演出の妙を感じさせる2作品

オフィスコットーネプロデュース『人民の敵』

『人民の敵』は1882年にイプセンによって描かれ、日本ではそれほど上演されていない作品。

 イプセンの作品は日本では『ペール・ギュント』『人形の家』といったところがなじみ深いのだが、現状に対して批判的な目を持ち、疑問を呈するような種類のものが多く、観客に常にさまざまな波紋を投げかけてくる。

 この『人民の敵』はノルウェー南部のとある温泉町が舞台。湯治場の専門医が観光の目玉である温泉が廃液で汚染されていることを発見する。給水パイプの引き直し工事を進言するが市長は温泉委員会の委員長を兼任しているため公共の経済を優先し、その訴えを聞き入れようとしない。ついに自己の利益と野心に燃えるあらゆる階層の人々を巻き込んで、町をあげての集会が始まる、というお話。

 作品では「絶対多数」が本当の正義なのか?といったことが問われてくる。なにやら昨今の日本の政治状況を映し出しているようで興味深いところだ。

 今回は演出に2014年の読売演劇大賞・最優秀演出家賞などを受賞し、いま最も注目を集めている演出家といっても過言ではない森新太郎を起用。サスペンスあり、笑いありのこのエンターテインメント作品をどう料理してくれるのか。

【日時】8月21日(金)〜9月2日(水)(開演は月金19時、火13時/19時、水木14時、土12時/18時、日は23日13時・30日14時。25日休演。開場は開演30分前。当日券は開演1時間前)【会場】吉祥寺シアター(吉祥寺)【料金】全指定席 一般前売・当日4000円/お得チケット 前売・当日3500円(21、24、26、27、28日の5ステージ限定)/シードチケット(25歳以下)前売・当日共3000円(平日公演のみ。枚数限定。オフィスコットーネのみ取扱。受付にて年齢確認有り)【問い合わせ】オフィス コットーネ(TEL:03-3411-4081[HP]http://www5d.biglobe.ne.jp/~cottone/)【作】ヘンリック・イプセン【翻訳】原千代海【構成・上演台本】フジノサツコ【演出】森新太郎【プロデューサー】綿貫凜【出演】瀬川亮、山本亨、松永玲子、有薗芳記、加治将樹、青山勝、塩野谷正幸、若松武史、宮島健 他

OFFICE SHIKA PRODUCE『竹林の人々』

 このOFFICE SHIKA PRODUCEというのは劇団鹿殺しの作家である丸尾丸一郎が、自らの脚本・演出で、劇団の枠には収まらない作品を創作するために立ち上げたプロデュース公演。

 2014年1月にはその第1弾としてミュージシャンのCoccoを主演に迎え『ジゼルの事情』を上演。初舞台となるCoccoの秘められた才能を引き出し、大きな話題となった。8月の第2弾では鳥肌実、森下くるみ、ISOPPといった異ジャンルで活躍するアーティストとの共同製作と、さまざまなチャレンジを展開している。今回はその第3弾。
 この『竹林の人々』の原案は、公演と重なり発表できなかったのだが、丸尾がある雑誌に依頼され書いた短編小説。

 その内容は大阪の下町の旧家に生まれた主人公の少年の閉塞感、兄に対するコンプレックス、学校生活の敗北感などを描いた私小説。徐々に歪んでいく主人公の少年の心が時に色鮮やかな青春物語として、時にドブ川のようにドロドロと描き出されている。

 私小説というと、語り部は「私」となるのがポピュラーだが、この作品は「私」ではない、ある別の存在の目線で語られる。ひょっとしたら作家自身の照れもあるのかもしれない。しかし第三者の視点が入ることで、主人公の人格が多面的に表現され、また物語が過剰にセンチメンタルになることが回避され、逆に感情移入しやすい形となっている。

【日時】7月30日(木)〜8月9日(日)(開演は平日19時、土14時/19時、日14時。月曜休演。開場は開演30分前。当日券は開演1時間前)【会場】座・高円寺1(高円寺)【料金】全席指定 一般4900円、学生3500円(劇団のみ取扱)【問い合わせ】オフィス鹿(TEL:03-6804-0064[HP]http://shika564.com/chikurin/)【作・演出】丸尾丸一郎(劇団鹿殺し)【音楽】入交星士×オレノグラフィティ【出演】鳥越裕貴、小澤亮太/橘輝、坂本けこ美、有田杏子、丸尾丸一郎/美津乃あわ、オクイシュージ