長島昭久のリアリズム 第一回

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エネルギー政策のリアリズム〈その1〉

「日本で物づくり、限界超えた…」トヨタ社長の発言に衝撃が走った。福島第一原発をめぐる重大事故以来、日本の電力不足は深刻だ。菅首相による浜岡原発停止要請がそれに追い打ちをかけたことは間違いない。このまま行けば、来年5月までにすべての原発が停止に追い込まれる。つまり、あと11カ月で日本は「脱原発」を実現してしまうのだ。あのドイツでも2022年、つまり11年かけて脱原発を実現しようとしているのに!

 このことは総電力供給量の約3割が消滅することを意味する。定期点検を終えた原発の再起動ができなければ、この夏どころか向こう10年の電力供給の安定性に深刻な疑念が生じ、日本におけるあらゆるビジネスの「継続リスク」が高まる。これまで日本経済を支えてきた良質で安定的な電力供給の信頼性が失われれば、企業は海外にオペレーションを移さざるを得ず、そうなれば産業は空洞化し、技術が流出し、雇用が失われ、結果として日本人の生活が深刻な危機にさらされるだけでなく、日本の未来はない。

 このことを真剣に考えれば、短期的には火力発電をフル回転(ただし、家庭で2割、産業で4割近くのコストアップとなる)するしかなく、中期的には原発の再起動しかない。原発を再起動する際に、大事なことは、地震大国日本にふさわしい国際基準を上回る厳格な安全基準を策定し、ストレステストを徹底すること。信用失墜した原子力安全・保安院が「安全宣言」を何度やっても国民の信頼は得られない。この際、IAEAと共同で全原発のストレステストを実施し、そのテストをクリアしたものは国の責任で再稼働、改善すべきものは改善し再稼働、不合格かつ改善の余地のないものは廃炉とするしか、地元住民の納得は得られまい。

 このように、我が国の経済産業を支える良質で安定的な電力供給をどうやって確保していくかという重大かつ複雑な問題を、小泉純一郎ばりの単純な「郵政民営化、是か非か」といった議論に矮小化してはいけない。こともあろうに、そのような安手のレトリックを時の首相が煽り、解散総選挙の争点にしようとしている様は常軌を逸している。たしかに、福島であれだけ深刻な原発事故が起こった直後だ。改めて過去の地震・津波発生地図に原発立地図を重ね合わせてみれば、日本に原発を立地することの危険さが浮き彫りになるだろう。したがって、中長期的には「脱原発」であることは間違いない。発送電の分離により電力の自由化を実現して、再生可能エネルギーに思い切りシフトしていく必要がある。ただし、繰り返すが、安定電力供給という日本経済のリアリズムを見失ってはならない。

(民主党衆議院議員・長島昭久)