江戸瓦版的落語案内 Rakugo guidance of TOKYOHEADLINE 幇間腹(たいこばら)
落語の中には、粗忽、ぼんやり、知ったかぶりなどどうしようもないけど、魅力的な人物が多数登場。そんなバカバカしくも、粋でいなせな落語の世界へご案内。「ネタあらすじ編」では、有名な古典落語のあらすじを紹介。文中、現代では使わない言葉や単語がある場合は、用語の解説も。
家が金持ちであることをいいことに、ありとあらゆる道楽をしつくした若旦那。いろいろなことをやり尽くして、何もすることがなくなった。その結果「道楽ばかりをして過ごすのではなく、料簡を入れ替えて、これからは人のためになることをしていこう」と妙な改心。そこで、医者は無理だが、鍼なら簡単だろうと、早速鍼の先生に弟子入りした。最高級の鍼を揃えたはいいが、毎日毎日枕と畳を相手に練習の日々。根が飽き性な若旦那、生きているものに打ちたくなった。そこで猫に鍼を打とうとしたら、逆にこっぴどく引っかかれる始末。そうなったらもう人体実験がやりたくて仕方がない。そこで思い出したのがなじみの幇間の一八。いつも「若旦那のためならたとえ火の中水の中」なんてヨイショをしてくるあいつなら、少し金を渡せば鍼を打たせてくれるだろうと思いついた。
「おう、一八、俺の一生の頼みを聞いてくれるか」
「そりゃもう、旦那のためならこの命だってを差し上げます」
「本当だな。実は今鍼に凝っている。打たせてくれ」
「ほお、鍼に…。それで打ったことはあるんですよね。えっ? 枕と畳? 生きているものは猫!? それはいけません、若旦那。いくら若旦那の頼みでも、それだけは勘弁してください」。
しかし、鍼1本につき、10円の祝儀と羽織をやるということで、強引に打たせてもらうことに。一八はブルブル震えながら「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」と唱えながら布団へ。それでも嫌がる一八の腹に若旦那が鍼をぶすり。あまりの痛さに絶叫して悶絶していると、鍼が折れて腹の中に入ってしまった。慌てる一八に若旦那「こういう時は“迎え鍼”といって、もう一本近くに打つと、その鍼が行方不明になったお友達の鍼を迎えにいって、一緒に出てくるから大丈夫」と言ってさらに鍼をお腹にさした。
しかし、その鍼もどこかに行ってしまい「おかしいな、ではもう1本」。一八の腹はもう血まみれ。むきになって取り出そうと、爪でひっかいたりするものだから、事態はさらに悪化。予想外の出来事に、どうしていいか分からなくなった若旦那は、一八をそのままにして、逃げ出してしまった。一八の絶叫を聞いて部屋にやってきたお茶屋の女将に事情を話すと女将が「そりゃ、大変だったね。でもお前もこのあたりで鳴らした幇間。いくらかの金はもらえたんだろう」。しかし一八「いいえ、皮が破れて鳴りません」