【インタビュー】生誕40周年記念ブス会*『男女逆転版・痴人の愛』で全国の女性を元気にしたい?
脚本・演出家でAV監督のペヤンヌマキが女だけの集団や女同士の関係におけるさまざまな“ブス”な実態を描く、演劇ユニット「ブス会*」。その特別企画ともいえる「ペヤンヌマキ×安藤玉恵 生誕40周年記念ブス会*」による『男女逆転版・痴人の愛』が12月8日からこまばアゴラ劇場で上演される。
2人は早稲田大学演劇倶楽部出身の劇団、ポツドールからの付き合い。ポツドールはセミドキュメントといわれる手法を取り入れた作品で一躍人気となった。しかし「男の子がメインのお話ばかり。女性メインのお芝居がやりたい」と思った安藤が当時、演劇活動を休みAV監督として活動中だったペヤンヌマキに声をかけ、特別企画公演としてペヤンヌ脚本・演出の『女のみち』を上演。その4年後の2010年にペヤンヌが自身のユニットとして「ブス会*」を立ち上げた。当初は女の集団を中心とした群像劇が多かったのだが、最近では男を通して、家族というフレームで、とさまざまなバリエーションで女を描いた作品を発表している。
今回の作品は谷崎潤一郎の「痴人の愛」を現代に置き換え、かつ男女を逆転して描くというもの。40歳の独身女性が若い男を教育し自分好みの男に育て上げていこうとするのだが…。
ペヤンヌマキ「これは今の私のメンタルに本当にもう、ぴったりなんです。なんだか予兆はあったんです。35歳くらいから急に少年萌えが始まって、今回、それがピークに達してしまって、こういう話を書いてしまいました(笑)」
もともと谷崎潤一郎は好きだった?
ペ「はい。最初は中学生の時になんとなく読んで、全然意味が分からなかったんですけど、20代で読んだ時に、“あれ、すごく面白いな”って思った。男女の立場が逆転していく感じとか。その時はどちらかというとナオミに感情移入していたんです。“おじさんに愛でられたい”みたいな。でも40近くになってふと読み返したら、むしろおじさん側に感情移入してしまっている自分がいて“あんまり笑えないぞ”みたいな気持ちになってきた(笑)」
安藤「私はそういう気持ちは全然分からない。若い男に興味がないんです」
昔は年配の男が若い女を囲う。今は時代が変わって女が若い男を囲うケースって増えているような気がする。
ペ「若い男性もそれを普通に受け入れていますよね」
安「私は興味がないなあ…。高校時代の友達なんかとよくしゃべるんですが、若い男性が近づいてきたら、“あ、ババアだな”って思われるのが怖いよねって話になるんです(笑)。話している時は分からないかもしれないけど、じゃあいざってなった時にこの辺(二の腕)とかが、同級生の女の子とは違うな、みたいに思われるのが怖いって(笑)」
では今回の役は自分の中ではずいぶん違和感がある?
安「最初はありました。あったんだけど巧妙な台本によって(笑)、完全にその世界に入ってしまったので大丈夫です。でも役の中に自分の要素はまるでなかったので、近づいていったら完全に役にのまれたというか、自分がなくなっちゃったという苦しさがありました」
安藤が少年を愛でる気持ちがないのは知っていた?
ペ「知っていました。私は母性本能と恋愛感情がごっちゃになって、ここ最近わけが分からなくなっているんですが、それを話すと、全然意味が分からないと言われる(笑)。安藤さんとは性格も正反対だから私のこういう部分を全く違う安藤さんが演じたほうが面白いんじゃないかというのはすごくありました」
7月にリーディング公演を行った。舞台とは別物ではあるがかなり完成度の高いものだった。あれからどのような進化を?
