【インタビュー】ハルカ 舞台『銀河鉄道999』でメーテルを演じる
漫画家・松本零士の代表作「銀河鉄道999」が40周年を迎えた今年、舞台『銀河鉄道999』〜GALAXY OPERA~としてよみがえった。主役の星野鉄郎に昨年、2017年の「第24回読売演劇大賞」最優秀男優賞の中川晃教、謎の美女メーテルにはミュージシャンのハルカが抜擢された。
制作発表会見ではメーテルをほうふつさせる存在感
原作物の実写化・舞台化にあたっては原作との距離感が常に話題となる。必ずしも原作に忠実であるのがベストなわけではないが、ことメーテルに関してはビジュアルイメージを気にするファンは多かったはず。3月27日に行われた制作発表会見に現れたハルカはそれを納得させるだけの存在感を見せていた。
「本当ですか? よかった。大丈夫かどうかは私も始まってみないと分からないんですけど、そう言っていただけるのはうれしいです。東映アニメーションの方も999を実写化したいというお話がある時、今まではメーテル役に髪の長い方をプレゼンされることが多く、ショートカットの子が来るのは初めてだったそうなんです。私は髪も短くて表面的なイメージは全然わかなかったと思うんですが “この子のどこかにメーテルを感じたんなら”と言ってくださったようで、私もそれを聞いて感動しました」
今回、出演に至ったいきさつは? オーディション?
「プロデューサーの方が、以前私が出させていただいた舞台でもプロデューサーを務められていて、その時に “実は10年以上前から銀河鉄道999を舞台化したいと思っているんだけど、もし実現したらメーテルをやってくれないか”と言われたんです。でも私は冗談だと思っていました。舞台化が実現するかも分からないし、できたところで、“なんで私が”という感じでしたので話半分でお返事していたら“本当にできることになったのでぜひお願いします”ということでメーテル役をやらせていただくことになりました」
今回の出演者はみなリアルタイムでは作品を見ていない世代。ハルカももちろん。
「999自体は知っていました。漫画を読んだこともありましたし、映画も見ています。数年前にも宇宙の星が出てくる曲を書こうと思って、参考資料のような形でそのときにたまたま見ていたんです。そんなところにも運命的なものを感じました。でもSFの冒険物語というイメージだったのが、人生訓というか大人が読むお話なんだなということが分かったのは本当に最近になってからかもしれないです」
多分、親世代が999世代ど真ん中かと。今回、メーテルをやるにあたりお父さんなどは?
「すごく小さい時の記憶なんですが、父が母に“メーテルに似てるね”って言ったことがあるんです。その話は母からも聞いていて、幼い私の中でメーテルはお母さんにちょっと似ている、メーテルっぽい顔という記憶があったんです。だからメーテルを演じることを母に伝えた時も “私自身は自分でメーテルに似ていると思ったことは一度もないんだけど、もしかしてどこかに遺伝子が…(笑)”と母もびっくりしていました」
私と重なる部分も多い。メーテルは意外と悪者かも…
そんなお父さんだったら結構メーテルに関してはうるさそう。
「“そんなのメーテルじゃない”みたいなことですか?(笑)それは大丈夫だと思いますけど、これから稽古が始まったら相談するかもしれないですね(笑)。ちょっとイメージ聞かせて、とか。そうなると語りだしちゃうかもしれませんね。でも親の世代の方にお話をうかがうのはいいかもしれないですね。きっとそれぞれが違ったイメージを持っているんじゃないかと思うんです。私が思っているメーテルと、別の人が思っているメーテルは違う人かもしれないし」
メーテルってどんな女性ととらえている?
「まだまだ謎な部分が多いんですが、元気いっぱいなわけでもないですし、みんなにニコニコしているわけでもない。何を考えているのか分からないような、コミュニケーションが苦手そうな人。冷たそうにしていても許されるキャラなので、私のパーソナリティーとしては楽というか重なる部分が多いのではないかと思います。今の段階では最初に思っていたよりは悪者かもしれないとも思っています。綺麗で凛としていて、母のように優しくて、鉄郎を助けてあげているみたいなイメージがすごく強かったんですけど、よくよく考えたら、最初は鉄郎をだまして連れて行こうとしているじゃないですか。これは裏ではものすごくい黒い部分があるんじゃないかっていうことに気がついて、そういう奥の深さとか恐ろしさに改めてびっくりしています。母のような優しさで包まないと、という概念からはいったん外れて、この人間の怖さみたいな、そういう部分も1つあってもいいのかもしれないなということは思い始めましたね」
自分にもそういう黒い部分はある?
