未亡人をめぐる記憶にまつわる物語——シンクロ少女主宰・名嘉友美
シンクロ少女は「愛」「性」「嫉妬」「欲」などの感情をテーマとした作品を上演させれば、同世代の劇団の中では頭一つ出ていると思わせる。3月には『未亡人の一年』という刺激的なタイトルの作品を再演する。
「ジョン・アーヴィングという作家の同名の小説があるんです。その小説が好きだったし、タイトルがものすごくいいなと思って、内容は全然違うんですがタイトルだけいただきました(笑)。内容は未亡人の一年の話。そのままですね(笑)。未亡人と周囲の人々の記憶にまつわる話を描こうと思っています」というのは主宰で脚本・演出の名嘉友美。
物語の中心となる未亡人は誰が演じる?
「実はまだ決まっていません。私の劇団は役を決めるのが超遅いんです」
取材の時点で初日まであと1カ月!
「こういう作り方はともかく、ここまで役の決定が遅いのは珍しいんじゃないでしょうか。外部の方に出ていただくときは普通は“こういう役で”とお願いすると思うんですが、稽古では毎日違う役をやってもらっています(笑)。稽古初日に口立てで台詞を渡して、ちょっとのシーンを作って、そこから台本にするんです」
俳優は大変。
「それでもいいよっていう方が出てくれています。稽古では何役かやってもらうんですが、そのうちにこの人はどの役をやりたいと思っているのかといったことが見えてくるのが面白いんです」
名嘉は登場人物に、その心情を表しているような映画音楽や洋楽を歌わせるといった独特な演出をする。
「映画をよく見るんですが、なかでもコメディーがとにかく好き。あまり歌も歌えず、ダンスもできない俳優さんたちが突然歌いだすといった種類の映画があるんですが、本人たちも踊りにいっぱいいっぱいで、無表情になっていたりするところにグッとくる。うちの俳優もみんなダンスも歌もできないんですけど、やってみたらやっぱり面白かった。あと洋楽って、個人的なことを歌っている曲が多いんです。だから“この作品に合うな。ちょっと歌ってもらおう”という感じで始めてみました」
映画から吸収することは多い?
「映画学校に行っていたんですが、その時は全然見ていなかった。演劇をやるようになってからたくさん見るようになったし、映画っていいなって思うようになりました。アメリカのコメディー映画と日本のコメディー映画はあまり食い合わせは良くないと思うんです。でもアメリカのコメディー映画と日本の演劇は実は食い合わせはいい。真面目なヨーロッパ映画なんかを面白いという人はよくいるんですけど、アメリカのコメディーを面白いと思ったり、日本未公開のDVDを喜んで見ているような劇団の主宰さんってあまりいない。そこの隙を突こうかと思ってよく見ているうちに、面白い作品にもたくさん出会うようになっています(笑)」
かつて『極私的エロス/性的人間』という作品で自らの体験を赤裸々に描いたことがある。
「あの作品はもともとリーディングということでお話をいただいたんですが、リーディングは見たこともやったこともなかったのでどうすればいいのか分からなかった。ドキュメンタリーというのはリーディングからは一番遠いものなんじゃないかと思って、自分のことをそのままやるというのはあまり好きな手法ではなかったんですが、リーディングだし試しにやってみようかなと思ってやってみたんですが、以降は何を書いても“これって自分のことですか?”って言われるようになったんです。失敗したなって思いました(笑)」
もともとは「愛」とか「エロ」が強めに出ていた作品が多かったのだが、最近はちょっと作風が変わってきた。
「テーマ的には変わらないのですが、コメディー要素が多くなって、男女の要素がぐいぐい前に出てこなくなった。最近では友達とか家族といった方向にいくようになりました」
なにかがあった?
「(笑)なんにもないです。今でも興味はあるんですが“なぜあの時はあんなに男女の恋愛に興味があったんだろう?”って思うくらい…。分かんないです(笑)、年齢を重ねたこともあるかもしれない(笑)」
【日時】3月8日(水)?12日(日)【会場】ザ・スズナリ(下北沢)【料金】指定席、一部自由席 前売3500円、当日4000円/前方自由3300円(枚数限定)/学生3000円(前売・当日とも/要学生証提示)/平日昼割あり。各前売料金より300円引き (前売のみ)【問い合わせ】シンクロ少女 (TEL:080- 4119- 0553 [HP] http://syncroshoujo.strikingly.comhttp://syncroshoujo.strikingly.com )【脚本・演出】名嘉友美【出演】泉政宏、横手慎太郎、中田麦平、田中のり子(以上、シンクロ少女)/諫山幸治(ブラジル) 、石黒麻衣(劇団普通)、川崎桜、伊達香苗(MCR)、堂本佳世、野田慈伸(桃尻犬) 、三澤さき(ゲンパビ)、吉岡そんれい