鴻上尚史インタビュー 「惜しまれて、というのがいいんじゃないですか」

「ノスタルジーでやるんだったらやる意味はない」

1980年〜90年代の日本の演劇シーンを引っ張る存在であった第三舞台は2001年に「10年間活動を封印する」と宣言した。10年とは長いもので、その間のメンバーの活躍は著しく、第三舞台という名前を忘れさせるほど。いつしか「封印」という言葉を頭の中で勝手に「解散」と置き換えていたファンも多かっただろう。そんななか2010年秋、主宰の鴻上尚史が封印の解除を宣言。復活を待ち望んでいたファンを安堵させた。しかしそんな思いも束の間。年が明けて2011年春、封印解除公演である新作『深呼吸する惑星』(紀伊國屋ホール 11月26日〜12月18日ほか)をもって劇団を解散することが発表された。

第三舞台封印解除&解散公演『深呼吸する惑星』上演開始

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撮影・神谷渚

 1985年に代表作である『朝日のような夕日をつれて’85』で紀伊國屋ホールに初進出。当日券を求め劇場前に長蛇の列ができ、通路にまで座布団でお客を座らせても収容しきれなかった。社会的なブームを巻き起こすきっかけだった。やはり紀伊國屋ホールには思い入れがある。

「第三舞台をやるとしたら紀伊國屋ホールでやるのが一番いいだろうと思っていました。でも劇場は1年半〜2年前くらいには押さえなきゃいけないんですね。そのころは封印解除公演をするかどうか決めていなかったので、短い期間しか押さえられなかったんです。だからサンシャイン劇場や横浜公演をやることになりました」

 10歳年をとって変わったことは?

「筧が別のインタビューで、お客さんが“お、懐かしいな変わってないな”って見ているうちに、気がつくと “お、ここまでやるか。新しい面が出てるな”っていうふうに感じてくれたらいいねって言っていたんですが、そうであればいいなとは思います。完璧に変身することなんか不可能だけど、同窓会とかノスタルジーでやるんだったらやる意味はないと思っているので。いわゆる昔のバンドが再結成して昔の歌しかやらないということだったらあえて今集まってやる必要はない、ということです」

 役者の反応や距離感に変化などは?

「あまり感じないですね。10年を飛び越えて、昨日の続きといった感じで作れました。みんなもびっくりしていましたね。昨日の続きで作っていけることに」

 若い演劇ファンとか演劇人には第三舞台は歴史上の存在となっている。

「特に20歳前後の人にはそう思われているみたい。虚構の劇団のオーディションを受けに来た人で、僕らの芝居を見たことがなくて、大学の教科書の演劇の歴史に載ってましたっていう人がいました」

 そういう見方をしている人たち相手にどう見せるかというのは大変なことなのでは。

「それは昔からなんですけど、やっぱり基本的には自分が面白いと思うものを作るしかない。第三舞台はラッキーなことに喜んでくれる人がついてきてくれたので続けられたんですけど、いつでも“俺はこれ凄く面白いと思うんだけどどう?”って提出して “これ全然面白くないです”って言われる可能性は常にあったし、今もある。でもそれに対して、なんというか下世話な言い方をすると、顔色をうかがっていてもしようがないから、やっぱり自分たちが面白いと思うことを追求するしかない。いざ劇場に行って“どうだー!!”って提出したときに、“全然面白くありません”って言われたら、じたばたしてもしようがない」

 虚構の劇団を立ち上げるときに「プロデュース公演ではできない、劇団というものの存在価値」を上げていた。今回、虚構の劇団ではなく第三舞台でやるということは、明らかに違う何かを出さなければいけない。

「それは本当にね、役者の年齢。つまり虚構の劇団の俳優に子育ての苦労とか書いてもしようがないわけで。親であることのしんどさとかをやらせるのは無理なんです。逆に第三舞台の40代後半の人間に、ある種の自分探しの苦悩とかやらせてもね。まあ中年になってからの自分探しというのもあるにはあるんですけどね。初期の初々しい自分探しのテーマとか書いてもしようがない。劇団に書くということは座付き作家になるということですから、それが一番の違い。だから虚構(の劇団)と同じような若い俳優がいる集団とだったらどうかき分けるのかな、ということになるんだけど、第三舞台と虚構でははなから俳優の年齢が違うので全然重なることはない」

 演劇という舞台は、ここが宇宙と言ってしまえば宇宙になる。でも役者の年齢ばっかりは越えられないということ?

「それは別にいいんです。高校生だって老婆の芝居とかはできます。高校演劇とかを見にいくと老人ホームのお話とかしているわけ。できるんですけど、それはリアルな老婆ではなくて、老婆とは何かっていう抽象的な存在としての老婆なんです。だから老婆の寂しさといっても、老婆の寂しさを通じて実は10代の孤独が見えるというふうに一つ抽象度が上がってくる。だから虚構の劇団で第三舞台の脚本をやることは可能だし40代後半〜50代の脚本をやるのは可能なんだけど、それでは表現する質と中身が変わってきちゃうんです」

 今回の公演を通じて、見てほしい、見せておきたい、伝えたい部分は?

「それは作品を見た人が勝手に受け止めてくれればいいと思います。ただ第三舞台というのは昔から、帰る時に劇場に来る時よりもエネルギーを獲得してもらいたい、劇場に来る時よりも帰るときにより元気になってもらいたい、そういう芝居をしたいなと思っています。今回もそう。メッセージに関してはホントに好きなように受け取ってもらってかまわない」

 返す返すも残念な解散だ。

「でも惜しまれて、というのがいいんじゃないですか」

(本紙・本吉英人)

『深呼吸する惑星』
【上演】新宿・紀伊國屋ホール(11月26日〜12月18日)/KAAT神奈川芸術劇場 ホール(12月28〜31日)/池袋・サンシャイン劇場(2012年1月6〜9日) 【当日券】公演前日12〜14時に電話で予約受付(先着順) チケットぴあ 当日券予約専用ダイヤル 0570-02-9581 【問い合わせ】サンライズプロモーション東京(TEL:0570−00−3337)/第三舞台公式サイト(http://www.daisanbutai.com/) 【作・演出】鴻上尚史 【出演】筧利夫、長野里美、小須田康人、山下裕子、筒井真理子/高橋一生/大高洋夫ほか