SPECIAL INTERVIEW 堀 潤さん『8bitNews』主宰

特定秘密保護法の下ではネットメディアの役割が増す

新しいことを進めようとすると、旧体制からやいのやいのと言われるのはどこも一緒だが、実は旧式のシステムと旧式の考え方で回っているところが多いメディアの世界は、特にそういう傾向が強いかもしれない。ウェブ上のニュースサイト『8bitNews』の主宰であるフリージャーナリストの堀潤氏は新しいメディアの在り方を根付かせるため、今日も奮闘する。



 まずはリニューアル中の『8bitNews』のことから聞かせてください。

「今回のリニューアルではデザインとシステムの変更に加えてジャーナリスト向けのクラウドファンディングの仕組みも導入して、取材費の調達といった形での支援ができる態勢を整えました。もうひとつはNPOにしたので、発信する個人の能力の底上げを目指してワークショップを開いたりしています。そのひとつの具体的な形としては、テレビ神奈川の『ニュースハーバー』というニュース番組の中でユーチューブで投稿してもらった一般の人の動画をニュースコンテンツにして紹介しています。その動画をテレビ神奈川のディレクターや記者の方がさらに取材して深掘りしていくという、ミックスした形でのニュース番組をこの秋からやっているんですが、それが一番の進歩かなと思っています」

 最近の大きなニュースだった特定秘密保護法についてはどんな考えを?

「坂本龍一さん、岩井俊二さん、森達也さん、津田大介さんなんかと作った『表現人の会』というのがあって、僕もそこで反対を表明している代表発起人の一人なんですが、一番の問題点は反対の声を上げている人の中で、どれくらいの人が特定秘密保護法の条文を読んだことがあるかということなんです。毎晩1時からニコ生で『ネルマエニュース24』というニュース解説番組をやっているんですが、リアルタイムでアンケートを取ったら7割の人が“読んだことがない”と答えたんです。僕はそこが問題の根幹なのではないかと思っています。それは、反対という意見が多い時には反対に流されやすいし、逆に賛成という意見が多い時には賛成に流されやすい。結局、根幹を見ずに、空気によって支配されているということですから。僕はこれは賛成反対どっちであろうと良くないことだと思うんです。実際、特定秘密保護法については、もとを正せば10年近く前からその法律の存在の議論は始まっているわけです。ここに来て急に、“議論がされてないじゃないか”とか“国は何をやっているんだ”とか批判する我々国民側のスタンスも問われていたんだということが最大のメッセージかなと思うんです。保護法そのものはやっぱり不備はたくさんあって、今年の6月に決められた国際的な指針であるツワネ原則にも準じていないし、そもそも第三者機関の設置は必要だといわれながらも、政府が具体的な案を示すのが12月5日、会期末を翌日に控えた日で、それをもって採決ですから議論が足りないという批判はその通りだし、僕もそれは問題だと思います。ただ、もう一つ問題なのは、本丸は日本版NSCだったので、僕なんかはネットメディアの中で “日本版NSCが根幹で、これを運用するための特定秘密保護法だから、こっちの特定秘密保護法の前に日本版NSCのことをみんな知って、どういうものなのかということを考えなきゃいけないと思います”ということを結構言っていたんですが、それについては国民もメディア側もさほど注目していなかった」

 当然8bitNewsにも影響しますよね。

「逆に役割が増すのではないでしょうか。僕らのような“ネットメディアもあります”、というところは実はそんなに恐れることはないと思うんです。情報は止められないですから。逆に潜っていったら、潜った情報は出し先を探すので。インターネットのようなものは潜りやすいですし、出しやすいですね。一番出しにくくなるのはやっぱり組織でやっているジャーナリスト集団ですね。サラリーマンとしてやっている人は、逮捕されるということには恐怖心があるので、今にも増した自主規制の嵐といったことが起きていくんじゃないかなと思うんですね。なので、マスメディアの生き残りとしては2つ方法があると思うんです。ひとつは“別に逮捕されてもいい”と思う強者のジャーナリストをちゃんと養成して抱えられるかどうか。でもそういう人材はそんなにはいないので、これはなかなか非現実的だと思うんです。二つ目はやっぱりネットメディアを構えるということ。それも自分たちの編集権とうまく切り離す形で。“あそこはネットですから”と言えるようなグレーゾーンを設けながら出し先をひとつ持っておくということでしょうね。それ以外にこういう情報が厳しくなっていくなかで、マスコミが生き残る手段はないと思うんです」

