【江戸瓦版的落語案内】馬のす(うまのす)
落語の中には、粗忽、ぼんやり、知ったかぶりなどどうしようもないけど、魅力的な人物が多数登場。そんなバカバカしくも、粋でいなせな落語の世界へご案内。「ネタあらすじ編」では、有名な古典落語のあらすじを紹介。文中、現代では使わない言葉や単語がある場合は、用語の解説も。
釣り好きの男、今日も釣りに行きたくてソワソワ。女房に仕事をしてから行くようにたしなめられるが、仕事は帰ってからやると、熱心に道具の点検。重りも浮きもばっちり…と思ったら、肝心のテグスがダメになっている。そんな時馬を引いた男が通りかかるが、馬が突然足を止め頑として動かない。仕方なく近くの木に馬をつなぎ、男はどこかへ行ってしまった。「ああ、こんなところに馬を置きっぱなしにして…」と思ったが、ハタとひらめいた。「この馬のしっぽ、テグスの代わりになりそうだ」。そう思うや、馬のしっぽを3本引き抜いた。それを見ていたのが友達の勝っちゃん。「お前、えらい事やっちまったな。馬のしっぽを抜いたらどうなるか知らないんだろう。あーあ、大変な事になるぞ」と意味深な言葉。不安になって「一体どうなっちまうんだ?」と尋ねるも「俺だってタダで習ったわけじゃねえ。
酒の一杯でもごちそうしてくれたら教えてやるよ」と言う。酒は無いと言ってみたが「今朝、お前のおかみさんが酒を2本下げて歩いてるのを見た」とバレている。仕方がないので勝っちゃんを家に上げ女房に銚子をつけさせた。「それで、馬のしっぽを抜くとどうなるんだ?」「まあまあ、急かすなよ。まずは酒を飲んでからだ」とのらりくらり。枝豆も出てきて、勝っちゃんの酒がすすむと口も滑らかに。「いや、俺も最初に聞いた時は震え上がったね。実際、俺もお前と同じように馬のしっぽの毛を抜いたんだが、その時ある人に“お前さん、そんなことをしたら祟りがあるよ”って言われて…」「それで、しっぽを抜くとどうなる…」「おかみさん、この枝豆の茹で加減、絶妙ですね。いやー、酒がすすむ。申し訳ないけどお銚子をもう1本頼みます」と酒と枝豆ですっかりいい気分。「だから、しっぽを抜くとどうなるんだよ!」と聞くも「そんなに急いじゃいけないぜ。後々、聞いてよかったって俺に感謝することになるんだから」とはぐらかす。
いい加減にしびれを切らした男が「とっとと、どうなるか話しやがれ!」と大声を上げると勝っちゃんが、枝豆と酒を平らげ「ごちそうさん。さあ、馬のしっぽのわけ、教えてやろう」「ありがとう。それで、馬のしっぽを抜くとどうなるんだい?」「馬のしっぽを抜くと…」「うん、抜くと…」「馬が」「馬が…」「痛がるんだよ」。