“クリエイティブ”が社会の課題を解決する[一宮市主催 地方創生発信型シンポジウム リポート]
JAPAN MOVE UP!日本を元気に!TEAM2020
『一宮市主催 地方創生発信型シンポジウム 一宮から日本を元気に・ファッションで繋がるマチとマチ ―JAPAN MOVE UP スペシャルトーク―』が12日、都内で行われた。愛知県の一宮市は、世界のハイファッションブランドにも高い品質を認められている尾州毛織物の産地。世界レベルの毛織物を軸に、他自治体との連携、新しいアイデアの導入など、より魅力あふれる街づくりの方法を探っている。
名古屋の北、岐阜県との県境に位置する愛知県一宮市。電車を使えば名古屋まで約10分の距離にある名古屋のベッドタウンで、38万超の人々が暮らしている。人口でみれば愛知県では第3の都市だ。
かつては繊維の街として栄華を極めた一宮市がいま、より広くに紹介しようとしているのが、尾州毛織物。中野正康市長は、この尾州毛織物が、一宮市の盛り上げのドライブになると考え、積極的な活動を展開している。
「誰でも知っているようなヨーロッパの複数のラグジュアリーブランドが、一宮市で作られた毛織物を採用しています。ただ、そういうブランドのアイテムには、一宮産とか、尾州毛織物なんて書いてないですから、一宮のウールの素晴らしさが知られることがない。国内どころか、一宮市民でさえ、毛織物産業に関わっていない人は、一宮で作られたウールのすばらしさを知らないと思います。そういった状況を変える、尾州毛織物の良さをより多くの人に広く知ってもらいたいと思っています。そのために、他との連携が必要だと考えています。例えば世界のセレブが訪れ、ファッションを世界に発信する原宿などがある渋谷区で尾州毛織物を紹介できたらいいなと思います。外から教えてもらうことって大きいですから、海外はもちろん、一宮市のほか、外で暮らしている人たちから何か知恵を貸していただけたら、新しい発見があると思うんです」
そんななかで行われたのが本シンポジウムだ。一宮市の魅力を伝えるとともに、繊維産業への興味を深め、さらに繊維産業への就職を目指す若者たちにアピールすることも目的。一宮市の中野市長を筆頭に、世界のセレブを魅了するとともに新しいムーブメントを発信する原宿・渋谷などを擁する渋谷区の長谷部健区長、尾州毛織物の生産者の代表として中伝毛織株式会社の中島君浩副社長、三越伊勢丹のバイヤー、落合将一氏。
一宮の毛織物、尾州産地の特徴は、出来上がるまでの「すべての工程がエリアのなかにあること」(中野市長)。昨年製造者とタッグを組んでスーツなどメンズウェアを展開し好評を博したという三越伊勢丹の落合バイヤーも「小回りが利く。紡績、織り、染色などの工程が分業制になっているのが魅力」と語った。既存製品の高い品質は言うまでもないが、新しい商品開発についても、一宮、そして尾州毛織物が高いポテンシャルを持っていることを示した。
一宮には、世界が認める高い品質、それを支えている確かな技術もある。ただ、「織物は中間素材なので、手をかけて作った野菜やワインのように(その良さが)広がっていかない」(中島副社長)。やはり課題はその良さをどう伝えていくか、だ。
「尾州毛織物を“知ること”に渋谷を使っていただければ。渋谷、原宿はおみやげがないなと思うので、尾州毛織物がおみやげになったらというのも考えられます」と長谷部区長。さらに「クリエイティビティで解決できる問題があると思う」と、熱っぽく語った。
一宮市が主催するこのシンポジウムは、さらに回数を重ねて、議論や取り組みを深めていく。2回目は24日に一宮市で行われるリバースプロジェクトによるトークイベントが予定されている。また、3月26日には再び東京でのイベントが開催される予定。回数を重ねるほどに、尾州毛織物のポテンシャルが広がるとともに、ブランド力もさらに高まっていきそうで、期待も膨らむ。
「より一層の工夫が必要。一宮市の外の人たちから知恵を借りられたら、(一宮や一宮の毛織物は)伸びていくだろうと思う」と、中野市長は意気込んでいる。
会場には、尾州毛織物と三越伊勢丹がコラボしたスーツや3ピースが登場。高級感あふれる商品に足を止め、直接手で触れて感嘆の声をあげる参加者も。また、テキスタイルデザインを勉強する学生とコラボしたという布地のサンプルも並んでいた。