 堀さんは11月28日に『変身 Metamorphosis メルトダウン後の世界』という書籍を出版した。同書は堀さんが作った同名映画を書籍化したもの。NHKから上映禁止が通達され、「ならば書籍で」となったのだ。

「編集町の亀井さんという方が僕に声をかけてくれたんです。亀井さんはいろいろな原発関連のテーマの本を手掛けてこられていたので、多分、個人の思考としても“伝えなければいけないことがある”という思いがあったんだと思います」

NHKをやめた後、映画も上映できるようになった。映画では福島第一原発に関するさまざまな映像が使われている。

「これもよく言う話なんですが、東京電力のホームページでは第一原発関連の映像と画像が著作権フリーで完全開放されているんです。“東電は情報公開していないじゃないか”という人も多いんですけれども、実をいうとインターネットを使うと入手できるものはたくさんあるんですよ。そういう話をすると、“えっそうなの?”となる。やっぱり空気で、“東京電力=情報隠ぺい。だから我々は情報を知らない”といった単純な構図の中でいろんなことを見ている人が多いってことを実感するんですよね。みんなも自分自身で得られるものはたくさんあるんですっていうことを伝えたかったんで、あそこの映像を使ったんです」

 3.11がなかったらどんな人生になっていたのだろうか?と尋ねると「僕の最大の目的はNHKをいい公共放送にすることで、その思いは組織を出た今も変わらない」という答えが返ってきた。となると堀さんがやらなければいけないことはたくさんありそう。来年も堀さんの動きからは目が離せない。(本紙・本吉英人)



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堀さんが今年一番印象に残ったニュース「IRID」とは…!?

「原発関連なんですけど今年の8月にIRID(国際廃炉開発研究機構)というグループができました。これは資源エネルギー庁、経産省、東電、その他の電力会社、さらには原発関連のメーカーや研究者たちで作ったものなんですけど、そこは国内外の民間の研究者たちから技術提案を受けつけるための窓口になる機関なんです。それが立ち上がって今年の10月に説明会を開いたんですが、海外のベンチャー企業や国内の中小企業など国内外から70社以上が参加しました。そこには現状を改善する技術を持っている人たちもいて“なんで早く言ってくれなかったんだ”っていう声が上がっていたんです。僕が原発の取材をしているときにも思ったんですが、イデオロギー対立による賛否にばかり目がいって現場が抱えている課題に目が向いていない。原発が長期的に見て、否であることは僕も間違いないと思っているし、そのために活動している、という思いもあるんですけど、今ここでイデオロギーを戦わせる前に、福島の人たちや福島が抱えている現状や、日本の原発が抱えている現状というものを改善する実効策を出し合わないといけないと思うんです。そのためには情報を公開して、世界中の英智を結集させて収束させるということをやったほうがいい。IRIDでは10月から12月までは汚染水対策の技術提案をやっていたんです。1月からはいよいよ、デブリといわれる、溶けて落ちてしまった燃料の回収に関する技術提案を始めるんですね。非常に重要なミッションを請け負っていると思います。これが立ち上がったということは僕はこの一年でみても、結構いいニュースだったなと思うんです。ただしIRIDと検索していただければ分かると思うんですけど、このニュースを伝えているところがほとんどないんですね。最近でいうと日刊工業新聞だけです。8月に組織ができたときにメディアが何社か書いているんですけど、10月の説明会のときに呆然としたのは、テレビ局が1社も来ていないんですね。なので世の中の人はIRIDのことなんてほとんど知らないです。だから僕はしつこくIRIDの取材や経過を注目していて、発信しているんです。僕はこの取り組みがちゃんと続いていけばいいなと思ってみているんですが、失敗するのかもしれないのかなとか、結局作っただけで終わるのかな、という懸念もあるので、そうはさせませんよという意味も含めて、見ていこうと思っています」