親子きっといるんだろうなって思える話だな、と思って。そこがとてもリアリティーがあると思ったし、女性的な部分が強いのかなって」
 
 門脇が演じる小沼真実は引っ込み思案で、自分の世界に閉じこもっている女の子。両親は真実が高校生の時に離婚し、父親(マキタスポーツ)と2人暮らし。思い切って始めたアルバイトもクビになり、ニート生活に逆戻り。そんな真実を心配した父親が新しいアルバイトを探してきて…という話。かなり内向的な女の子だが、役作りなどは?

「私は基本的にどの監督ともあまりディスカッションとかをしたことがなくて…。台本を読んで、顔合わせの時とかに、分からないところとか、疑問点とかありますかって聞かれるんですけど、大体ないので“ないです”って(笑)。どの作品でも役でも現場に行ってやってみないと分からない、という気持ちが強いのかもしれません。でも、いざ現場に入ってやってみて、自分では分かっているつもりでやっていたものが、出来上がりを見て、こういうシーンだったんだって事はしょっちゅうです(笑)。なんか、あまり深く考えられないんですよ(笑)。でも真実は悩みながら演じた、という感じではなかったです。あまり喋らないからといって表情で見せようという気も一切ありませんでしたし、特になにも考えずに演じた結果、今回はああなったという感じです」

 映画では真実がおそるおそる一歩を踏み出す様子のほか、父娘、母娘関係もポイントになっていると思うが、実際の門脇はどうなのだろう。

「マキタスポーツさん演じるお父さんの年齢設定は私の父と同じぐらいだと思いますが、私は父とは映画のように、隣の部屋にいながらラインで会話…とかはありません(笑)。うちはすごく仲がいいし、オープンな関係です。でも真実ちゃんとお父さんも決して仲が悪いわけじゃないと思います。年頃の娘にどうやって声をかけたらいいか分からないみたいな感じとか、若者が使ってるラインを自分も使いたい、スタンプ押したい、みたいな感じがあふれてて、なんてキュートなお父さんなんだろう!と思いながらお父さんとのシーンを演じていました。母親役はYOUさんで、過保護ゆえに娘の個性を認めない親。でも親子といえどある一定の年齢まで子どもが育った時には、1人の人間としてお互いを認め合わないと関係性は続かないですよね。どうしても親子関係って依存しあってしまうのかも知れません。それは女の子なら母親の場合で、父親はまたちょっと違うんじゃないかな。お母さんと娘、の関係はなおさら。異性より同性のほうが寄りかかりやすいのかもしれませんね。うちは母親が少し娘依存症というのはあります(笑)。でも実家を出てから風通しが良くなったと私は勝手に思っています。ある一定の距離感があったほうが、お互い一人ひとりの人間として、いろいろな話ができるようになってきた。私は子供の頃からよく母親に言われていたんです“麦の事は娘だと思ったことがない”って(笑)。友達の感覚のほうが強いような気がしますね。性格的にも全然違うからかもしれません。私は男っぽいけど、母は夢見る少女です(笑)」

 男っぽいとは意外な自己分析だが、何かきっかけがあったとか?

「小さい頃からバレエをやっていて、アスリート精神が強いのだと思います。中学校の時も、学校から直接バレエに行って、家に帰るとテレビも見ずに寝るという生活をずっとしていたので、学校でも友達の会話に入っていけなかったです。テレビ番組やタレントさんの事を話してても“何それ? 誰それ?”って感じでしたし。バレエのことで常に頭がいっぱいでしたし、話題に入れないことは辛くはなかったのですが、どんどん女の子のキャピキャピした感じがなくなっちゃった(笑)。だから男っぽいというか、アスリート精神が染みついているというか…。ストイックなのかもしれません」

 そのストイックさは、女優をやる上で…。

「とても役立っています。だから逆に、ちゃんと抜くことを大事にしないと、追い込みすぎて息苦しくなってしまうので、いかに抜くかということを大切にしています。少し前は、重たい役を演じる機会が多かったこともあり、どうしても日常生活とかにも引きずってしまって、切り替えができなかったんです。むしろ日常生活までも苦しくてなんぼだと思っていました。苦しい役をやる際に、同じ苦しみの位置に立たなきゃいけないって。じゃないと役に対して失礼だという気持ちが強くて、あえて苦しみにいっていた部分はあります。具体的には…楽しい時間を過ごしちゃいけないみたいな(笑)。今は、本当に切り替えられるようになりました。3〜4年前までは、そうやって追い込まないと自信がなかったんですよね。“私頑張っている”っていう安心感を拠り所にしていたんだと思います。でも、ポジティブな活力のほうが豊かなクリエイティブが生まれるのではないかとある時ふと気づいて。もちろん追い込んだほうがこの役は良くなりそうだなと思ったら、またストイックに追い込む時もあると思いますけど。でもそれに気づいた事でだいぶ力み過ぎず作品と向き合えるようになりました。気づいたきっかけ?…お酒?(笑)かな。今まで緩ませる行為は許せなかったから、次の日が現場の時は一滴もお酒を飲まなかったんです。次の日顔がむくんだら困るし。あと、現場中は自分を追い込むために、友達にも誰にも会わなかった。作品に入っている時は、撮影が早く終わったとしても、誰にも会わずずっと悶々と作品と向き合っていました。でもずっと稼働モードで突き進んでいたら、2年前くらいに体調を崩してしまって。それも向き合い方を見直したきっかけです。倒れてから、このやり方じゃもたないということに気がついた(笑)。そこからです。せっかくやりたいと思って始めた仕事なんだから、楽しめないのはもったいないなって気づけました。ストイックにやることがすべてじゃない場合もあるとか、体を壊したら元も子もないから、体を大事にしてあげようとか、考え方を変えました。そうしたらいろいろ良い方向に回ってきたんです。今は次の日現場があっても、お酒も少しは飲むようになりました。“今日は頑張ったね。お疲れ、自分”って(笑)。そういう時間を持てるようになったのが、自分の中では大きな変化でした」

 緩ませることを覚えて、ラクになったという門脇。気持ちに余裕ができて、また一皮むけた演技が見られそう。ところで、尾崎監督に“次はいつやるんですか?”と聞いたとか。

「はい。撮影が終わった日に言いました。尾崎監督が描く役は、『ブラック・プレジデント』の時の役もそうでしたが、何と言うか…母親心がわいてくるんです。大切に大切に、壊れちゃわないように守ってあげたくなる感覚というか。撮影をしていても、なんて可愛い役なんだろうって。本当に演じていると守ってあげたくなるような気持ちになる。尾崎さんが書くキャラクターは本当に魅力的で、私にとってどんぴしゃな女の子。多分そこにずっと魅かれているんだと思います。真実ちゃんは尾崎さんの分身だと思っていて。なので私が真実に感じている愛おしさは尾崎さんに感じている愛おしさでもあって。ほんと可愛いらしい方なんです。尾崎さんは(笑)。年齢が全然違う方にいうのもあれなんですけど、本当にチャーミングな方だと思います。だからまた仕事できたらうれしいなと思っています」

 相思相愛感がすごいですね。

「大好きです(笑)」

(取材・本吉英人/文・水野陽子)

©クエールフィルム
『世界は今日から君のもの』
7月15日(土)渋谷シネパレスほか全国順次公開【出演】門脇麦、三浦貴大、比留川游、マキタスポーツ、YOU他【監督・脚本】尾崎将也 【製作】クエールフィルム【配給】アークエンタテインメント【公式サイト】sekakimi.com