江戸瓦版的落語案内 崇徳院(すとくいん)
落語の中には、粗忽、ぼんやり、知ったかぶりなどどうしようもないけど、魅力的な人物が多数登場。そんなバカバカしくも、粋でいなせな落語の世界へご案内。「ネタあらすじ編」では、有名な古典落語のあらすじを紹介。文中、現代では使わない言葉や単語がある場合は、用語の解説も。
さる商家の若旦那が原因不明の病で床に伏せてしまった。飯も喉を通らず、日に日に衰弱していくばかり。医者に見せると「心に思い詰めている事があり、それを叶えてやれば回復する」とのこと。出入りの職人熊さんには話してもいいと言うので熊さんが話を聞くとポツリ、ポツリと話し始めた。何でも20日程前に上野の清水さんに花見に出かけ、参詣の途中茶店で休んでいると、向かいの腰掛に“水もしたたるような”美貌のお嬢様がお供を連れて休んでいた。そのお嬢さんが帰ろうと立ち上がった時に、膝から落ちた袱紗を若旦那が慌てて拾い、お嬢さんに手渡した。
その時、桜の木の枝に結んであった短冊が落ちてきて、拾って読んだお嬢さんは、若旦那にそれを差し出し、店を出て行った。読むとその短冊には「瀬をはやみ岩にせかるる滝川の」という崇徳院様の上の句が書かれている。下の句は「われても末に逢はむとぞ思ふ」つまり、「今のところはここでお別れをしても、のちに必ずお逢いして添い遂げましょう」という意味。それ以来、何を見ても、何を聞いてもあのお嬢さんの事を思い出すばかり。若旦那の病が恋煩いだと報告すると大旦那は、褒美に借金を帳消しにした上に、長屋をやるからそのお嬢さんを探すように言いつけた。
崇徳院様の句を叫びながら3日間湯屋を18軒、床屋を36軒回っても手掛かりなし。疲れ果てて、一番最初に訪れた床屋に戻りへたり込んでいると、職人風の男が「急ぎで頼む」と飛び込んできた。床屋との会話を聞くと、なんでも出入りの店のお嬢さんが重い恋煩いで、今日明日とも知れぬ身。お茶の稽古の帰りに上野の清水さんのお茶屋に立ち寄った時、袱紗を拾ってくれた若旦那に一目ぼれをしたそうな。とっさに、崇徳院様の短冊を手渡したが、どこの誰かわからない。寝込んで起きあがれなくなった娘を心配した両親が、見つけた者には褒美を出すから手分けして探せと店の者に命令したとか。
熊さん「こんなところに三軒長屋がいたか…」というと男の胸倉をつかみ、床屋から連れ出そうと。すると男も「お前の所の若旦那が、お嬢様の思い人なのか。お前こそ、俺について来い」。お互い褒美が欲しいため、連れて帰ろうともみ合っていると、はずみで床屋の鏡が落ちて割れてしまった。怒った店主が「どうしてくれるんだ!」と言うと、熊さん「親方、心配には及ばない。割れても末に買わんとぞ思う」