江戸瓦版的落語案内 百年目(ひゃくねんめ)

Rakugo guidance of TOKYOHEADLINE【ネタあらすじ編】

 落語の中には、粗忽、ぼんやり、知ったかぶりなどどうしようもないけど、魅力的な人物が多数登場。そんなバカバカしくも、粋でいなせな落語の世界へご案内。「ネタあらすじ編」では、有名な古典落語のあらすじを紹介。文中、現代では使わない言葉や単語がある場合は、用語の解説も。

 さる大商家の一番番頭・治兵衛は仕事一筋で、40歳を過ぎても独身の堅物で通っている。ある日得意先を回ってくると言って外出すると、幇間の一八が近づいてきて何やらコソコソ。

 実はこの番頭、店では律儀な堅物で通っているものの、大変な遊び人。今日は仕事と偽り、柳橋の芸者と幇間連中を連れ出し、屋形船を借り、向島へ花見に繰り出そうという趣向。急いで路地へ曲がると、駄菓子屋の2階に上がり、金のかかった贅沢な遊びの身なりに着替えて、さあ出発。

 しかし、そこは用心深い治兵衛のこと、誰かに顔を見られてはまずいと、船の中では障子を締め切って飲んでいる。向島に着いても船から出ようとしない治兵衛だが、外の楽しそうな様子を見ると扇子で顔を隠し向島へ上陸し、陽気に騒ぎだした。そこを通りかかったのが店の大旦那。こちらも医者の玄庵と一緒に花見に来ていたのだ。二人の距離が近づいてきたところで、なんと治兵衛、芸者だと思い大旦那に抱き着いた。「誰だろう? そら、バア」と顔を確かめようと扇子を取ると、なんと大旦那。一気に酔いがさめた治兵衛、思わず「ど、どうも…。これはこれは、ご無沙汰しております…」としどろもどろ。旦那は場の雰囲気を壊さないように「お楽しみのところすみません。お連れの皆さん、この者ををよく遊ばせて、お世話をお願いします」と言って立ち去った。花見どころではなくなった治兵衛、素早く向島を後にすると、店に戻り部屋の中でいっそ夜逃げをしようかと思案し結局一睡もできなかった。

 翌朝、大旦那に呼ばれると、意外なことに旦那は微笑みを浮かべながら、「それにしても、昨日はずいぶん楽しそうだったな」と声をかけた。お得意様のご招待で…とごまかそうとすると、旦那は少しも怒らず、「招待か自前か遊び方を見ていればすぐに分かりますよ。招待だったら、商いの切っ先が鈍るから、決して先方に引けをとらないように」と意外な言葉。続けて「実は昨夜、帳簿に穴が空いているのではと気になり、密かに調べたが、毛ほどもスキはなかった。店の金に手を付けず、あんな遊びができるのは、大した器量人だ。約束通り来年はおまえさんに店を持たせよう。それにしても、昨日『ご無沙汰しております』と言っていたが、どういう訳だい?」「へえ、堅いと思われていたのをあんなざまでお目にかかり、もう、これが百年目と思いました」

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