江戸瓦版的落語案内 【妾馬(めかうま)】
落語の中には、粗忽、ぼんやり、知ったかぶりなどどうしようもないけど、魅力的な人物が多数登場。そんなバカバカしくも、粋でいなせな落語の世界へご案内。「ネタあらすじ編」では、有名な古典落語のあらすじを紹介。文中、現代では使わない言葉や単語がある場合は、用語の解説も。
丸の内の大名・赤井御門守(あかいごもんのかみ)がある長屋の前を行列した時、母親と兄の八五郎と3人暮らしの、今年17歳になるお鶴という娘を見初め、お屋敷奉公に上げた。お鶴は殿様のお手がついてほどなく懐妊。やがて世継ぎとなる男の子を出産。“お鶴の方様”“お側室様”と呼ばれるまでの出世を果たす。そこでお鶴は殿様に頼み兄・八五郎をお屋敷に招待する事に。それを聞いた大家は着物を貸し与え、さらに殿様に口を聞く時は、口の利き方に気を付けろと助言。とにかく言葉の最初に“お”、最後に“たてまつる”をつければそれらしく聞こえるからとアドバイスをして送り出した。
屋敷に着くと御用人の三太夫が殿様の所まで案内。やがて殿様がお鶴を伴い姿を見せると八五郎に「鶴の兄、八五郎とはその方であるか」と話しかけた。しかし何を言っているか分からない八五郎は無言。隣に座っていた三太夫が苛立ち「即答をぶて」と耳打ちすると、八五郎の側頭をバチン!さらに「おこんちは。おわたくしは、お八五郎様にたてまつりまして、お妹のお鶴様がお餓鬼をおひねり出してたてまつりまして…」と変な丁寧語で話し始めた。
理解できない殿様が「本日は無礼講じゃ。朋友に申すのごとく遠慮なく申せ」との仰せ。首をひねる八五郎に三太夫が通訳(?)すると八五郎、とたんにあぐらをかき、いつもの職人言葉で話し始めた。「いや、さっきから三ちゃんが横でごちゃごちゃうるさくってさ、かたっくるしいったらありゃしねーよ。大体今日はお鶴が餓鬼をひねり出したって聞いたら来たんでね…」とすっかりため口。おろおろする三太夫。しかし殿様は、このざっくばらんな八五郎を気に入り酒と御馳走を勧めた。元来が酒好きの八五郎、勧められるままに飲んで、酩酊状態。そんな時、殿さまの横にいるお鶴に気がつき「お鶴じゃねえか。なんでえ、すっかりきれいになっちまって、まるで竜宮城のお姫様だな。おふくろもよ、お前がお世継ぎを生んだって聞いてえらい喜んでるぜ。でも行っていろいろ面倒を見てやりたいが、それもできねえ。身分が違うというのはこういう事かと泣くんだよ。殿様に可愛がられるように尽くすんだぞ。そして殿様、お鶴をどうか末永く可愛がって下さい…」と涙。
しかしすぐに「なーに、湿っぽくっていけねえ」と都都逸を披露すると「殿公、どっか繰り出さねえか!」三太夫慌てて「これ、控えろ」「いや、面白い。その方を召し抱えて使わせ」と殿様のツルの一声。八五郎は侍に出世というめでたい一席。