『満願』著者:米澤穂信

 第27回山本周五郎賞受賞の米澤穂信の『満願』。人を殺め、静かに刑期を終えた女の本当の動機に迫る、表題作にもなっている『満願』含め全6編の短編で構成されたミステリー。長らく交番勤務の警察官・柳岡の交番に警察学校を出たての川藤が配属された。何がというわけではないが、その川藤にどこか危なさを感じる柳岡。報告書もそつなく提出し、前向きに仕事に取り組んでいるのだが、感じる違和感。しかし柳岡は、過去の苦い経験から、それを掘り下げて、川藤を厳しく指導することができなかった。そんな時、川藤は短刀を持って立てこもった男に殺されてしまう。職務遂行を賞され、二階級特進となった川藤の葬式で、柳岡は思う。“あいつは所せん、警官には向かない男だった”と。殺された現場を見てもなおぬぐいきれない違和感。遺族を訪ね、その兄と話しているうちに、その正体がぼんやりと見えてきたのだが…(「夜警」)。など、切実に生きる人々が遭遇する6つの奇妙な事件。じわじわと感じる不快な違和感は、やがて思いもよらぬ方向へ向かい、ずるずるとワナに落ちていく。行ってはいけないと分かっているのに、何かにおびき寄せられるように…。そして、読者がそこにある謎の正体が分かった時、さらにどんでん返しの驚愕の結末が待ち受ける。2015年版「このミステリーがすごい! 」、2014「週刊文春ミステリーベスト10」、2015年版「ミステリーが読みたい!」ですべて第1位を獲得。2014年のミステリー年間ランキングで3冠に輝いたミステリー短編集の傑作集。



『満願』【著者】米澤穂信【定価】本体1600円(税別)【発行】新潮社