スタミナモンスター 黒部三奈【ジョシカク美女図鑑 第8回】

9・30「RIZIN.13」の浜崎朱加戦は今後のアトム級戦線と自らの人生を左右する?注目カード

 女子格闘家の素顔に迫るインタビュー企画「ジョシカク美女図鑑」。第8回は「RIZIN.13」(9月30日、埼玉・さいたまスーパーアリーナ)に出場する黒部三奈。

 黒部は昨年2月にDEEP JEWELS アトム級王座を獲得。敗れはしたものの6月には韓国のROAD FC 女子アトム級初代王座決定戦に出場するなど、日本のアトム級のトップ戦線で活躍する選手だ。今年3月の防衛戦ではSARAMI相手に初防衛を果たすのだが、この試合を観戦したRIZINの榊原信行実行委員長がその場でRIZIN参戦をオファーするほどの大激戦。黒部の「いい男を紹介してください」という逆要求も通り、晴れてのRIZIN参戦となった。

(撮影・蔦野裕)

中学の時はソフトボールと陸上。高校では囲碁部に在籍!!
 ついにRIZIN参戦が決まりました。3月に榊原実行委員長のGOが出てから随分待たされたようにも思いますが、この間どんな気持ちで過ごしていました?

「ひょっとして7月大会で声がかかるかな、と思っていました。でも3月の試合ではまだまだ反省すべき点があったので、今はそこを強化した練習をしています。まだ十分ではないんですが、そういう練習をする時間ができたので結果的に9月になったのは良かったとプラスに考えています」

 相手が浜崎朱加選手と聞いた時は?
 
「まあ…そう来るよね、とは思いました(笑)。薄々は…まあそうだろうなって。強い人とやることになるだろうなとは思っていましたから」

 浜崎選手の印象は?

「浜崎さんですか? まず…見た目がカッコいいですよね(笑)」

 以前、RENA選手も浜崎選手のことを「カッコいい系」と言っていた。女子から見ると浜崎選手はカッコいい系?

「男の人から見てもカッコいいと思いますけど(笑)。イケメンですよね」

 試合の印象は?

「打撃に関しては瞬発力があるので飛び込んで来るし、威力もある。組んでも強いですし、見ていて穴がないような気がします」

 組んでからの展開なら自分も負けないという思いがあるのでは?

「まあ、そうですね。自分ができるところで勝負していきます」

 今大会はものすごい勢いでチケットが売れている。これまで一番大きい会場での試合は昨年の韓国での試合。会場の大きさや観客の多さがメンタルに影響することってありそう?

「“おお!”って感じはもちろんあるんですが、あまりそれで気持ちが浮ついちゃうと良くないので、いつも通りにいこうと思っています」

 韓国でも動じることはなかった?

「そうですね、試合が始まってしまえばそういうことはなかったですね。私は試合になるといつも最初にパンチとかもらってしまうんです(笑)。もらって、そこで“ああ~そうか~、試合だ~”ってなるんです(笑)」

 一発もらわないとスイッチが入らない?

「ぼんやりしているところがあるんですかね(笑)。いつもなんかもらってしまう」

 なかなかその癖は直らない?

「いや~今回こそは直しますよ(笑)。今回はそれやっちゃうと本当にやばいですから」

 昔からそうやってもらっちゃう?

「どうですかね~。まあスロースターターではあります」

 35歳でプロデビュー。そもそもなぜこの世界に?

「ダイエットとか運動不足の解消のために最初は普通のフィットネスクラブに行っていたんですが、そこのレッスンの中にボクササイズがあったんです。やってみたら楽しかったので、もう少しやりたいなって思って、それでミットを持ってもらえるところに行ったという感じです。そのうち、いいパンチが打てるようになって、だんだん格闘技にはまっていきました」

 その前はなにか運動は?

「中学時代はソフトボール部とか陸上部に入っていました。陸上では砲丸投げをやっていたんですが、そんなに運動神経は良くなかったんです。運動部に入っていたほうがいいかな?と思って入っただけで」

 砲丸投げはある程度体が強くないとできなさそう。

「腕力とかは割とあったほうですね」

 ではその辺が格闘技の素地になった…?

「でも高校の時は囲碁部でしたから」

 囲碁部!

「オセロとかが結構得意だったので。それに教えている先生が数学の先生だったんですけど、すごく優しいいい人だったんです」

 そして大学は日大芸術学部に進学。日芸はそんなに簡単に入れる大学ではない。

「映像関係の学科は大変なんですけど、私は油絵科なのでそんなに難しいというわけではなかったと思います」

 もともと油絵を。アート系なんですね。

「はい。そして卒業してからはグラフィックデザイナーになりました。やっぱり、油絵だけを描いていても生きてはいけないので(笑)」

 学校の先生になろうとは思わなかった?

「そうなんですが、美術教師なんて1校に1人いればいいというくらいなので、教師になるのもなかなか難しいんです」

 どんな絵を?

「抽象画が多かったですね。動物なんかも描いていました」

8月24日に行われた会見で。黒部(右)と浜崎(©RIZIN FF/Susumu Nagao)

「榊原さん、ひょっとして彼氏候補を探したくないから浜崎さんを当ててきたのかな(笑)」
 3月の防衛戦後、その場でRIZINのオファーを受けた際の“彼氏欲しい”アピール。そして参戦が発表された7月大会ではリング上から「榊原実行委員長に “勝ったら彼氏候補を紹介する”と聞いてのこのこやってきました。勝ってマーク・ハント似の彼氏を紹介してほしいので死んでも勝ちます」と挨拶。すっかり彼氏ネタが定着している。

「3月に勝った時のマイクがそうなっちゃって、それで発信しちゃったんで(笑)。でもこの展開はこれはこれでおいしいかなって思っています(笑)」

 試合後のマイクはアドレナリンが出ていて、なんでも喋れちゃう感じ?

