ノゾエ征爾

岸田戯曲賞受賞

劇団「はえぎわ」『I'm (w)here』5月17日上演開始
演劇界の芥川賞ともいわれる「岸田國士戯曲賞」の今年の受賞者が3月5日発表され、ノゾエ征爾、藤田貴大、矢内原美邦が受賞した。29年ぶりの3人受賞だった。その中の一人、ノゾエ征爾が主宰する劇団「はえぎわ」は5月17日から新作公演『I'm (w)here』を下北沢のザ・スズナリで上演する。
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撮影・宮上晃一

 はえぎわは結成して13年。ノゾエは4月26日に行われた授賞式のあいさつで「13年は決して短くはなかった」と振り返り「重みを感じながら受賞させてもらった」と神妙に語った。ところがその頭には、なぜかソフトなパンチパーマがかけられていた。 「岸田戯曲賞というものに正面から対峙しているということを見せたかったんです」  パンチパーマがその姿勢の表れだったと? 「はい。僕なりに、がっぷり四つです」  このエピソードと「はえぎわ」という名前を聞くと、どんなイロモノかと思う人もいるだろうが、決してそんなことはない。確かに旗揚げ当初はアングラ系で際どいところを攻める作風で、そういう部分がピックアップされがちな劇団であった。しかし2010年に上演され、初めて岸田戯曲賞にノミネートされた『春々 harubaru ~ハスムカイのシャレ~』あたりから脚本を重視した作風に変わった。 「正直煮詰まっていた時期だったんですね。そして今一番したいことはなんなんだろうと考えた時浮かんだのが"自分の口から感情を吐露する"ということだったんで、自分が主役になって、一回全部吐き出してしまおうというのが『春々』だったんですね」  その次の作品『ガラパコスパコス』では老人介護の話を扱う。当時(現在も継続中)、高齢者施設にて巡回公演を行っていたことからヒントを得た。年齢が高い人にはちょっと泣ける作品だった。そして受賞作の『○○トアル風景』に続く。同作では壁にチョークでさまざまなものを書き込む手法を用いた。チョーク一本でその場を何にでも変えられるという演劇の深い可能性を表した作品。戯曲とともに秀でた演出の一本だった。 「ネタ帳には昔から"チョークで書く"というフレーズはあったんですけど、ああいう感じで小道具の代わりに使うというのは考えていなかったんです。この時は先にお話ができて、まず道具をなくしたいと思ってマイムだけでやってみたんですが、それもしっくりこなくて、書くのはどうだろうと思って書いてみたら、"こんなことも書ける。あんなことも書けるって広がっていって"かなりおもしろかったです」  そして今回のお話。タイトルが意味深。 「『I'm here』と言っているんだけど、(w)を入れることで2つの意味を持たせています。自分ではここだと言っているつもりなんだけど、ともすれば不安になるという、存在意義と居場所という2つが大きなテーマになってます」  帰国子女で引っ越しの多かった幼少期を過ごしたノゾエは「居場所」については独特の感覚を持っているようだ。 「サンフランシスコから帰ってきて兵庫、東京、横浜と移り住みました。横浜は小5の途中からなので結構長くは住んでいたんですが、あまりなじみがないんです。居場所っていろいろなとらえ方がありますよね。僕はいわゆるリアルな場所に対しての執着はあまりないんです。自分の意思と関係なく転校していたので、勝手に自分の中で場所というものに線引きをしてしまっている。昨年の大震災で、自分の土地にこだわるという事に関して考えさせられているというか、あの感覚というのは僕にとっては新鮮というか...。なので今回は関係性における居場所。それから生じる存在意義ということを書こうと思っています」  ノゾエ自身は特別意識はしていないのだが、この2つのテーマは今の日本ではとても重いテーマとなる。 「この前ニュースを見ていて、やっぱりそうなんだ、と思ったのが、震災で父母と妹を亡くして一人になってしまった大学生の男の子の1年経っての一言。"やっぱきついですよ"だったんです。持ち直してきてはいるんだけど、生の声ってこれなんだよなって思いました」  1年という時間が経って、冷静に物事を考えられるコンディションになってからこういう作品に出会えるのがいい――なんて話をしていると、ついつい湿っぽい話を予想してしまいそうだが「湿っぽいノリではない」とのこと。重そうなテーマをさらっとドライにやってのけるのがノゾエっぽい。  最後に冒頭のパンチパーマのくだりでどうしても説明しておかねばならないことがある。普通あんなことをするとウケ狙い、と思われがちだが、ノゾエの中では一切ふざけた要素がなかったという。それはノゾエの笑いに対するスタンスを聞くと納得する。 「僕の中では笑いが起こる状態というのがすごく大事なんです。冗談の気持ちで笑いを発生させたくない。あくまでみんなマジなんだけど、その姿がこっけいに見えてくるという形で笑いが起こせれば、と思っています」  今回も見終わった後に、いろいろと考えをめぐらされる作品になりそうだ。

はえぎわ『I'm (w)here』
【日時】5月17日(木)~23日(水)(開演は平日19時30分、土14時/19時。日14時/18時。千秋楽は14時開演。開場は開演30分前。当日券は開演1時間前から発売) 【会場】ザ・スズナリ(下北沢) 【料金】指定席 前売り3500円、当日3800円(学割あり)/自由席 前売り3300円。当日3600円(学割あり) 【問い合わせ】はえぎわ制作部(TEL:03-5467-4120 〔HP〕http://www.haegiwa.net/) 【作・演出】ノゾエ征爾 【出演】井内ミワク、町田水城、鈴真紀史、滝寛式、竹口龍茶、踊り子あり、川上友里、鳥島明、富川一人、山口航太、ノゾエ征爾(以上劇団はえぎわ)/金珠代、萩野肇/鈴木将一朗/笠木泉