【江戸瓦版的落語案内】寝床(ねどこ)
落語の中には、粗忽、ぼんやり、知ったかぶりなどどうしようもないけど、魅力的な人物が多数登場。そんなバカバカしくも、粋でいなせな落語の世界へご案内。「ネタあらすじ編」では、有名な古典落語のあらすじを紹介。文中、現代では使わない言葉や単語がある場合は、用語の解説も。
ある大店の旦那、人柄はいいのだが下手な義太夫に凝っている。それだけならまだしも、むやみに人に聞かせたがるので、周りは大迷惑。今日も今日とて、長屋の連中に義太夫を聞かせてやろうと大張り切り。ごちそうを用意し、奉公人の繁蔵に長屋をまわらせ、人集め。
しかし、なんだかんだと口実をつけて誰も来ないという。それを聞いた旦那は不機嫌になり「それじゃ、店の者だけでもいいから呼んできなさい。番頭はどこに行った?」と聞くと繁蔵言いづらそうに「ええと…昨夜、お得意様の接待で二日酔いで寝ております」。ほかの者も皆体調不良だと言う。「では、繁蔵、お前はどうなんだ」と聞くと、それ以上言い訳が思いつかず「私は…私は…。ええ、因果と丈夫でございます。よござんす。私が犠牲になりましょう。さあ、お語りなさい」と涙声。その言い草に旦那はカンカンで、「嘘をついたり、仮病を使ってまで私の義太夫が聞きたくないというなら、金輪際聞かなくて結構。そのかわり、義太夫の人情が分からないような店子は全員店立てだ。店の者も全員クビだ!」と言ってふて寝してしまった。これは一大事と、繁蔵がもう一度長屋をまわると、店立てを食うぐらいならと、長屋の連中が渋々やって来た。「何? 長屋の連中が義太夫を聞きに来た? ふん、追い出されるぐらいならと嫌々来てもらっても、今さら義太夫を語る気分にはなりません!」「そこを何とかお願いします。皆さんいろいろとやりくりをして駆けつけて下さったのですから」。そう言われれば旦那も悪い気はしない。さっき怒った手前渋々といった様子を見せながらも語る気満々。長屋の連中は、こうなったら義太夫が聞こえてくる前に酒をたらふく飲んで寝てしまおうと、用意されたごちそうと酒を食いまくりの飲みまくり。義太夫が始まっても酒盛りは続き、そのうちみんな酒に酔ってその場でゴロゴロ。急に静かになったので、全員感動しているのかと思った旦那が御簾を上げ座敷を見ると、皆酔いつぶれて眠っている。思わず怒鳴った旦那がふと見ると丁稚の定吉がだけが泣いている。「こんな小さな子どもでさえ義太夫の人情が分かるのに、お前たちは恥ずかしくないのか!おい、定や、どこが悲しい? 『馬方三吉子別れ』か? 『宗五郎の子別れ』か? そうじゃない? じゃあ『先代萩』かな?」「そんなとこじゃございません。あすこです」「あれは、あたしが義太夫を語った床だが」「あたくしは、あすこが寝床でございます」