変貌するアジア太平洋地域と日本の安全保障(その拾弐)【長島昭久のリアリズム】
日本と台湾は、同じ第一列島線上に位置し、中国大陸からの圧迫に耐えつつ交流を重ねてきた長い歴史を持ちます。共に海洋勢力にして通商国家であるという地政学的特性を踏まえ、日台は、「運命共同体」として両国の生存と繁栄のための戦略を構想し、安全保障環境の改善に努めていかねばなりません。その意味で、領土、領海、領空における主権を確保し、遥かインド洋からマラッカ海峡を経て南シナ海および西太平洋に至る12,000kmを超えるシーレーンの安全確保は、日台にとって死活的に重要な課題です。
台湾は、日本経済の生命線であるシーレーンと中国が太平洋へ進出する航路を扼する位置にあり、その帰趨は我が国の安全保障のみならずアジア太平洋地域全体の平和と安定に直結します。とくに、第一列島線の中心に位置する台湾は、全長1400kmにもおよぶ我が国の南西諸島エリアの安全に直接影響を与えます。一方、東シナ海に浮かぶ沖縄県尖閣諸島に対する中国の領土的野心を看過すれば、そこを橋頭堡にした大陸から台湾への併合圧力は計り知れないものとなるでしょう。
1972年の日中国交正常化(すなわち日台断交)以来、日台の政治外交関係は著しい困難に直面しましたが、日本の地政戦略における台湾の価値に鑑み、実質的な「戦略対話」を一層緊密化して行く必要があります。とくに、日本で近年立ち上がったNSC(国家安全保障会議)と台湾の国家安全会議とのシニア・スタッフ間の日常的な情報共有や信頼醸成を積み重ねることは、それが定期的に行われている米台間での実績を見るまでもなく、地域の安全保障にとり極めて重要となります。
また、そのような戦略レベルでの日常的交流を支える意味でも、経済面での「日台FTA」を早期に締結すること、および日本版「台湾関係法」の制定が急務です。前者は、日本が東南アジアとの間で育んできた経済的な結びつきを基盤に展開するサプライ・チェーンのネットワークを、蔡英文政権が推進する「新南向」政策(New Southward Policy)と有機的にコラボレーションさせることに効果があるに違いありません。これにより、単に日台間の貿易や投資を促進するだけでない、成長著しいアジア太平洋地域を舞台に両国経済にとってウィン・ウィンの関係を強化することにつながるでしょう。また、日本版「台湾関係法」については、日台の法的関係を米台のレベルにまで高めていくことを目標とすべきでしょう。それは、日米台のトライラテラル協力を深化していくに確かな法的基盤を提供することになるはずです。
(衆議院議員 長島昭久)
東京21区(立川市、日野市、国立市、および多摩市・稲城市・八王子市の各一部)衆議院議員。元防衛副大臣。慶應義塾大学で修士号(憲法学)、米ジョンズ・ホプキンス大学SAISで修士号(国際関係論)取得。現在、衆議院文科委員会委員、子どもの貧困対策推進議連幹事長、日本スケート連盟副会長兼国際部長、2017年6月より日本体育協会(現在は「日本スポーツ協会」)理事