人見知り芸人オードリー・若林正恭が”社会”という大学で学んだこと
オードリー若林が初エッセイを出版。人見知り、ネガティブ、じゃないほう芸人など天真爛漫な春日の陰に隠れていたオードリーの若林だがそのキャラも定着し、最近はピンでの活躍も増えている。しかしその心の中には深い闇が隠されていた。30歳からの社会人デビューに、とまどいもがいた日々を赤裸々に明かした同書について語る。
2008年にM-1グランプリで2位を獲得したことをきっかけに、下積み時代から一気に飛び込んだ大人の“社会”。最初はそこでうまく立ち回れなかったと言う。
「ダ・ヴィンチでこの単行本の元となるコラムの連載を始める前、ブログをやっていたんですけど、それを読んだ人から中2病だと指摘されたんです。まあ、確かに社会人でありながら、面倒な自意識を持っていましたから。そんな気持ちを持ったまま急に忙しくなってしまって。だから自分の中で納得できない仕事があると、態度や言葉に出てしまった事もありました。でも今は裏の部分を知っちゃったので…。それをするのに、準備にすごく時間がかかるとか、スタッフさんが徹夜をしているとか、ロケハンが大変だったとかっていうことを知ると反発もしていられないですよね。多分、初めて経験することに面食らっていたんだと思うんですけど、今はどういう状況でこの場があるのか分かるようになったのでちゃんと振る舞えるようになりました(笑)。なんか急に持ち上げられてびっくりしちゃったんでしょうね」
それは成長したということ?
「経験しただけで成長はしてないですね。性格はあんまり変わっていない。“このあと飲みに行きましょう”って言われて、以前なら“嫌です”って言って変な空気になっていたのが、“今度ぜひ”って言えるようになったぐらい(笑)」
本の中でたびたび語られる過剰な自意識や大人の世界への反抗、ネガティブ志向の根源にあるものは?
「劣等感ですね。劣等感があるから、人にバカにされているんじゃないかと思うし、劣等感があるからお笑いなんかやってるんだと思います。ちょっといいネタ書いたり、いい感じのことを本に書いたりして、なかなかやるなって言われたい自意識というか自己顕示欲も劣等感があるからでしょうね。これは生まれつきのもので、小さいころから思っていました。自分だけ注射がイヤで仕方がなかったし、自分だけ犬に触れない(笑)。他の人はできるのに自分はできないっていうことがいっぱいあったから、それが劣等感になったのかも知れないですね」
そんな若林と正反対の性質を持つのが相方の春日だ。
「僕は最初ボケをやっていたので、ツッコミも上手で回しもできるような人とやりたかったんですけど…。以前ノンスタイルの石田君とドリームマッチで漫才をやったことがあって、彼と組んでいたら2年で売れたと思いましたね。春日のせいで8年かかった(笑)。いい人間であることは間違いないですが、ビジネスパートナーとしては非常にクオリティーの低い人間だと思います(笑)。でもああいう性格だと生きやすいでしょうね。まあ、しょせん春日ですけど(笑)」
M-1グランプリで否応なしに“社会”に参加することになった若林が、中2病をこじらせている人に、この本を通じて伝えたいこと。
「今は死語になっていますけど、お金がないとか、結婚してないとか、恋人がいないとかそういう人たちのことを負け組とか言って、勝ち組じゃないと幸せじゃないみたいな風潮がありましたよね。でも1回そこから自分を切り離してみることをしておけば良かったって思うんです、僕自身が。例えば日本で年収1000万円以上の人って5%以下なんですって。そこに入ろうと思っても無理だし、そんなところを目指しても面白くない。それで負け組だと思ったらめちゃくちゃ損ですよ。人間、生まれて飯食って死ぬんだから、仕事がちょっとずつできるようになって、知り合いが増えていく。それで楽しいじゃないですか。世の中のものさしを自分にあてはめるより、自分の自己ベストを更新していくことに喜びと楽しみを置いたほうがいいと思いますね。って、僕が言うのも偉そうですが(笑)」
(本紙・水野陽子)
【定価】1200円(税抜)
【発行】メディアファクトリー