「あると思います。私はそれを歌に書いて発散しているような人間で、ずっとそうやって生きてきた感じなので、メーテルだって完璧じゃないんだというところにちょっと救われています。メーテルも裏や迷いがあって、揺らぎながら、でも旅をしているというところに人間らしさを感じます。人間には自分でもあまり分かっていないような下心とか裏側みたいなものが、多分それぞれあると思うんですが、みんなそれを隠して生きている。メーテルもそのへんを鉄郎に対して見せたり見せなかったり隠したり、そうしながら生きている。でも自分でもだんだん、これでいいのかと迷い始めたりする。そういうところが面白いなと思っています」
ミュージシャンとしての顔も持つハルカ
ハルカは「ハルカトミユキ」という女性2人のユニットでミュージシャンとしての顔も持つ。短歌をこよなく愛するハルカの書く言葉は強く鋭い。そしてそれを魂と情念を込めて歌いあげる。そのスタイルは彼女たちのウェブサイトのプロフィルにある「時代錯誤の文芸少女」というフレーズがぴったり?
「そうですね、時代錯誤かもしれないですね(笑)。音楽も70年代のフォークソングとか好きですし、本も好きなので同世代の人と喋っていてもあまり分からないようなことが多いんです」
ハルカトミユキはアコースティックとバンドという2つのスタイルでライブを行っている。
「2人が正式メンバーで、バンドの時はサポートの方をお願いしているんです。私はあまり大人数で…集団行動みたいなことをするのが苦手なタイプで…(笑)。バンドって人数が多いじゃないですか。人数が増えると大変だなと思って、本当はバンドがやりたいんだけど2人が楽ということで、2人で始めたんです。でもバンドをやりたかったという気持ちがあるので、どうしてもアコースティックデュオみたいな言われ方がちょっと気に障る、みたいなところがあって(笑)。でも実際、女2人なのでそう見えちゃうじゃないですか。だから “2人だけどバンドに負けないことをやりたい”といった反骨精神みたいなものがあるんです。歌詞だけは尖りたいとか、ステージングはちょっと突き放した感じにしようとか、そういうところから始まっている。そしてやっとメジャーでバンド形式でも活動ができるようになったんですが、2人でアコースティックな感じでやる時もその精神は崩さないままやっています」
彼女たちのPVを見ると、映像を作る側がハルカを使ってさまざまな表現をしているように映る。ハルカはクリエイターをそういう気持ちにさせる存在のよう。となるとビジュアルに引っ張られ、自分の存在と音楽への向き合い方が乖離したこともあったのでは…?
「そういう時期もありました。歌っていることとパフォーマンスとビジュアルが一致しない時期はストレスがありました。心情を吐露するような言葉を書いて、そういうふうに歌っているので、当然そういうふうに感情を乗せて歌うんですが、MCでは明るくしなければいけなかったりとか、ビジュアルもきらびやかでちょっと華やかで、かつ強いものを要求されたりとか。そこだけを抽出されると、自分が思っていたものとずれていってしまう。普通の人が持っている強さと弱さの表裏一体の感じやギリギリのところを言葉で表現したかったものが、私自身が強いように押し出されてしまうと違った伝わり方をしてしまう。でも今はやっと模索しながらですけど、初期の衝動みたいなものを自分で取り戻してきています」
今回の999への出演で、活動の幅が大きく広がりそう。
「音楽と女優ということを両立していければいいなと思っています。今回はすごいチャンスでもあるし、すごい挑戦なので、この舞台が終わった時に自分がどういう人間になれているのか。今後これでやっていきたいと思えるかどうかというのも、私自身のすごい挑戦ですね。でもどちらの表現も好きでなので、両方やっていきたいとは思っています」(本紙・本吉英人)
【日時】6月23日(土)~30日(土)(開演は23日18時30分、24日12時/17時、25・28日13時、26・27・29日13時/18時30分、30日12時。25・26日13時はアフタートークショーあり。開場は開演30分前)【会場】明治座(浜町)【料金】999シート(特典付/1階席・2階席正面・車いすスペース)1万2500円、A席(2階席左右)1万1000円、B席(3階席)7000円【問い合わせ】東京音協(TEL:03-5774-3030=平日11~17時)【公式サイト】http://999-40.jp/【原作 総監修】松本零士【脚本】坪田文【演出】児玉明子【出演】中川晃教、ハルカ、染谷俊之、矢沢洋子、雅原慶、美山加恋/入野自由/お宮の松、小野妃香里、塚原大助/凰稀かなめ(特別出演)/平方元基 ※北九州と大阪でも公演あり