城田優 名舞台『エリザベート』が新演出で3年ぶりに再演
熱烈なファンを持つ人気のミュージカル『エリザベート』が、2000年の東宝版初演から15年目の今年、新たな幕開けを迎える。2010年に史上最年少で黄泉の帝王・トートを演じ、文化庁芸術祭新人賞を受賞した城田優が、再びのトート役でさらなる高みを目指す!
「もともと性格がポジティブなので、プレッシャーがかかる状況でもピリピリしないほうですね。最近はさすがに落ち着いてきましたけど、元気すぎる、と叱られることはよくありました(笑)」と、早朝からの取材にも関わらずたっぷりの笑顔で応えてくれる城田優。本人はサラッと言うが、彼は今、熱狂的なファンを持つ名作ミュージカル『エリザベート』に向け全力投球している真っ最中。同作は、動乱のハプスブルク帝国を舞台に、黄泉の帝王・トートと皇后・エリザベートとの禁じられた愛を描いたストーリー。前回、同作初参加した際には史上最年少でトート役を演じ、第65回文化庁芸術祭・演劇部門で芸術祭新人賞を受賞。大きな実績を残したことが、かえってプレッシャーになっているのでは、と思いきや「今振り返っても、課題だらけの芝居だったと思いますよ」と過去の自分をバッサリ。
「賞もいただき、評価もしていただきましたが、本当に最高の芝居だったかというと決してそうじゃないと思っています。課題だらけ、不安だらけで、とにかくがむしゃらにやっていただけ。ただ、そのとき1度限りの出演だと思っていたので、当時の自分のすべてを出し切ったのは確かです。そこを評価していただいたんだと思っています」
この5年の間に、再演の話が浮上したこともあったという。
「でもそのときには、2010年のとき以上の芝居ができるとは思えなかったんです。今回、再出演させていただくことになったのは、この5年で培ったことをやっと生かせるんじゃないかと思えるようになったからなんです。それとやっぱり、もう一度見たい、と言ってくださるファンの方の気持ちに応えたいというのも、大きかったです」
かくして再びトートに挑むことになった城田だが、実は2010年の段階で彼はすでにトートの明確なイメージをとらえていた。
「黄泉の帝王であるトートは“死”を表す存在でもある。燃えるように情熱的なエリザベートと対比して“氷”のイメージで役作りをしたんです。触れると、熱ではなく冷たすぎてやけどするようなイメージです。それで、死の象徴であるトートの余裕を表そうと、大ぶりな動きを極力控えて演じたんですが、お客様にうまく伝わらないこともありました。自分の中では、静の演技を目指したつもりだったんですけど、それを観客にしっかり伝える力が、当時の自分にはまだ無かったんでしょうね。演出の小池修一郎先生にも“城田さんのイメージは、まさにその通りだと思う。でも実際に動かずに、それを観客に伝えるのはすごく難しいことですよ”と言われていたんですが、実際やってみたら、本当に難しかったというわけです(笑)。賞もいただきましたし、僕の役作りが間違っていなかったといえるかもしれないけど、足りない部分は確かにあった。それに自分で気づいている以上、表現者として高みを目指したいですよね」
その高みに向けて “がむしゃら”もさらに度合いを増しているよう。
「 “氷”のイメージは前回と同じですが、今回は静と動を上手く取り入れて、奥行きのある演技で、よりトートを丁寧に表現していきたいと思っています。動の部分では、トートがダンスする場面が増えているのも見どころですね。ダンスの振り付けも、トートならどう動くかということを一つひとつ自分の頭で考えながらやっています。ヘアメイクや衣装なども、また新しくなっています。髪は、前回の青みがかった髪からイノセントな銀髪になっています。メイクも前回と比べると控えめで、より男性的な要素が引き立っていると思います。前回は下地から最後のラメまで15工程ほど、自分で1時間かけてやっていたんですけど、今回はメイク時間が劇的に減って助かっています(笑)。もともと僕は、もっとシンプルにトートの神秘性を表現してみたいと思っていたんです。黄泉の帝王にアクセサリーとかネイルはそんなに必要ない気がするし、髪型も海外版のようにトートが短髪でもいいかもしれない。そもそも自分がこういう容姿ということもありますけど(笑)、素のままでもトートを演じてやる!という気概を持っていたいんですよね」
その気概は、俳優・城田優の根幹をなすものかもしれない。
「今回は新装版ということで、役者陣も30代が中心。これまで先輩たちが素晴らしい舞台を作って来たように、僕らも自分たちの『エリザベート』に挑まなければいけないと思っています。用意された材料をレシピ通りに作るのであれば、誰が作ってもほとんど同じものができてしまう。僕は、調味料から材料から調理法まで、できれば自分で考えたい。役を演じるときは基本的にこういうスタンスなんですけど、とくにこの役に関しては思い入れも強いので、一層そう思いますね」
昨年はショートフィルムの監督を手掛けるなど、クリエイターとしての才能も発揮し始めている。となると今後の夢は…?
「舞台でも作り手側をやりたいというのはありますね。映画、ドラマ、舞台とさまざまな経験をさせていただいて、一緒に何かを作りたいと思う仲間もたくさんいます。普段、役者目線で見ているものを、作り手側から見たらどれだけ、どんなところが難しいのか、学んでみたい。本当に大変だと思いますけど、その先にあるものを見てみたいんです。そしていつか、自分で音楽や物語を作ってミュージカル作品をゼロから作ってみたいというのが夢なんです。『エリザベート』のように世界中で繰り返し上演される作品になるかは分かりませんけど(笑)」
確かに演出家や役者ごとの違いを楽しむファンも多く、それだけに新演出の本作も注目必至。高い目標を掲げることを恐れない城田は、いつかその高みにたどりつくはず。(本紙・秋吉布由子)