杉野希妃第一回監督作品『マンガ肉と僕』で共演 杉野希妃 × 三浦貴大 

撮影・蔦野裕

 杉野が演じるサトミは「男に嫌われるために太る」女子大生。いわゆるマンガに出てくるような骨付き肉にかぶりつき、ただただゴロゴロと毎日を過ごす…。という役のため、特殊メイクで別人のように太った杉野。人生初の肥満体での演技は苦労も多かった?

杉野(以下、杉)「あの姿で4日間ぐらい撮影をしたんですけど、あれはあれで楽しかったんですよ(笑)。人格がちょっと変わったといいますか、肉で武装している分、何にでも勝てそうな感覚になりますよね。今となっては、あれがあったから監督ができたのかもしれない。自分と全然違うけれど共感できるキャラクターだったので、切り替えもスムーズで。ただ物理的に座るのがきついとか、お弁当が食べにくいとかはありましたけど(笑)。それに撮影が9月で、ちょうどすごく暑かった時期なので、特殊メイク的に大変でしたね」

 この作品は福島から京都の大学に入学したものの引っ込み思案で人づきあいが苦手な男・ワタベと、同じ大学に通う太っていてみすぼらしい容姿のため、周囲の学生から嘲笑されているサトミが知り合うところから始まる。ワタベの優しさに付け込んだサトミは、ワタベを奴隷のように支配していく。徐々に寄生されていくワタベを演じる三浦はこの役をどうとらえていたのか。

三浦(以下、三)「一番初めに感じたものと、出来上がったもののイメージはさほど変わっていません。最初に脚本を読んだ時に、ワタベという役がしっくりきてしまったんですよ。それがいいのか悪いのか、ちょっと分かりませんが(笑)。どこがしっくりきたのかというと、ワタベも僕も対人関係がすごく苦手で、ちゃんとコミュニケーションが取れない。大学に入った18〜19歳のころの僕って、まさにそうだったんです。だから、脚本を読みながら、例えばバイト先のシーンだったら、ワタベがバイト先の仲間とコミュニケーションを取っている姿ってこんな感じだろうなって画が浮かんできた。自分もそうだったなと思えたのは、もともと持っているものが似ているからじゃないかと感じていました」

 そんな人とのコミュニケーションが苦手な若者の8年後までを追う同作品。その時間経過がワタベを変えていく。

三「8年経って、その8年後の年代がちょうど撮影していた時の僕と一番年が近かったんです。ですから、物語が終わって、その後ワタベはどうなったんだろうなって考えたんですけど、はたから見たら、すごく成長しているんです。コミュニケーションも取れるようになっていますし、社会人になっていろいろ自分ができることが増え、責任も出てきた。それが成長と思う人もいるかもしれないけど、実はこれがすごくつまらない大人になってしまうまでの道筋だったんじゃないかなと僕は感じた。ちょうど僕もこの年代で、自分がつまらない大人になったなと感じた瞬間があったので、冒頭の大学生のワタベと、ラストの社会人になったワタベの部分にすごく共感ができました。その間に起こったことに関しては…共感できたり、理解できなかったりはありましたけど」

 1人の男の成長は、夢にあふれた若者を“つまらない男”に変えたのか。

杉「ワタベのことをつまらない男、ダメな人間って言う方もいますが、私としてはワタベにも共感できる部分があります。彼なりにいろいろな経験をして、いろいろな選択をして、いろいろなレッテルを張られつつ、夢が叶わず挫折も経験してと、すごく人間らしい人物なんですよ。この作品のテーマ自体、寄生されて寄生して、また寄生されて寄生して…という繰り返しの中で人は生きていくというもの。それはダメということではなく、その与えられたサイクルの中で、それでも生きていく、必死に生きていかなきゃいけないのが人間で、その姿を描けたらいいなと思いながら作品を作っていました。私自身、女性として、俳優として、映画人として、いろんな立場で求められる姿と現実にギャップがあったりもして、ありのままの自分を見出せなくなったこともある。そんな過渡期の中で悩む自分をすべて詰め込んだような作品になっているんじゃないでしょうか」

 作品にはワタベに関わる3人の女性が登場。大学時代に出会ったサトミ、その3年後の恋人菜子、そして5年後の恋人さやか。女性監督だけに、3人3様の女性の感情が細やかに表現されている。

杉「とにかく全然違うタイプの女性を3人出したいなと思って。サトミが現代で、菜子が過去で、さやかが未来みたいな感覚で、描いていったつもりです。人間誰でも旧体制的だったり、保守的な側面はあるし、現在何かに抗っている部分というのも絶対ある。そして誰かより先進的な部分も誰しもが持っていると思うんです。その誰でも持っている部分を無理やり極端に3つに分けて、キャラクター化していった。ですから、女性が見たら、もしかしたら3人ともに共感できるという人が意外に多くいるかもしれないとは思いますね」

 そんな女性たちと関わり成長したワタベの未来は…。

三「すごくいい男になるのか、ダメな人間になるのか…」
杉「そういうことすら疑問を感じない人、それが当たり前だと思っている人がいっぱいいる中で、ワタベはそれに気づいたんです。で、気づいた上で今後どう生きていくのかというところで物語が終わっているので、そのワタベの気付きが、ある種の希望でありスタートだと最後のシーンで描いたつもりです」
三「ワタベの未来は分かりませんが、僕と同年代の男性は、自分の過去を見るような目線で見てもらえると楽しめると思います。痛いところもあるし、これから変わっていく年代でもあると思うので、過去を振り返ってここからどうしようというワタベのような気持ちになれる。そこからワタベの未来を想像してみて下さい」(TOKYO HEADLINE・水野陽子)

『マンガ肉と僕』2月13日公開

 4月の京都。気が弱く引っ込み思案の青年ワタベは大学になじめず孤独な日々を送っていた。一方、同大学の熊堀サトミは、その太ったみすぼらしい容姿から、周囲の学生に嘲笑されていた。そんなサトミを差別することなく接してくれたワタベの優しさに付け込んだサトミは、ワタベの自宅に転がりこむ。そればかりか、寄生し、いつしかワタベを奴隷のように支配しようとする。そんな中、ワタベはバイト先で知り合った菜子にひかれていくのだが…。