ペ「リーディングは60分だったんですが、本番はあと30分くらいは延びる予定です」
安「あんなにセリフが多いと困るからね(笑)」
ペ「長いセリフは少し減らして(笑)」
安「頑張るけど(笑)。あと福本君と山岸君のシーンももっと膨らみますよね」
リーディングではチェロの生演奏がなんとも隠微な空気感を醸しだしていた。
ペ「最初はリーディングだけのつもりだったんですが、マッチしていてすごく良かったので引き続きお願いすることになりました」
安「あれはもう一人の洋子さん(安藤の役名)だよね。私の分身みたい」
ペ「チェロの音色が終盤になるにつれて安藤さんが演じる主人公の女と一体化していく、といった感じ。ちょっと芸術寄り(笑)」
安「俗っぽさを減らそうとしてる?(笑)」
こまばアゴラ劇場は初めての場所。
ペ「いつもはザ・スズナリでやっているんですが、内容的にアゴラの空間がいいなって思いました」
観客も遠くから眺めているんじゃなくて、3人に感情移入してしまいそうな距離間での観劇となる。
ペ「今までのブス会って、セットもきっちり作って、あまりあちこちでやれないようなものばかりだったんですけど、地方とかいろいろな場所でできるような作品を1個作っておきたいなという思いはあったんです。今回の作品だとそういう形にできそうだと思っています」
安「声がかかれば地方にも行きたいんですよね。私はこの作品を見れば日本の女性が元気になるんじゃないかと思っているんですよ。世代、関係なく。若い人はああいう元気なババアになりたいって思うだろうし」
ペ「ああいうババアって(笑)」
安「年齢が上の人が見ても、“よしっ、いいぞいいぞ。私もまだまだ”って思えるだろうし、もちろん同世代は共感するだろうし。日本中の女性を北から南まで元気にするプロジェクト、みたいな感じで全国を回りたい(笑)」
ペ「一緒に痴人になりましょう、みたいな?」
安「そう。痴人=元気」
日本全国痴人化計画?
ペ「痴人は深いですよね、意味がね」
安「知が病気になっているんでしょ。病気になっている知だもんね」
ペ「知性を感じますよね」
安「すごい強引に持ってきたね(笑)」
ペ「(笑)」
安藤「スポーツクラブも39までは安かったのに、40歳になったら高くなった」
「生誕40周年記念」とうたっている。
ぺ「この節目の年に同い年の2人による“これからもやっていきますよ!”という決意表明的なものです」
40歳?
安「生誕40周年記念ってうたっちゃってますからね。そこは隠せないですね(笑)」
ペ「最初にやった『女のみち』が30歳の時。それから10年経っているんですよね」
2人にとって40歳ってどういう意味がある? 意識する年齢?
安「意識はします。40歳って、80~90歳まで生きるとしたらまだまだ折り返し地点ということでもあるので、“これ、やらなきゃ死ねない”ということは一つひとつやっていこうと思うようになりました。今回の作品はそのうちのひとつ」
ペ「私は30歳の時に自分のやりたいことをやりたいなって思って、そこで安藤さんと芝居をやって、ブス会の立ち上げにつながった。演劇においての私の脚本家人生は30歳から始まっている。それから10年間夢中でやってきて、よく分からないまま気づいたら40目前になっちゃった、みたいなところがあって。すごく焦ったんです(笑)。私も長生きしそうな気がしていて、そう考えると40でつまずいたときに、あと50年もあるぞって思っちゃった。これから明るいビジョンを50年持って生きていかないとダメだなって思ったんですけど、この企画はそれの一環でもあるんです。10年おきにできる限りやり続けていくぞ、というのは自分の中ですごく目標になる」
安「私は今すごく明るいんです。希望に満ち溢れている。でも周りの人は口に出しては言わないですけどはっきり“ババア”という目で見ている(笑)。実年齢よりは若くは見られるんですが、年齢を言うと“ああ、意外といってるんですね”っていう…。もう年齢だけでいろいろイメージされちゃう」
ぺ「30代後半だとそこらへんはもやっとしていましたよね」
安「そう、もやっとしていたところがはっきりした。いろいろなことがはっきりした」
それで踏ん切りがついた?
