【インタビュー】南沙良 人気コミック『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』待望の映画化!

 人気漫画家・押見修造が自身の体験を元に描いた大ヒットコミックが映画化。思春期の少女たちの不器用な青春を描いた同作で主演の志乃を演じる南沙良は、雑誌のモデルとして活躍する一方、2017年には話題作『幼な子われらに生まれ』で女優デビュー。今作ではコンプレックスを持った少女の葛藤を繊細に表現している。

ヘアメイク・藤尾明日香 スタイリスト・道券芳恵 衣裳・CLAUDIA LI(メゾン・ディセット)TEL:03-3470-2100 撮影・蔦野裕 

 主人公の志乃は喋ろうとするたびに言葉に詰まってしまうというコンプレックスを抱えた女の子。高校1年の1学期、最初の自己紹介で自分の名前を言う事ができず、クラスメイトから笑われ、からかいの対象になってしまう。

「最初の自己紹介の場面が、リアル過ぎて、すごくつらかったです」と南。

「私も中学校の時に、最初の自己紹介で緊張してしまって…。その時はクラスではなく、学年全員の前で自己紹介をしなくちゃいけなくて、立ち上がったんですけど、結局何も言えないまま、先生に座りなさいって…。その時の自分の気持ちを思い出して、苦しくなりました」

 心を閉ざした志乃は、お弁当も校舎の裏手で食べるような孤立した学校生活を送る。しかしある時、同じクラスの加代(蒔田彩珠)と仲良くなる。

「加代は志乃とは別の意味で、自分はほかのクラスメイトの女の子たちとは違うと感じている女の子。一匹狼で強そうだけど、実はすごくコンプレックスがあって、それを自分だけで抱え、人に気づかれないようにしている。そんな共通の悩みを抱えていたから2人は通じ合えたと思うし、志乃は加代のコンプレックスを受け入れ、加代も志乃のうまく喋れないという現実を受け入れる事ができたという気がします。加代は志乃が喋り終わるのをちゃんと待っていてくれるし、志乃には心地が良かったんだと思います」

 加代役の蒔田彩珠とはプライベートでも一緒に過ごすことが多かったという。

「彩珠とは本当に仲が良かったです。撮影の合間もいっぱいお話しましたし、一緒にカラオケに行ったりもしました。撮影は沼津で行われていて、2週間ほどホテルに滞在しましたが、隣の部屋だったので、撮影の後遊びに行って、そのまま泊まっちゃったりしたこともあるくらい(笑)。彩珠は加代と似ている部分があって、すごくしっかりしているんです。自分の中に1本芯が通っている部分があるところが加代っぽいかなと感じていました。2人でいる時は、ずっと笑っていたので、周りはかなりうるさかったんじゃないかな(笑)。年も学年も一緒なので、学校の話をしたり、彩珠がギターの練習をしている時に私が歌ったり。また、撮影が終わってからも一緒にご飯に行ったり、映画を見に行ったりしています。この前は『銀魂』を見に行きました(笑)」

 友達になった2人は加代がギターで演奏をして、志乃が歌うというスタイルで“しのかよ”というバンドを結成。文化祭で演奏するために猛練習をするが、些細なことで心がすれ違ってしまう。

「2人がギクシャクするところは、すごく共感できる部分があります。私が通っていた学校でも、女の子同士の束縛というか、“この子は私のもの”っていう執着心を持つ人がいたような気がします。2人の世界が心地よくて、ほかの人がその子と仲良くしていたら嫉妬しちゃうみたいな。そこはすごくリアルだなと思いましたし、ありがちだなって。志乃と加代の間にも、クラスメイトの菊地というお調子者の男子が割り込んできて、志乃は加代が取られたような気がしてしまったんだと思います。また、それに対して“なんだこいつ”って思っているのに、それをうまく表現できない自分自身に対する怒りとか、悔しさがあるのかなって。ただ、菊地を入れた私たち3人は、すごく似たもの同士なので、加代は彼を受け入れたと思うのですが、志乃はそれが分かっていながらも我慢できなかったのかも知れません」

 クライマックスで志乃は、加代や菊地、そして自分自身へ思いのすべてをぶちまける。

「クライマックスのシーンは最後に撮りました。撮影に入る前に監督に“すべてのシーンは、最後のシーンに持っていくためのストーリーだから、感じたものや思った事をちゃんと心の中にしまって大切にしてほしい”と言われました。ですから、私もひとつひとつの感情をすごく大切に心に留めながら演技をしたきたので、ラストでは自然と涙があふれてきました。志乃が今まで自分の中に隠してきたものを、あのシーンで全部出し切りました」

 すべてが丸く収まったわけではないが、ラストには希望も見える。

「全編を通して見終わった後、決してハッピーエンドという終わり方ではないかも知れませんが、これから先も志乃と加代、そして菊地は前に進んで行くんだなということを感じうれしくなりました。私自身、自分の中にたくさんコンプレックスがあって、志乃と重なる部分もとても多かった。しかし、撮影が進むにつれ、その嫌な部分をたくさん持っている自分にどう向き合うべきかと考えるほうがずっと大切なんだと気づけました。それで、自分も少し変われた気がします。吃音というのはひとつの象徴ですが、誰もがコンプレックスなり、自分の嫌いな部分なりがあると思うんです。だから、すべての人にどこかしら、当てはまるところがあると思います。その自分が認めたくない部分も一つの個性だと思える、そんな素敵な物語なので、映画を見て下さった方が、そこを感じていただけたらうれしいです。また、押見先生からは、スクリーンの中で動く3人が、自分のイメージそのままだったと言っていただき、すごくうれしかったです。その空気感も伝わればいいなと思います」
(本紙・水野陽子)」

©押見修造/太田出版 ©2017「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」製作委員会
『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』
7月14日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開! 
出演:南 沙良、蒔田彩珠/萩原利久/小柳まいか、池田朱那、柿本朱里、中田美優/蒼波 純/渡辺 哲/山田キヌヲ、奥貫 薫 監督:湯浅弘章 原作:押見修造 「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」(太田出版) http://www.bitters.co.jp/shinochan/