【プレミアムフライデー】官民あげて取り組む静岡市
プレ金のイメージを変える静岡市のプチプレミアムな金曜とは!?
毎月、月末の金曜日に、買い物や家族・カップルとの外食、同僚との飲み会など、個人が幸せや楽しさを感じるためのキャンペーンとしてスタートした「プレミアムフライデー」。午後3時(15時)に仕事を終えることを奨励する「働き方改革」とも連動しているが、ふたを開けると、「そんなに早く帰れない」と嘆き節が聞こえてくる始末。そんな中、静岡県静岡市では、プレミアムフライデーを活用した街を挙げたイベントを展開している。その内容とは一体!?
2017年に行われたカルチュア・コンビニエンス・クラブの調査(仕事をしている18~69歳の男女を対象)では、 プレミアムフライデーに対して「導入する」と答えたのは、わずか3.4%。約70%が、「(現在働いている会社は)導入しない」という回答が示すように、浸透しているイメージに乏しいプレミアムフライデー。そんな中、全国で唯一の官民連携によるプレミアムフライデー推進協議会を立ち上げ、積極的にプレ金運動を展開している市町村が、静岡県の県庁所在地・静岡市だ。働き方改革に取り組む市町村は多いが、プレミアムフライデーと紐づけて推進している市は、全国でも静岡市だけということは、ほとんど知られていない。
プレミアムフライデー協力宣言を表明した企業数は429社
「市長をはじめ行政が旗振り役をするだけではなく、商工会議所や地域活性化を推進する団体、商店街組合、労働者団体等と連携し、「オール静岡」で働き方改革を進めるとともに、受入側のお店や施設等でも積極的にプレミアムフライデーを活かそうと活動してくれていることが後押しにつながっています。静岡市プレミアムフライデー官民推進協議会では、単なる消費喚起ではなく『静岡市から、働き方を変えよう!』をスローガンに、まずは月末金曜日に定時退社して、心豊かな時間の使い方をしていこう、と発信しています」
そう語るのは、静岡市役所、商業労政課の渡辺さん。今回、静岡市のプレミアムフライデーへの取り組みに対して、協力宣言を表明した企業数はなんと429社(!!)。行政だけではなく、(まちへ人を送り出す)企業や職場、そして(人を受け入れる)店舗側の3者が理解を示しているからこそ、街全体が同じ方向性を向くことが可能となった。
「プレミアムフライデー時、ケアサービスなどを行う株式会社「アクタガワ」さんでは、プレミアムフライデーをノー残業デーとするとともに、比較的年齢の若いお父さんを早く退社させることで、家族との時間を増せるような取り組みもしてます。株式会社「お佛壇のやまき」さんでは、会社のスタッフを2班に分け、交互に早期退社をしています。」(渡辺さん、以下同)
驚くことに「お佛壇のやまき」では、二班に分けたことで顧客管理を再整備し、結果として、従業員間の情報の共有性が高まったという。早期退社ができるようにシステムを見直すことで、より業務の効率化につながる。実際に、プレミアムフライデーに踏み切った企業だからこその発見だ。
また、「特別企画を展開してくれるお店や施設なども約200件に上ります」と渡辺さんが説明するように、受け入れる側も静岡市版プレミアムフライデーに対して理解を示す、言わば送り出す側(企業)と、その人たちを受け入れる側(店舗)、双方が足並みを揃えていることは、特筆に値するだろう。
豊かな時間を過ごすために、何ができるかということを考える
プレミアムフライデーに対して、「早く帰れるから、お酒を飲んで楽しもう」というイメージを抱いている人は多いはずだ。それはそれで間違いではないのだが、プレミアムフライデーの本質は、仕事のやり方(ONの改革)と、プライベートの時間の使い方(OFFの改革)を見直し、ワークライフバランスやライフスタイルを向上させること。国の言葉を借りるなら、「幸せや楽しさを感じるための個人消費喚起キャンペーン」だ。静岡市は、“幸せや楽しさを感じるため”に特化することで、他市町村にはないオンリーワンな生活を実現させようとしている。一体、どういうことか?
