三浦大輔インタビュー 『おしまいのとき』で新たなる展開へ

ポツドール2年半ぶりの劇団公演『おしまいのとき』

これまで数々の問題作を発表してきたポツドールが2年半ぶり、新作としては3年半ぶりの劇団公演『おしまいのとき』を9月8日から下北沢のザ・スズナリで上演する。この間、主宰の三浦大輔は昨年5月にパルコ劇場、今年2月に青山円形劇場でプロデュース公演を手掛け、その存在感を示してきたが、やはり劇団公演は別物!! 待ってましたとばかりに、すでにチケットも完売間近!!

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撮影:蔦野裕

 今回の作品について三浦は「恥ずかしいほどの直球勝負」という言葉を使っている。

「今まではリアリティーに逃げていた感じがするんです。それは恥ずかしさを回避するためだったんですが。そういうのが自分のなかにストッパーとしてあって、それを取り払おうかなって思ったんですね。昨年パルコ劇場でやった『裏切りの街』で、リアリティーをもって芝居を進めていくといったやり方に一段落ついた感じがあって、もうそういうことはいいかなって思ったんです。だから今回は普通のドラマですし、言ってしまうとベタな展開です。ちょっとファンタジー的な要素も強いんで、そういう意味でも、作風としてはちょっと新しいものになっています」

 プロデュース公演を2本やって得たものとは?

「演出の技量といいますか、演出家としての作業の勉強になりました。それがあって、今回のようにストレートな感情を描いた作品でも演出できるだろうという確信がもてるようになりました」

 今までそういう確信がなかったというのは意外だ。

「状況を動かして、よりリアルな状況を作り込むのは得意だったんですけど、役者さんの演技でストレートに見せるということはあまりやってこなかったんですよ。今までは僕が状況を動かして、どんな台詞でも成立するように役者さんを動かしていたんですが、特に今回は役者さんの演技に頼る比重が高いんです。だから“この台詞はこういう言い方をしてください”というようなふだんとは違う演出の仕方をしています」

 演出方法が変わったということ?

「別のところに労力を使うようになったということでしょうね。前は役者さんに対して、“こんなにストレートな台詞を書いてもどうせ恥ずかしくて見ていられないだろう”という意識があったので、どうにか普通の自分たちの言葉でしゃべっても成立するような芝居にしていたんですね。それでボロが出ないように状況をリアルに作って、といったやり方だったんです。今回は役者さんに頼る比重を高くして、あえてベタな台詞をちゃんと言わせるといった演出に変えたんです。それが直球勝負の意味だと思うんです」

 いわゆる“芝居”に近い感じになる?

「今回はかっちりした芝居になります。ただ積み重ねてきたリアルさといった、根本にあるものは揺るがないので、そこはある程度リアリティーは保っています。それを利用しつつ、かっちりとした芝居を…まあ大人な芝居を作ろうかと(笑)。そこがプロデュース公演を経てきて変わったところですね。でもポツドールらしさはなくなってはいません。ただ雰囲気は変わるとは思いますよ。僕の描くものの根本は変わってはいないんですけれども、その表面的な質感とか雰囲気はちょっと変わっていると思います」

 三浦の作品を語るとき常に添えられる単語が「嫌な気分」とか「露悪的」というもの。で、今回は?

「露悪的ではないと思っているんですけど、多分…嫌悪されるでしょうね(笑)。ただテーマが重いんですね。今回は“人が終わってしまう瞬間”っていうものを描きたかった。それは何かというと、例えば、不幸が自分に舞い降りてきても人はそこで終わるのではなくて、生きていかなくてはならないと思うんです。そのとき人を突き動かしているのは何かと考えたら、理屈なんだと思ったんですね。その理屈をこねくり回して人は生きている気がするんです。自分の理屈がまだ自分の頭の中にあるうちは、人は終わらないんじゃないか、その理屈をこねくり回した末に、自分のなかでつじつまが合わなくなって破綻したときに終わってしまうんじゃないかなって思ったんですよね。今回はそれを描きたかった」

 主役の主婦がこのテーマを如実に表している。

「私はこうで、この人はこうだからこうなって、私はこういう状況だから怒ろう、そして怒る。この怒るという感情の前に理屈をこねくり回している感じがしたんですね。感情というのは実は後からなんじゃないのか。感情で動くというのは偽物で、実は理屈で人は動いているんじゃないかってことなんですよね」

 今回はナレーションが多用されている。

「表面的に見えているモノと、理屈のこね方を見せなくてはいけなくて。だから今回はナレーションが肝で描きたいところなんです。そこでこねくり回している理屈はめちゃくちゃなんです。ただ自分の中では整合性を持っていて、次の行動に出ていく。“私は不幸だからこんなことをしてよくて、この人を好きになるのは悪いことではない、で、この人が好きだから……”といった具合に、理屈を自分の中でどんどん正当化していって、そして最後にそれができなくなって、みたいな流れなんですけど」

 物語を見るときには感情移入をして見るときと俯瞰して見るときがある。ポツドールは今までは俯瞰の芝居。しかし今回は感情移入ができる芝居のようだ。

「今までのやり方を映画に例えるなら、据え置きカメラで固定した画を撮っている感じ。今回はアップも使って撮る感じなんです。状況だけではなく、ちゃんと役者さんの顔を見せる。状況が主役だったのが個々が主役になっているという違いはあるのかなとは思います。今まで俯瞰していたものが近寄ってますから、登場人物に感情移入しやすくはなりますね。“ああこんなこともやっちゃうんだ”って思う方もいるかもしれませんが、今までの演出スタイルを利用しながらそれも乗り切ろうと思っています」

 今後しばらくは劇団公演の予定がないという。

「タイトルを見て“解散公演か?”っていう人がいるんですけど、そういうわけではないんですよ(笑)。でもしばらくはないんで、今まで見たことのない人は、ぜひこの機会に見てほしいですね」

(本紙・本吉英人)

9月8日からザ・スズナリで上演開始

ポツドールVol.19『おしまいのとき』 【日時】9月8日(木)〜25日(日)(開演は19時30分。10・11・15・17・18・21・23・24日14時30分の回あり。19日(月)は14時30分の回のみ。千秋楽は14時開演の回のみ。火曜休演。開場は開演30分前。当日券は開演1時間前から受付予定) 【会場】ザ・スズナリ(下北沢) 【料金】前売 指定席4500円、前方ベンチ指定席4200円/当日 5000円 【問い合わせ】ポツドール(TEL:080-5487-3866 〔HP〕http://www.potudo-ru.com/) 【脚本・演出】三浦大輔 【出演】米村亮太朗、古澤裕介、松浦祐也、松澤匠、篠原友希子、高木珠里、新田めぐみ