SPECIAL INTERVIEW 二階堂ふみ
榎屋克優による究極のロックコミックを『SR サイタマノラッパー』の入江悠監督が映画化。トップアイドルと運命の出会いを果たしたヘタレロッカーが、世界を変える!? 主人公の運命を大きく変えるカリスマ的アーティスト・宇田川咲役は、いま日本映画界が最も期待する女優・二階堂ふみ。そのロックな素顔に迫る。
二階堂ふみ最新主演作で相手役が全裸に!?
「東京は人がいっぱいいるところが好きでもあり、嫌いでもありますね。いろいろな人との出会いもあるぶん、人ごみはちょっと苦手」
沖縄のフリーペーパー『沖縄美少女図鑑』でデビュー。役所広司の初監督作『ガマの油』で映画デビュー。以降、ヴェネツィア国際映画祭で新人賞を受賞した園子温作品『ヒミズ』や、36回モスクワ国際映画祭で最優秀作品賞を受賞した熊切和嘉監督『私の男』など国内外で高く評価された作品で難役を演じてきた。現在、20歳という若さながら、同世代の女優の中でも一味違う存在感を感じる女優だ。
そんな彼女の最新作『日々ロック』がいよいよ公開。野村周平演じる主人公、童貞ヘタレロッカーの日々沼拓郎が、カリスマ的な人気を誇るデジタル系トップアイドル・宇田川咲と運命の出会いを果たし“宇宙一”の歌作りに挑む…。一見、青春ストーリーだが、ときに過激で迫力満点なライブシーンも大きな見どころ。音楽ファンからも熱い注目が注がれる作品だ。拓郎率いる〈ザ・ロックンロールブラザーズ〉は“全裸”“流血”といったアングラ系バンドのテイスト全開。さぞ戸惑ったのでは…と思いきや二階堂本人は、むしろけっこう楽しんでいたらしい。
「全裸といっても、野村さんはちゃんと前張りしてるので(笑)、その場にいても別に平気でしたし。ただ、すごくいい体過ぎてモテないように見えなかったけど(笑)。以前〈忘れらんねえよ〉というバンドを見に東高円寺のライブハウスに行ったことがあるんですけど、そこにとんでもないバンドが出ていて。もうパフォーマンスが過激で、拓郎の全裸どころじゃないんです(笑)。それで、あちこちでああいうの嫌いって言い続けてたら、それが本人たちの耳に入ってしまったらしく。でも別の映画の現場で出会ったら、すごくいい人たちで和解することができました(笑)」
ちなみに〈忘れらんねえよ〉は劇中で〈ザ・ロックンロールブラザーズ〉が歌う『今夜今すぐに』という印象的な楽曲を提供している。
映画初主演作を手掛けた入江監督との再会
劇中で見せる歌いっぷりもさることながら、二階堂の言葉からは、咲や拓郎に通じる音楽愛が伝わってくる。そんな音楽への興味が本作出演のきっかけに?
「実は内容以前に、入江監督の現場に行きたかったんです。もちろん脚本を読んでからお返事をさせていただいたんですけど、気持ちとしてはお話をいただいたときからやりたい、と思っていました。入江監督の『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』で初主演をさせていただいたときから、またいつか監督の現場に立ちたいと思っていたし、恩返ししたいとも思っていました。今回、やっとその機会を得ることができたかな、と」
彼女の中で入江監督の存在とは。
「すごい才能とカリスマ性を感じる人です。といって現場で大きな声で指示するとかではないんです。静かに現場を動かしていきながらも、ちゃんと現場に音楽を生み出すことができる。今回の現場で、改めて入江監督のすごさを再確認させられました。作品の規模は関係なく監督ご自身の個性は昔から変わらないし、揺るがない姿もかっこいいと思います」
二階堂から見た、普段の入江監督とはどんな人物?