安「うん。だってスポーツクラブも39までは安かったのに、40歳になったら高くなった」
ぺ「なんで年寄りのほうが高いの(笑)?」
安「そこでも“その差ってなに?”って結構ビックリした。あとアンケートとかでも40代に丸をするようになってきたから。この1年くらいでそういうことをやるたびにいちいち気づかされる」
ぺ「初老という言葉が浮かぶしね」
安「そう(笑)。昔は40って初老なんですよね」
ペヤンヌ「福本君と山岸君。この2人の相性もすごくいいなと思った」
安藤演じる「洋子」が愛でる「ナオミ」を演じるのは唐組の福本雄樹。今回、福本を起用したのは?
ぺ「去年の1月くらいに泉鏡花の作品のリーディングを唐組の役者さんがやっていたのを見て、その時にちょっと気になっていました。それ以前にも唐組の舞台で見かけてはいたと思うんですが」
いい役者を見つけた!という感じ?
ぺ「その時に、なんか気になるな、というのは心のどこかにあった。でも見ているだけでは、実際、どういうお芝居を私の作品でできるのかは分からないじゃないですか。なので去年、ワークショップに来ていただいて普段、ブス会でやっているようなお芝居もやってもらったんですが、そこには山岸門人くんもいて2人でBLっぽいというか、マスターと客というエチュードをやってもらったら、それがすごく良かった(笑)。この2人の相性もすごくいいなと思ったので、ぜひ出てもらいたいなって」
作品では年下の男に振り回され屈服するマゾヒズムと年上の女を支配するサディズムが交錯する。ちなみに自分はどちら?
ペ「私は表向きはMなんですが、SとMは裏表だからMの人にはSの面が急に出てきたりします」
安「私は表向きはSだと思うんですが、役者としてはMだと思います。いろいろ言われたいんです。もっともっと、って感じ。稽古が一番好きって言うとみんなに絶対Mだねって言われます」
ぺ「役者自体Mが多いって言いますよね。やっぱりMじゃないとできないのかも」
安「ねえ。繰り返し繰り返し同じことをさせられたりね」
演出家はSのほうがはまりがいい?
ぺ「まあ、そうですよね。私は表向きMだから、ちょっとややこしいんですよ(笑)。分かりやすいSの演出家じゃないから。人を怒鳴ったりもしないし」
では2人は組み合わせ的にはとてもいい感じ?
ぺ「それはすごくある気がします。あんまり似たタイプの人だと、ちょっとやりにくいというのはありますから。逆だからやりやすいというのはすごくある」
お互いが違いすぎて“まあ仕方ないよね”って許せちゃうのかも。
ぺ「安藤さんは思ったことを割とはっきり言えるタイプじゃないですか。私は思ったことをためちゃうタイプだから、そういうタイプの人同士ではちょっと難しいところがあるんです。安藤さんはすぐに言ってくれるから、それはすごく楽」
劇中、洋子はナオミと接している時、きつい言葉を発するときもあるが…。
ぺ「そうですよね。ババアと言われても、ちょっとゾクゾクしている感じ(笑)。裏設定としては洋子はナオミと知り合う前はおじさんに愛でられていた立場の人なんです。自分がナオミだった時もある、みたいな」
年齢を重ねたことによって立場が変わる。
安「もう、まんまペヤンヌさんじゃないですか(笑)」
(本紙・本吉英人)
【日時】12月8日(金)〜19日(火)
【会場】こまばアゴラ劇場(駒場東大前)
【料金】一般シート(入場整理番号付自由席) 前売4000円、当日4500円/ブスシート(入場整理番号付自由席。1〜2列目ベンチ席)前売4000円、当日4500円/プレビュー公演(8日19時30分)一般シート・ブスシート共に 前売3800円、当日4300円/上映会(9日)(入場整理番号付自由席) 前売・当日共に 1500円
【問い合わせ】ブス会*(TEL:080-7943-2251=10〜20時 [劇団HP]http://busukai.com/)
【脚本・演出】ペヤンヌマキ(原作:谷崎潤一郎『痴人の愛』)
【出演】安藤玉恵、福本雄樹(唐組)、山岸門人/浅井智佳子(チェロ演奏)