「終わった後はホッとしているんで、リラックスして喋れますよね」

 マーク・ハントがタイプとのこと。どういうところが好き?

「顔、体格がクマっぽいところ、両方ですね。日本人にはあのタイプはなかなかいないんですよね(笑)。ハント選手のことはK-1のころからレイ・セフォーとの試合なんかを“おお”って感じで見ていました(笑)」

 そこでピーター・アーツとかバダ・ハリとかにはいかずに…。

「マーク・ハントでしたね」

 セフォーも守備範囲?

「そうですね、入ってます。サモア系が好きなんですかね(笑)」

 名言連発のマイクアピールは見ていて楽しい。

「いや、リングでマイクを持つときは緊張しているんですよ。私、恥ずかしがり屋なんで、本当に人前に出るのは苦手なんです。本当は出たくないんです」

 女子格闘技の人気が高まってきたことについてはどう思う?

「うれしいですよね。でも自分はまだ注目を浴びているとは思っていないんで(笑)」

 実はまだ6年目だし?

「そうなんです。ベテランではないんです(笑)」

 これからRIZINに出て脚光を浴びるチャンス。

「でも本当に人前に出るのは苦手なんですよね(笑)」

 日々の生活パターンはどんな感じ?

「私の所属するマスタージャパンというジムは弘中邦佳選手が代表を務めていて、以前はこの水道橋のジムに常駐されていたんですが、今は福岡にもジムを作ってそちらで指導されているんです。弘中代表が福岡のジムに常駐するようになってからは私がここのことは全部見ているんです。全部といっても掃除をしたり洗濯をしたりということですよ(笑)。週2回は格闘技用品などを販売しているフィットネスショップで朝から夕方まで働いているんですが、ほぼジムの管理をしながら自分の練習をしています。毎週日曜日には和術彗舟會HEARTSさんに出稽古に行っています。あそこは女子選手がたくさん来るので、ここで足りていないと思うところはそちらで練習していますね」

 ジムでは会員への指導も? 女子で格闘技をやりたいという人も増えているのでは?

「女子の会員さんも何人かいます。ちょっとずつ増えてきてはいますね」

 ほとんど休みなし?

「1日丸々休みという日はないですね」

 体を休める時間も必要なのでは?

「でも、スキを見つけて寝ているんで大丈夫です(笑)。家や職場からジムまでの移動の時間がない分、休む時間に充てられるじゃないですか」

 格闘技にどっぷりつかれる環境を作ったんですね。

「はい。最近は近くにも引っ越しましたし」

 今後戦っていく中での目標設定は?

「毎回、本当に次の試合がクライマックスみたいな状況が続いているので、あまり先のことを考える暇もないんです(笑)。今回対戦する浜崎さんは世界チャンピオンでしたからね。勝ったらすごいですよね。いや、もちろん勝つつもりでいますけど(笑)」

 ベルトを獲る前はベルトを獲るという目標があった?

「ありましたね。でも始めたころはまさかそこまで行けるとは思っていなかったんですけど、見えてきたらベルトを獲りたいなって思うようになりました」

 獲ってからは?

「やはり浜崎さんのような強い選手と戦って、それを乗り越えるという感じですね」

 海外で試合をしてみたいといったことは?

「格闘技をやっているからにはそういった憧れはあります。だからひとつひとつクリアしていけばそういうチャンスにもつなげられるのかなとは思っています」

 今後の人生設計って考えてますか?

「人生設計…。考えていたら41歳でこんなことしてるのかな(笑)。本当に今を全力で生きるだけですね。後はなるようになります(笑)」

 では今の流れ的にはまず彼氏を作るということですね。

「そうですね。彼氏ですね。榊原さん、本当に探してくれていますかね。ひょっとして探したくないから浜崎さんを当ててきたのかな(笑)」

 浜崎選手も「彼氏作りを阻止したい」とかうまい返しで乗ってくれてます。

「そうですね。何の話だ?って感じになってきてますね(笑)」

 彼氏ができた後もこのネタを引っ張るのも面白い。

「ストーリーがうまくできすぎましたよね(笑)」

 では次の試合の後も流れるようなマイクを期待しています。

「そんなプレッシャーかけないでください(笑)。それ、ただのプレッシャーですから(笑)」

 35歳でプロデビューを果たし、現在41歳。こつこつと白星を重ね、DEEP JEWELS アトム級王座を獲得。本人は「試合は泥臭い」と言うが、最後まであきらめない戦いは見る者を感動させる。プロ格闘家でありながら「人前に出るのは苦手」という一方で、ひょんなことから生まれた「彼氏欲しいキャラ」を適度に楽しんでいるその姿は酸いも甘いもかぎ分けた大人のそれ。

 今回、浜崎に勝てば、その勝利は国内の団体の王者が元世界王者に勝つという日本の女子格闘技界にとってはとても大きな意味を持つものになる。そして「彼氏ネタ」をもう少し楽しむこともできる。果たして「両手に花」の大団円か「二兎を追うものは一兎をも得ず」に終わるのか…。大きなテーマと思わぬドラマを抱えた試合となりそうだ。(本紙・本吉英人)