「普段はすごいシャイなんですよ。初めてお会いしたころは、なかなか目を合わせてくれないし笑ってもくれなかったんですけど、今ではしっかり目を合わせてくれます。私も“ジャイアンみたい!”って抱きついたりお腹を触ったりして、すっかり仲良くなれました(笑)。監督は“やめろよっ”って言ってましたけど(笑)」
そんな念願の再タッグで彼女が演じたのは、日本中を魅了するデジタル系アイドル・宇田川咲。実は素顔は酒乱な乱暴者。酔っ払って入り込んだライブハウスでザ・ロックンロールブラザーズの演奏を見た咲は、大暴れしたあげく、名曲『雨あがりの夜空に』を熱唱し、観客の心を鷲づかみにしてしまう。
「咲は、アーティストという夢に到達したように見えて、実際は夢を見失ってしまった子だと思うんです。大きなステージにあがっていても、もともとは友達とバンドを始めたのに自分だけがソロデビューをして違う次元に行ってしまった。今いる場所に初めから行きたかったのかというと、そうだったわけでもない。そこが拓郎と咲の大きな違いですね。とはいえ、咲はプロのアーティストとして大観衆を魅了する存在なので、その説得力は絶対に必要だと思い、役作りのうえでも重視しました」
個性派バンドが集結したロック映画のアイコンとして
音楽好きでもあるだけに、彼女が歌うシーンは実にリアルで鮮烈。
「ライブハウスのシーンはすごく大変でしたし、辛かったです。練習時間もほとんど無く、それでもトップアーティストとしてのパフォーマンスを見せなければいけなかった。それに、音楽アーティストと俳優との壁をつくづく感じたんですよね。俳優としてそこに近づく努力はできますけど、本質的にはまったく違うわけですから。音楽の才能を持つ人というのは、もともと内にあるものが違うんだろうな、と。この世界にはいろいろな人がいて、だからこそ面白いんですけどね」
それは、演じる人物の本質を見事につかみとる二階堂だからこそ、よけい感じた辛さだったのかもしれない。本人は大変だったと語るが、カリスマ性とスペクタクル感にあふれる咲のステージは、本作の中でも必見のシーン。
「あれは楽しかったですね。大観衆からあんなに黄色い声援を浴びたのは初めてでしたし、気持ち良かったです。いい思い出になりました(笑)。コンサートのシーンは本当に大がかりで、ダンスもあったりして大変ではあったんですが“アーティスト・宇田川咲”という作り込まれたものを演じるのは、それほど難しくはなかったんです。逆に難しかったのは、拓郎のライブに乱入した咲が『雨上がり−』を歌う場面。作られたアイドルではない、本当の咲を表現しなければいけないという難しさがありました」
だからこそ咲の私服を二階堂本人が選ぶほど、こだわった。
「咲の私服のスタイリングは全部自分でやりました。衣装も自分で借りたんですよ、知り合いのスタイリストさんにお願いして。それで監督と相談しながら決めていきましたね。咲がまとう、一つひとつのアイテムに重みを持たせたかったんです。咲がなぜこの服を着ているのか、なぜこの音楽を聞いているのか。それが一番、表面的に表れるのがやっぱりヘアメイクと服なので、そこは本当にこだわりました。髪だけでなく眉毛の長さも変えたり。そういうことが、宇田川咲というキャラクターを見せるのに効いていたと思います。重視したのは、高いブランド服を着ているとかではなく、とにかくオシャレであること。咲は、この作品のアイコン的な存在でなければならないんです。かわいくて、でも台風のように激しくて、人を引き付けるカリスマ性を持っている。咲がセンスの無い服を着ていたら、その説得力がなくなってしまいますから」
演じる以上は説得力を持たせる。そのために自ら衣装にもこだわる。
「どんな作品でも、ヘアメイクと衣装は大事ですね。まずそこで演じる役の気持ちを作るので、そこで納得がいかなかったら、良いお芝居につながらないですから。もともと私、いかにも“大人から見た女子高生”みたいな演出に、すごく違和感を感じるんです。例えば、80年代の高校生を演じる役者の“聖子ちゃんカット”がちょっと違っていただけでも、その時代をリアルに生きてきた人は、すごい違和感を感じると思います。現在の女子高生を演じるなら、実際の女子高生が違和感なく見ることができなくてはいけないと思う。“こんな女子高生いないよ”と女子高生から言われてしまうようではいけない。だから私は、役者も監督や衣装さんと一緒に、徹底的に作るべきなんじゃないかなと思うんです。それはもちろん監督の演出に沿うためであって、監督が考えているキャラクターを表現するならこういう服はどうですか、と提案をしていきたいということなので、意見が食い違うことはありません。『地獄でなぜ悪い』のときには園子温監督と一緒に109にある大好きなd.i.a.というギャルブランドの服を買いに行ったんですよ。楽しかったです」
撮影現場にいるのが楽しい。だからこそ彼女は逸材の女優として注目を集めながらも、自分は作り手の1人に過ぎないと言い切る。
「スクリーンに映る映らないは関係ないんですよね。スタッフはみな同じラインにいて、それぞれの仕事をしながら一緒に一つのものを作るという気持ちが大事だと思います。芝居一つにしても相手がいてできる物ですから、自分1人で作り込んでも意味がないんですよね」
ヘタレだけれど、どこまでもロックを愛する拓郎の前では、素の自分を出すことができた咲。二階堂ふみの“素”とは…?
「けっこう、言いたいことを言うナチュラルな人間に見られがちなんですけど、意外と自分の言動をちゃんと考えているんです(笑)。友達といるときは、本当にくだらない話ばかりしていますけどね。自分の美学を語るより、くだらない話を楽しくできる人が好きなんです(笑)」
一作品ごとに驚きを与えてくれる女優・二階堂ふみ。本作では彼女のカリスマ性を、役と重ねて見てみるのも面白い。
(本紙・秋吉布由子)
監督:入江悠 出演:野村周平、二階堂ふみ他/劇中曲提供:黒猫チェルシー、The SALOVERS、滝 善充(9mm Parabellum Bullet)、DECO*27、爆弾ジョニー、細身のシャイボーイ、ミサルカ、忘れらんねえよ/1時間50分/松竹配給/11月22日より全国公開 http://hibirock.jp/http://hibirock.jp/