ディズニー/ピクサー最新作は“大人が泣ける”! 『カーズ/クロスロード』監督 ブライアン・フィー
“クルマの世界”を舞台にしたディズニー/ピクサーの人気シリーズ最新作 『カーズ/クロスロード』がこの夏、日本でも公開。当初はディズニー/ピクサー作品のファンや乗り物好きなキッズの心をとらえたが、しだいに世代を超えて評価を高め、最新作ではアメリカのメディアも“大人向けのカーズ!”“大人が深く共感できる”と大絶賛。ヒットメイカー、ジョン・ラセターから本作を託され、世代を超えて共感する作品を生み出したブライアン・フィー監督に大人とアニメーションの“ステキな関係”を語ってもらった。
「大人もアニメーションを自然に楽しむ日本の環境がうらやましいよ(笑)」
かつて“レースで勝つことがすべて”という天才ルーキーとして登場した主人公のカーレーサー、マックィーンも今やベテラン。多くの試練を乗り越え、レーサーとしても“人”としても成長し、仲間と栄光の日々を送ってきた。しかしそんなマックィーンにも世代交代の波が押し寄せる。最新テクノロジーを追求した次世代型の新人レーサー、ジャクソン・ストームの台頭により、同世代の仲間たちは次々と引退。そんななかレースでクラッシュしてしまったマックィーン。引退の危機に立たされながらも、再起をかけて戦うことを決意するのだが…。
「本作がアメリカで公開されたとき、これまでとは違う反応が少なくなかったんですよね」とブライアン・フィー監督。
「特に今回は、若い世代の女性たちや、中高年や引退世代の人たちから、すごく心に響いたという反応をいただいたんです。中でも印象に残っているのは、リタイアした元警官という方のお話でした。彼は勤務中に負傷して警官の仕事を続けることができなくなり、早期に引退を余儀なくされた方でした。彼は本当に警官の仕事を愛していて引退するのは本当に辛かったのだそうです。自分がこれからどうしていいのか、何をしていいのか分からなくなり自分の人生に意義を見出せくなっていたんだ、と。そんな彼は、若い世代に自分の経験を伝えること、次の世代を育てることによって心が満たされたんだという経験を話してくれました。自分の思ったことがすべて、この映画に描かれていたと熱く語ってくれたんです」
もう一人、新しくマックィーンの仲間となるのがトレーナーのクルーズ・ラミレス。最先端のトレーニング施設でマックィーンの復活をサポートする、ポジティブで元気な女性。しかし彼女もまた、壁に突き当たった過去を持つ人物だった。マックィーンの復活をサポートする旅の中で、彼女自身も大きく成長していくことになる。
「特に若い女性たちの共感を得ているのがクルーズですね。10代の女性たちからは“この映画を作ってくれてありがとう”と言われました。“クルーズというキャラクターから大きなエールをもらいました。この作品で描かれていることは、私たちにとって大きな意味を持っているんです”とね。このように前2作以上に、いろいろな世代からさまざまな反応が寄せられていると感じています。本作にはさまざまな立場のキャラクターが登場するので、いろいろな世代、立場の人に共感してもらえたのではないかと思いますね」
しかし本作は“大人向け”を意識したわけではない、と監督。
「そもそも僕らは決して子供向け、大人向けというようなカテゴリーを決めて作品を作っているわけではないんです。ディズニー/ピクサーが映画を作るときに一番大切にしていることは、何より自分が見たい作品になっているかどうか。僕らが最初の観客となって心が動かされるかどうかです。なので、こういう年齢層を想定してとか、こういうターゲット層に受けるように、といった視点で映画作りをすることはないんです。何が自分たちを楽しませるのか、どんなことから自分たちがインスピレーションを得るのかを常に考え、そこから作品を作っているんです」
一流のクリエイターたちが自ら望むものを作る。だからこそ、大人をも共感させる。本作も、徹底したリサーチを反映させた美麗CG映像に加え、実際にアメリカで行われているカーレースが登場するなど、見ごたえ満点。しかも、そこに織り込まれるのは大人もうならせる人生のドラマ。かつてない挫折を味わい、人生の岐路に立たされたマックィーン。全力で再起に挑んだ彼が、クライマックスで選択した答えとは…。それは“ディズニー/ピクサー史上、最大の衝撃”と言われるほど、ビターで、しかし最高に感動的なシーンを生んだ。
