竹中直人 × 生瀬勝久 あの絶妙な空気感を醸し出す2人が舞台『ブロッケンの妖怪』で4年ぶりの共演

 2011年に竹中直人と生瀬勝久という2人の超個性派俳優が初めてタッグを組んだ舞台『ヴィラ・グランデ 青山〜返り討ちの日曜日〜』は大きな話題を呼んだ。その2人が再会した舞台『ブロッケンの妖怪』が10月30日から北千住のシアター1010で上演が始まる。

撮影:蔦野裕

 前作から4年が経った。もう4年? まだ4年?

生瀬(以下、生)「もう4年ですね」
竹中(以下、竹)「もう4年だね」

 その間、一緒にお仕事をしたことは?

竹「なかったよね。4年間ないなんて不思議だね」
 今回も倉持裕が作・演出。やはり前作で手応えがあった?
竹「倉持さんとはずっと一緒にやりたいと思っているんです。せっかく生瀬君とやるんだったら、倉持さんを呼びたいという思いが自分の中にあったし、1本で終わらせたくはなかったんです」
 作・演出を誰に依頼するかは2人で相談?
竹「いや、暗黙の了解だったよね。僕の場合は演劇だとあまりいろいろな人とできないんです。この人、って決めたら、一途にその人とやらないとダメなタイプ」

 では出演者は?

竹「だいたい倉持さんと僕で考えました」
生「僕はノータッチです。そこは信頼していますので」

 佐々木希が初舞台に挑むことでも話題を呼んでいる。

竹「去年ドラマで一緒になったときに“うわ、独特だなこの人”って思いました。舞台に立ったら変な感じになるんじゃないかって(笑)、ものすごく期待したんです。なんというか、台詞回しなんかが独特なんですよ。あの音色がどういうふうになるんだろうって。僕はいつも直感で決めてしまうタイプなんです。自分の映画でも舞台でも、岩松さんとやっていたときも直感。岩松さんとやったときは、女優さんは映画女優を中心にキャスティングしたかったので、桃井かおりさんや原田美枝子さんら多くの方々に出ていただいたんですが、生瀬君と倉持さんと始めたこの舞台には初舞台の人を呼びたいという思いが自分の中にあったように思います。上手い女優さんというより、あまり染まっていない人」

 前回は山田優が初舞台だった。ベテラン2人と共演することで、今までは見せなかった違った一面が引き出されていたように思える。

竹「僕らは特になにもしていないよね」
生「優ちゃんは歌が上手いし、あの存在感はすごかったですからね。“すごい緊張する”って本人は言っていましたけど、そんな感じじゃなかったな〜」
竹「余裕だったよね」
生「希ちゃんのほうが多分緊張していると思いますよ」

 生瀬は佐々木と共演したことは? どういうイメージを?

生「ほとんど初めてです。バラエティーなんかでもないです。モデルさんというと、なんだろうな…冷たい感じなのかなって思っていたら全然そうじゃなかった。すごく穏やかで可愛い感じの人でした。よく舞台なんて受けていただけましたよね」

 去年の共演時に竹中から何か舞台の話をしたということは?

竹「何も言ってないですよ。ただドラマの撮影をしているときに、“舞台やらない? 今度生瀬君とやるんだけど”ということはちらっと言っていましたけど」
生「へえ。そのとき何て言っていたんですか?」
竹「“怖い”って。“絶対怖い”って」
生「ああ、いいですね」

 怖いというのはベテランの2人が…?

竹「いや、舞台ですね」
生「いや〜、ベテラン2人でしょ」
竹「そうか?(笑)」
生「嫌ですよ絶対。なんかいろいろ言われるんですもん」
竹「あ、そう? 言わないじゃない、俺たちなにも」
生「え? 言いますよこれから(笑)。もちろん。どやしつけるんじゃないですよ。やっぱり初舞台の人には舞台を好きになってもらいたいから」
竹「そうだね」
生「やっぱり僕は舞台っていうものがすごく好きなので、時々、舞台に出て嫌な目に遭って“2度と舞台になんか出ない”と言っているというような噂を聞くと、それはやはりカンパニーが良くなかったんだろうなって思うんです。舞台は絶対に面白いもの。出来不出来ではなくて、自分が関わったことが面白いかどうかが大事なので、作品がいろいろけなされたとしても本人が楽しければ、それは俳優としてすごい財産になると思うんです。そういう初舞台の人を嫌な目に遭わせるようなカンパニーにはしたくないとは常々思っています」

 4年前の座組は「もう1回やりたい」と思うくらいだから、相当良かった?

生「印象がとても良かった。やっていたときの稽古場の雰囲気や、みんなのムードが体に残っていて、この時間というものをもう1度繰り返したい、もう1度得たいという気持ちがありました」
竹「ただ、稽古場が遠いんですよ(笑)」
生「これは言っておいたほうがいいですね(笑)」

 前回に引き続き田口浩正が出演。2人とは別の作品でも共演が多い。

生「竹中さんとはずっとよくお仕事されていますよね。僕は僕で田口君とは『サラリーマンNEO』やドラマで共演することが結構あるので、そういう意味で言うと、ちょうど間に立ってくれる感じですね」

 田口は若い演出家や俳優たちと作品を作るときは、ある種ベテラン的な“重し”となっている。

生「えっ? そうなん?」
竹「(笑)」

 逆にベテラン俳優との作品の時は若手っぽい動きを見せるといった、いわばユーティリティープレイヤー。2人の信頼も厚いのでは?

