森山未來「皆さんが想像するイメージにはならないと思います」

ロックミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』主演・森山未來
 愛と自由を求めヘドウィグは今日も歌い続ける。性別適合手術の失敗により股間に残った“怒りの1インチ(アングリー・インチ)”とともに…。1997年の初上演以来、世界中に一大ブームを巻き起こしてきた異色のミュージカルが、三上博史、山本耕史に続き、森山未來主演で公演!
撮影・神谷渚
「皆さんが想像する“ヘドウィグ”のイメージ通りのものにはならないと思います」。

 そう森山が語るとおり、今回の布陣はかつてない “ヘドウィグ”誕生を予感させる。ヘドウィグ役・森山未來×演出・大根仁という『モテキ』タッグに加え、イツァーク役には解散した伝説的バンド・ミドリの後藤まりこ。そして日本語訳詞にスガシカオ。

「皆が期待する『ヘドウィグ—』って、やっぱりジョン・キャメロン・ミッチェルなんだと思うんですよ。でも、それをコピーするというスタンスでやるつもりはないんです。2012年の日本で上演する意味を持った作品にしたいと思っています。ヘドヘッド(『ヘドウィグ—』の熱狂的なファン)にはどう受け止められるんでしょうか(笑)」

 伝説の再現ではなく“生”の物語としてやりたいんです、と森山。その目はシアター空間にも向けられる。

「僕は『ヘドウィグ—』は箱(会場のこと)の大きさを選ぶ作品だな、と感じていたんです。例えば、アーティストには合う箱と合わない箱がありますよね。そのアーティストのパフォーマンスや集客力などによって、合う箱は変わってくる。売れる前は狭い箱でやっていたけど、売れたら“この人はこのキャパシティーで収まる人じゃない”ということで、もっと大きな箱でやるようになったり。そういう意味でいうと、ヘドウィグというアーティストの世界観は巨大な箱でやるものではないと、単純に思ったんです」

 ともに成功を夢見た恋人・トミーに裏切られたヘドウィグは、パブやダイナーの片隅で歌う日々を送る。

「それがヘドウィグというアーティストの持つキャパシティーなんだと思うんです。そういう場所がしっくりくるアーティストなんですよね。だからトミーはドームで歌い、ヘドウィグはダイナーの片隅で叫ぶ。でもそれは、決してアーティストそのものの大きさや良し悪しじゃないですから。大きな箱でやれるのも1つの才能ですけど、それだけが評価されるべきことではない」

 観客にはダイナーの席からヘドウィグの歌を聞くような、ライブ感、臨場感を味わってもらいたい。そのための“しかけ”も用意している。

「東京公演ではフロントスタンディング席があるので、そこにいる人はぜひ、後藤まりこを受けとめる心の準備をお願いします(笑)。後藤さんのパフォーマンスも楽しみにしてほしいですね。後藤さんって、周りの仲間でも観客でも音楽でも、対象に対してすごく誠実なんです。例えパフォーマンスがかなり破壊的だったとしても(笑)その一途さがイツァークに重なるんです」

 そして何といっても気になるのは、森山未來=ヘドウィグ。

「それが一番問題ですね(笑)。六本木でイメージショットを撮影したんですよ、ヘドウィグの衣装やメイクをして。そこまできっちり固めた格好ではなかったんですが、それでもああいう格好をして表に立つ、ということのリスクと解放感は感じましたね。もともとメイクや衣装で何者でもない存在になっていくことに、ある種の快感を覚えたから僕もこの世界にいるわけですし(笑)」

 メイクをしてカツラを被って、美しい青年は“ヘドウィグ”となるが…。

「メイクや衣装は自分のアイデンティティーを守る鎧にもなるけど、そこにこだわりすぎても逆に自我が崩壊していくのかもしれない。結局誰でも“裸の自分”に立ち返るときがくる。そう思うと、この物語はすごく普遍的な話ですよね。この作品が、ごく普通の、いろいろな人に愛されている理由もそこにある。だから僕にもヘドウィグとなって叫ぶことができるはずだと思っています」

 身体表現の世界でも高い評価を得る、森山ならではの演出などもあるのでは?

「どうでしょうね。今の段階では、まだどうなるかは分からないことが多いですね。とにかく、ミュージカルというよりライブを見に来るような気持ちで来て頂ければ。素晴らしいパフォーマーが揃っていますし、僕のドラァグクイーン姿も楽しんでもらえればうれしいです(笑)」

 映画『モテキ』『苦役列車』に続き、先日は満島ひかりと共演するミュージカル『100万回生きたねこ』への出演も発表されるなど、話題作への出演が続く。そんな森山のドラァグクイーン姿を見ることができるのはここだけ! 2012年、森山ヘドウィグがダイナーの片隅で愛と自由を叫ぶ。
(本紙・秋吉布由子)
ロックミュージカル
『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』
作:ジョン・キャメロン・ミッチェル
演出:大根仁/ヘドウィグ:森山未來/イツァーク:後藤まりこ
訳詞:スガシカオ 
【東京公演】会場:Shibuya O-east/8月29日(水)〜9月10日(月)/チケット:7800円(指定席)+1ドリンク500円 ※フロントスタンディング4800円(整理番号付)+1ドリンク500円(各税込)
【ツアーファイナル】会場:Zepp DiverCity Tokyo/9月28日(金)〜9月30日(日)/チケット:7800円(指定席)+1ドリンク500円