江戸瓦版的落語案内 Rakugo guidance of TOKYOHEADLINE 本膳(ほんぜん)
ある村の庄屋の家で祝言が行われた。村人たちが祝いに一同で贈りものを送ると、その返礼として、村の主立ったもの36人が、宴会に招待された。そこではご馳走が振る舞われるということだったが、誰ひとりとして本膳の正式な作法・礼式が分からない。困った村の衆は、村長さんの前で恥をかくぐらいなら…と夜逃げの相談までする始末。するとあるものが「手習いの師匠なら、きっと正式な作法をしっているはずだから、教わりに行こう」と提案、師匠の所へ。
師匠は「今夜中にひとりひとりに教えていたら間に合わない。しからば、私が上座に着くので、私を見て、逐一私がやることを真似れば大丈夫。ただし、羽織はきちんと着ていくように」とアドバイス。それならば簡単だと安心して帰路へついた。そしてあくる日、師匠がお辞儀をすればお辞儀をと、師匠の一挙手一投足を見つめる36人。いよいよ本膳のお椀が出てきた。その蓋を師匠があける。すると村人も一斉にあける。師匠が一口飲み込むと、村人も一口飲み込む…。「ん?お前、一気に全部飲んだらダメだよ。一口だよ、一口。お椀の中へ戻せ」と少しの違いもなく真似ようとする。次に平椀が出てきた。蓋を開けると、中身は里芋の煮っ転がし。
しかも箸が塗り箸だったので、ツルツルしてなかなかつかめない。「エイっ」と持ち上げると運の悪いことに箸が滑って、膳の上に転がり落ちた。それを見た村人も、箸で里芋を外にコロコロ。ようやくその騒ぎがおさまったかと思うと、今度は師匠がうっかり鼻の頭にご飯粒を2粒くっつけてしまった。するとまた一斉に鼻の頭にご飯粒をくっつけだす。「おい、師匠は2粒くっつけてるんだよ。お前のは5粒あるじゃねえか」「本当か。じゃ、3粒食っちまおう」とまたもや大騒ぎ。師匠は「違う、違う。今のは作法じゃない」と言っても騒ぎに紛れてその声は届かない。“やめろ”の合図のつもりで、師匠、隣りの男の脇腹をゲンコツで突っついた。すると隣りの男、「変わった礼式だな」と言いつつ、その隣りの男に同じようにコツン。「痛てて、何するんだこのやろう! 本膳の礼式でこれを隣りに回すのか?」ということで、次々と隣りの人の脇腹をコツン。最後の36人目が「いよいよオラの番だ。思いっきり突いてやろう」と思って隣りを見ると誰もいない。
「先生、この礼式はどこへやるだ?」