生「そんなに信頼はしてないですけどね(笑)」
竹「僕は田口の存在が面白いとかつまらないとかに関わらず、あいつの顔があるとうれしいですよね。周防正行監督の映画『ファンシィダンス』で出会ってからだから結構古い付き合いなんです」

撮影:蔦野裕

 生瀬にとって竹中はあこがれの存在だったという。

生「いや、もう、もちろんあこがれていますし、稽古場での姿勢などは見習うべきところがたくさんありました。本当に真面目に考えながらやっていらっしゃるし、かといって自分ひとりの芝居をされていないのが、すごく偉いなと思いました。こっちが投げかけるボールを全部ちゃんと受け止めて返すという、会話ができる俳優さんなので、そういうことは僕も本当にやっていかなきゃいけないんだなって思わされました。そういうことを感じさせてくれる俳優さんはなかなかいないんですよ。やはり自信と経験がないとできないことですから。だって他の俳優さんなんか目が泳いでますもん(笑)」

 目が泳ぐ?

生「次のセリフを思い出してるなって分かるんですよ。いやそうじゃないだろう。俺のセリフを聞けば分かるだろうっていうことですね。登場人物になって会話をしなければいけないのにそうじゃない人が多いんです」

 竹中から見た生瀬勝久は?

竹「揺らがないんですよね。揺らがないから、柱として存在しているのが…(笑)」
生「何が…!?(笑)」
竹「すごいなと思います。生瀬君はね、一本柱があるんだよね。僕なんか来年60歳だっていうのに柱がないもんだから焦るんですよ(笑)」
生「基本的に2人の間では僕はツッコミになっているので、竹中さんにはもう自由にしていただければと思っています」
 竹中は舞台で演出をやることもあるのだが「きつかった。向いていない」というくらい。なのでプレイヤーとして自由にやらせてもらえるここはとても居心地が良さそうだ。
竹「そうですね。まあもちつもたれつなんだとは思うんですが、安定した人が柱として存在するとこちらも動きやすい。なんか生瀬君にはオーラがありますよね」

 もともと座長体質?

生「リーダーとしては非常に優秀なリーダーだと思います(笑)。決断が早いんです。正解かどうかは別として、悩むことが嫌いなので、すぐに“こっちでいきましょう”という答えが出せる。間違っていればまた別のものを探せばいいだけですから」

 前回はこの2人が組むことが大きな話題になった。ただこの2人ばかりに目が行くのではなく、「カンパニー全体として見てほしい」という思いもあった。実際、そういう作品にできたという実感は?

生「あると思いますね。倉持さんの作品だということ自体が前面に出た作品だと思うし、山田優ちゃんの出方はとても素敵な出方だったんじゃないかなと思います。どうしても竹中さんと僕ってアクが強いから、企画ありきの作品ってとらえる人が多かったと思うんです。そういう企画物には絶対に見られたくはなかった。今回もその部分は同じです。“なめんじゃないよ”ということです」

 今回は“ホラーコメディー”といった内容。演出面でも挑戦的な作品となっているようだ。

竹「今回は笑えるものをやりたいなっていうことは倉持さんには伝えました。僕はホラー映画が大好きなんで“テンションが高くてちょっとホラーも入っていると楽しいよな”ということも言いましたけど、あとは全部、倉持さんが考えたものです。僕は何も言っていないです」

 メディアに紹介される時はどうしても「竹中直人×生瀬勝久」と紹介されがちだが、実はその裏に隠された「×倉持裕」がとても重要。

竹「倉持さんとは理屈ではないですね。僕はとにかく倉持さんの空気感、世界観が好きなんです。またどんな作品を作ってくれるのかとか、居心地がいいというか。稽古を重ねるうちに見えてくるなにかというものもあるだろうし…。まあそれはどんな芝居でもそうかもしれないですが、今の僕にとっては倉持さんと一緒に作品を作ることができるということが一番の楽しみですね」
(本紙・本吉英人)

撮影:蔦野裕
『ブロッケンの妖怪』

【日時】〈シアター1010(北千住)〉10月30日(金)〜11月1日(日) 〈シアタークリエ(日比谷)〉11月12日(木)〜29日(日)
【料金】全席指定9000円
【問い合わせ】シアター1010(TEL:03-5244-1011=10〜18時[HP] http://www.t1010.jp/http://www.t1010.jp/ )/シアタークリエ(TEL:03-3201-7777=9時30分〜17時30分[HP] http://www.tohostage.com/brocken/http://www.tohostage.com/brocken/ )
【作・演出】倉持裕
【出演】竹中直人、生瀬勝久、佐々木希、大貫勇輔、安藤聖、田口浩正、高橋惠子