【江戸瓦版的落語案内】あたま山(あたまやま)
落語の中には、粗忽、ぼんやり、知ったかぶりなどどうしようもないけど、魅力的な人物が多数登場。そんなバカバカしくも、粋でいなせな落語の世界へご案内。「ネタあらすじ編」では、有名な古典落語のあらすじを紹介。文中、現代では使わない言葉や単語がある場合は、用語の解説も。
春は花見の季節。いろいろと趣向をこらして、桜の下でドンチャン騒ぎをするのを楽しみにしている人たちも多い。その名もケチ兵衛、名前の通り、しみったれで至極ケチな男である。そんな彼が人並みに花見に繰り出した。しかしそこはケチの見本のような男、朝から晩まで飲まず食わずで歩きまわるのみ。茶店にも入らないし、びた一文使わない。しかし、さすがに腹が減ってきた。ふと見ると、早咲きの桜の中には、もう小さなサクランボをつけているものがあり、それら桜の実が地面にも落ちている。
「こりゃ、いいものを見つけた」と地面に落ちているサクランボをすべて食べた。数日後、その桜の種が腹の中で芽をふいて、ケチ兵衛の脳天を突き破り、頭の上で大きな桜の木になり、満開の花を咲かせた。みるみるうちに大木に成長し、見事な枝垂れ桜が咲き誇る。これが世間の大評判となり、野次馬が大勢押しかけて、ケチ兵衛の頭の上は花見客で大にぎわい。そこでは飲めや歌えの大騒ぎをするもの、茶店を出すもの、頭から足を踏み外したもの、さらに耳にはしごをかけ登ってくるもの、芸者を大勢従え豪遊するもの、酔っぱらって喧嘩をするものなどなど。つくづくイヤになったケチ兵衛さんは、花を散らしてしまえとばかりに、頭を乱暴に振ると花見客は一人残らず転がり落ちてしまった。やっとって一息ついたが、毎年桜の季節になる度にどんちゃん騒ぎをされたらたまらないと、町内の人に手伝ってもらいその桜の木を根こそぎひっこ抜いてしまった。ところが、あまり根が深く張っていたため、後にぽっかりと大きな穴があいた。
そして夏、外出したケチ兵衛は夕立ちにあい、その穴に満々と水がたまった。捨てればいいのに、この水で行水すれば湯銭が浮くとばかりに、そのまま放置。だんだんこれが腐ってきて、ボウフラがわき、メダカがわき、鮒がわき、鰻がわき、鯉がわき…。そしてとうとう、鯰が住みついた。するとそれが評判となり、今度は頭の池に釣り人が押し掛けるように。釣り針が、ケチ兵衛の鼻の穴を釣り上げたかと思えば、網船が漕ぎ出し、芸者を乗せた涼み船も回遊。おまけにそこでもどんちゃん騒ぎが、行われ…。ケチ兵衛、つくづくイヤになり、毎度こんな思いをするぐらいならいっそのこと死んでしまおうと、南無阿弥陀仏と唱え、もんどり打って、自分の頭の池に身を投げた。