SPECIAL INTERVIEW 高良健吾『武士の献立』

さらに役幅を広げた2013年。締めくくりは“包丁侍”!

江戸時代、刀ではなく包丁で家族と藩を守った“包丁侍”とその家族の、感動ストーリーが誕生。『苦役列車』『横道世之介』と活躍目覚ましい俳優・高良健吾が、年上妻に見守られながら“包丁侍”としての生き方を見出していく武士・舟木安信役で、時代劇初挑戦!



「もともと、ずっと時代劇をやってみたいと思っていたんです」と今回の時代劇初挑戦について高良は語る。

「時代劇はやはり日本人が一番似合うジャンルだと思うし、武士や侍といった “日本の心”みたいなものは今も僕らの血の中にあると思うんです。現代からは想像もつかないことでも、この日本に実際に存在した文化ですから、演じてみたいと思っていました。ちょんまげのメイクに1時間半かかるんですけど、その間に気持ちが切り替わっていくのが自分としては面白かったです。本作に出て、また時代劇をやりたいなという気持ちが芽生えました」

 しかも本作は、いわゆるチャンバラ時代劇とは一味違う。高良演じる舟木安信は、剣ではなく包丁を握る侍なのだ。

「確かにチャンバラや斬り合いは見ていて面白いですけれども、でもそれがすべてではないと思うんです。実際には普通の人々の普通の生活もあったわけで、本作はそういう人々にフィーチャーしているのがすごく面白いと思いました。クライマックスで安信たちは、加賀の誇りを料理で取り戻すことになるんですが、相手を斬るのではなく料理という、もてなしで誇りを取り戻すという点も面白いと思いました」

 安信は、時代劇史上“最も親近感がわくサムライ”かもしれない。

「安信には子供っぽいところもあるんですが、僕には安信の気持ちがよく分かるんです。分かりやすい性格ですね(笑)。彼には他の夢があったし好きな女性もいたのに、家族のためにすべてあきらめないといけなかった。春との結婚も自分が望んだことじゃない。安信がああいう態度や行動をとる気持ちはよく分かります。一方で、思ったことをすぐ口にしたり、即行動に出たり、ある意味すごく素直。ただ、人としては分かりやすいんだけど言っていることが分かりにくい人なんですよね。素直な気持ちが100%、すらすら言葉に出てくる人ではない。言わなきゃいけないから絞り出すというか。そんなところにも安信の不器用さがよく表れていると思います。不器用さは、常にこの人の中にあると思います」

 恋に悩み夢に傷つきながらも、家族に見守られ壁を乗り越えていく安信。春との二人三脚で、しだいに料理の腕が上達していく姿は思わず応援したくなる。

「安信には、家柄なのか血なのか、もともと料理のセンスはあったと思うんです。そこに向き合わなかったからそれまで料理ができなかっただけで、春との出会いをきっかけに向き合うようになり、料理もできるようになっていった。人に対しても自分の夢に対しても、向き合うことが大切なんです」

 物語の中でも、撮影現場でも“妻”上戸彩に支えられた、と高良。

「上戸さんはやっぱりすごかった。いろいろなことを乗り越えてきた方なんだなと思います。物語の中でも安信は春に支えられていて演じた自分にとっては“いい嫁さんもらったなあ”という感じです(笑)。理想の夫婦像は人ぞれぞれですが僕にとっては“楽しさが一緒”の夫婦より“さみしさが一緒”であるほうが大切かな。それと会話があるというか、お互いに相手の話をちゃんと聞くことができる夫婦って、いいなと思います」

 共感度満点の物語に加え、新鮮な感動を与えてくれるのが、江戸時代の食文化。

「実際に料理を頂いたのですが、おいしかっただけではなく日本的な意識をすごく感じました。饗応料理は、本膳から二の膳、三の膳とあって、料理の中にちゃんと四季が表現されているんです。素材も、すごく大切にするんです。この時代、食材がすぐに買えるわけではなく、自分から出会いに行かないとならないときもある。内陸と海沿いでは出会える食材も全然違ったり。現代との違いも興味深かったです」

安信が行う“包丁式”という儀式など、多くの人が初めて知るような、和食の歴史も見どころ。

「包丁式は撮影当日に覚えたんです。朝、現場に行って3時間くらい練習して、そのまま本番をやりました。料理のほうは、撮影前から先生に教わって練習しました。僕自身、それまでほぼ料理をしたことが無かったので魚をさばくのも思ったより難しかったです。でも先生の教え方がすごく上手で、おかげで料理に対する苦手意識はなくなりました」

 今年は主演作『横道世之介』をはじめ『潔く柔く きよくやわく』『ルームメイト』など多彩な作品で存在感を見せた。

「『潔く—』の撮影が終わった後、すぐに『武士の献立』に入ったんです。15歳の役から、いきなり武士の役(笑)。でも違和感はなかったです。もちろん、一つの役にずっと集中していられればいいなと思わないでもないけど、役者というのは日々仕事として、そのときの役に当たり前に向き合っていくものだと思う」

 役者は、自分にとって趣味ではなく仕事なんです、と高良。

「仕事だと意識することは、すごく大切なことだと思うんです。役者を始めてからずっと僕は“意識する”ということを心がけています。どんなことでも常にちゃんと意識していたい。きちんと感じたい。そうすることによって、できなかったことができたりするようになるんだと思う。ずっと前から掲げているけど、いまだにできないこともあるんですけどね…それが何なのか人には言いませんけど(笑)。それを来年も“今年の目標”の1つにしていくでしょうね」
 

 刺し身をぐちゃぐちゃにしていた日々から、見事な饗応料理を完成させるまでに成長していく安信。自らの成長を求め続ける高良だからこそ、春でなくとも応援したくなる不器用で共感度満点の侍となったのかもしれない。

(本紙・秋吉布由子)



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『武士の献立』
監督:朝原雄三 出演:上戸彩、高良健吾他/2時間1分/松竹配給/12月14日より丸の内ピカデリー他にて公開 
http://www.bushikon.jp/http://www.bushikon.jp/
©2013「武士の献立」製作委員会