「そう、マックィーンは主人公なんだから最後はもちろんライバルをやっつけるだろう、とみんなが考えるでしょうし、僕らもみなさんにそう思っておいてもらいたい(笑)。もちろん僕らはマックィーンにハッピーでいてほしいと思っています。レースをすることがマックィーンの幸せならばそうしてほしいし、別の幸せを見つけたのならそちらへ進んだっていいと思うんです」
本作は、アスリートやカーレーサーといった人々にも大きな共感を得ているようだ。
「実際にレースドライバーたちにもこの作品を見てもらったんですが、やはり皆さん、マックィーンの気持ちがよく分かるとおっしゃっていました。実は、本作の製作のためにカーレースの現場でいろいろなプロフェッショナルから話を聞いたんですが、それに加えてスポーツ心理学者からも話を聞いたんです。彼らはいろいろなアスリートを見ていて、そういった環境にいる人々の心理状態をよく知っています。彼らから聞いた話でとても印象に残っているのは、アスリートたちが引退、とりわけケガをして引退を余儀なくされることに対してどれだけ恐怖心を抱いているかということでした。ケガによって自分のキャリアが早く断たれてしまうのではないか、とね。しかも一般的な我々と比べると彼らの引退はとても早く訪れますから、その後の長い人生をどう過ごすのか。そういった不安と彼らは常に向き合っているのです。とはいえアスリートやレーサーでなくても誰だって引退や転機への不安はあるものです。そんな岐路に立たされた時、自分ならどうするか。もちろん子供たちや若い世代にも楽しんでもらえるエンターテインメントですが、今回は特に大人や経験豊かなベテランであればあるほど人生の選択という点に共感しながら見てもらえる作品になっていると思います」
人生の経験を積めば積むほど、さまざまな視点に共感し、理解することができる。だからこそ良質なアニメーションは見る世代や層を問わないもの。
「ですがアメリカでは、大人だけでアニメーション映画を見に行くなんてことはほとんどありません。少なくとも日本のように、大人のカップルがデートで見に行くなんてことはまず無いんじゃないでしょうか。アメリカで大人にとってアニメーション映画とは“子供を連れて行く映画”です。正直に言って、大人がごく当たり前のようにアニメーションを楽しんでいる日本がすごくうらやましいですよ(笑)。でも、日本には昔からそういう土壌が根付いていますからね。電車の中で40代の会社員がコミックを広げているなんて、アメリカでは考えられませんでしたから(笑)。漫画とかアニメだから子供向けのもの、と定義づけられていないのはとても素晴らしいことだと思います。僕らは、そんな状況を変えるためにも、これからも世代や層を問わない作品作りをしていきたいと思っているんですけどね…」
多くの大人たちが本作に共感したことによって、そんな風向きも変わってくるのでは?
「そうだといいんですけどね(笑)。でも現実的に考えると、もう少し時間はかかると思います。アメリカでも20代、30代がゲームやコミックを楽しむようになってきて、それがクリエイターとして活躍してきているのが、ちょうど僕の世代なんです。つまり今後それが続けば、日本のように大人もコミックやアニメーションを楽しむ環境が自然とできてくると思うんです。今はまだアメリカの大人たちには敬遠されがちですけど、いずれ時間が解決してくれることだと思っています」
アニメーションか実写かにとらわれず“自分の見たいものを見る”日本の大人たちにイチオシの一本。
(TOKYO HEADLINE・秋吉布由子)
SROTY:活躍を続ける天才レーサー、マックィーンだったが、新人のジャクソン・ストームに敗北。さらに衝撃的なクラッシュを起こしてしまう。失意の底にいたマックィーンは仲間たちの応援を受け再起を決意する。
監督:ブライアン・フィー 声の出演:オーウェン・ウィルソン他 日本語版声の出演:土田大、松岡茉優、藤森慎吾他/ウォルト・ディズニー・ジャパン配給/7月15日より全国公開 Disney.jp/Cars-CR