「早く仕事を上がってビールを飲む、というような時間の使い方以外にも、子どもを早豊かな時間を過ごすために、何ができるかということを考えてく迎えに行き家族で買い物を楽しむ、美術館に行く、スポーツをする……市では皆さんが、豊かな時間を過ごすために、何ができるかということを考えています。例えば、プレミアムフライデーのときだけ家族割が効くお店や施設を増やすといった取り組みが増えていけば、家族にとって静岡市のプレミアムフライデーは特別なものになる」
家族に限った話ではなく、新社会人やカップル、はたまたお一人様など、いろいろな立場の人がその立場だからこそ特別なプレ金を過ごすことができれば、他にはないプレミアムフライデーの差別化ができる。自ずと、「早く上がれたから、お酒を飲もう」という単純な発想も薄れていく。
現在、静岡市では毎月テーマを決めてキャンペーンを行っている。4月なら「新生活を楽しもう」と題して、参加した新社会人がお得にイベントを楽しめる「新社会人 大名刺交換会」や、8月なら「夕涼みを楽しもう」と銘打ち、通常よりも割安価格で飲み放題+乗船料がセットになった「清水港夕涼みクルーズ
船上ビアガーデン」といった具合に、毎月、テーマを設けて、さまざまな人が楽しめる場を創出しているのだ。
プレ金時に街の中心地を訪れると、特別企画を展開してくれるお店に遭遇することが珍しくない。ポイントプログラムが数倍になるといった定番のサービスから、商品を購入するとおまけ商品が付いてくるサービス、腕時計を無料でクリーニングしてくれるサービス、さらには街角で音楽隊が無料演奏を行っているなど、最終金曜日という特別感をヒシヒシと感じる。大きなお得感があるわけではないが、“プチプレミアム”な体験が街中に展開されているのは面白い。
市外、県外からの来街も呼び込むことも出来れば
「もちろん、これらの企画は静岡市民以外の方でも参加可能です。我々の目指す先は、働き方改革を進める一つのきっかけとしてのプレミアムフライデーですが、市外、県外からの来街も呼び込むことも出来ればと考えています」
たしかに、静岡市は東京から車で約2時間、高速バスでも約2時間半という距離だ。金曜の夕方に東京を出発すれば、十分、静岡市の プチプレミアムなナイトタイムを堪能できる。翌日の土曜日は、三保松原周辺を観光してもいいし、富士山を眺望するには最高のホテル「日本平ホテル」でランチをした後、レッサーパンダが愛くるしい「日本平動物園」に行ってもいい。夕方に静岡おでんを食べて、ゆっくり帰宅し、日曜日は家でのんびり英気を養う。静岡市にしかないプレミアムな金曜日と土曜日を作り出すことができれば、週末に首都圏から観光客を誘致することも夢ではない。
働き方改革とは、裏を返せば「時間の使い方改革」だ。「プレミアムフライデー? 無理ゲーでしょ!? おとなしく近場でビールを飲むのがいいって」と思いたい気持ちも分かるが、少し頭を柔らかくして、その時間で何ができるか考えてみようではないか。少なくても、静岡市のようにプレ金を最大利用して、観光客にも門戸を開いている街もある。どうせ楽しむなら、やる気のある街で楽しんだ方がいいに決まっている。
プレミアムフライデーは時間の使い方を見直すきっかけ
「プレミアムフライデーと働き方改革。頭で理念はわかったとしても、小売店側からすれば、売上増に紐づかなければ、官民一体の勢いも失速してしまう。それだけに静岡市=プレミアムフライデーというイメージを定着させ、多くの方々に関心を抱いてもらう努力を、我々がしていかなければいけない」と渡辺さんが指摘するように、今後は三方の一層の理解に加え、市外、県外にどこまで周知できるかがカギとなる。
静岡市のような取り組みが徐々に増えているからこそ、 プレミアムフライデーを、「どうせ無理でしょ。帰れないよ」と鼻で笑うのではなく、時間の使い方を見直すきっかけとして捉えてみる。冒頭の「導入する」と答えた3.4%という驚愕の数字が物語るように、この国にはもっと休息や余裕が必要なはずだ。そういった意味でも、ユニークかつバラエティに富んだ仕掛けを展開する静岡市に、ありきたりなプレミアムフライデーのイメージを打ち破ってほしいと期待したい。
(取材・文 我妻弘崇)