矢野聖人、初主演映画の共演者はクジラ?!

 日本唯一のクジラ博物館を舞台に、そこで働く若者たちの実話をベースにした『ボクはボク、クジラはクジラで、泳いでいる。』が公開される。主人公の鯨井太一を演じる矢野聖人は、意外にも同作が映画初主演。これまでのイメージを打ち破るクジラを純粋に愛する飼育員を熱演。

撮影・蔦野裕(以下、すべて)

「ただ純粋にクジラを愛している青年役は、今まで僕がやった事のないキャラクターだったので、すごく楽しかったです」と矢野。
 確かにイケメンでスタイリッシュなイメージがあるだけに、純朴な鯨井の演技は新鮮だ。
「一つの挑戦というか、役に引き出しを増やすためだと思い、役作りをしました。具体的には、声のトーンを上げるとか、喋るスピードが速くならないようにとか。自分の中で、太一君の独特の間を作ったりもしました。ファンの方や、僕を知っている家族や友達が見たら、びっくりするかも知れませんね(笑)。最初は、インパクトが強いかも知れませんが、見ているとだんだんなじんでくると思います」

 舞台は実在する博物館。

「和歌山県南部にある『太地町立くじらの博物館』が舞台で、そこでロケも行っていました。僕の撮影自体は実質16日間だったのですが、撮影に入る1カ月前に3日間ほど行って、飼育員さんの1日を体験させていただきました。クジラとコミュニケーションをとる練習などもしたのですが、その後1カ月空いてしまったので、最初は不安もありました。しかし、実際に撮影に入ったら、ちゃんとクジラとコミュニケーションもとれましたし、飼育員さんの動きのイメージも残っていたので、貴重な3日間だったんだなと思いましたね。また、和歌山県のその町は、海があって山があって、星も東京の何倍も見られる。僕は東京育ちですし、祖父母も近くなので、帰る場所があるのはうらやましいなって。のびのびして大らかな気持ちになれる、こんな場所が自分の田舎だったら素敵だろうなと思っていました」

 生き物が相手なだけに苦労したことも多かった。

「種類や個体によっても性格が違うので、それぞれのクジラの個性を見極めるのが大変でした。クジラにはそれぞれ癖があるので、調整に苦労しました。右目でサインを見るクジラだったり、左目で見るクジラだったり。また。ちゃんと正対している時じゃないとサインを出しても動かないとか。そういう癖もちゃんと自分たちで把握して、演技をしなければならなかったのが難しかった。あと、イカが好きとかさんまが好きとか食べ物の好みもありますしね。そういう事を自分たちがちゃんと分かってあげて、調教しなければならないんです。でも、そんなクジラたちと触れ合っていると、人間と同じだなって。食べ物の好き嫌いがあって、癖もあって。人間もクジラも同じ生き物なんだって、当たり前ですが。シンプルに感じた事を覚えています」

 共演の武田梨奈さんに得意のハイキックをお見舞いされていましたが(笑)。

「あのシーンはもともとなかったのですが、監督が空手の得意な武田さんに、せっかくだからハイキックでと提案して、急きょ決まりました。僕は武田さんのキックを受けて派手に飛ぶだけでしたけど、意外に怖いんですよ、あれ(笑)。対面している時に蹴りをもらい後ろにぶっ飛ぶんですが、後ろが見えていないまま飛ばなければならなかったのと、ちょっと高い所に立っていたので、マットが敷いてあるとはいえ、すごく怖かったです(笑)。でも武田さんって水が苦手で泳げないと言っていたのですが、2日ぐらいでクジラの上に乗ってサーフィンをするという技をマスターしていたので、驚きました。泳げないなんて嘘なんじゃないかって(笑)。それだけ身体能力が高かったのだと思いますが、武田さんでなければできない部分もあったと思います」

 その武田さん演じる白石唯と岡本玲演じる間柴望美は太一の良き理解者として、互いに支え合っている。

「太一は仕事は遅いかも知れないけど、クジラに対する理解や愛情がとても強いというのを、分かってくれたのが2人でした。映画の中ではいつも僕がご飯を作って、女子会みたいな感じになっている(笑)。2人とは同い年なんですけど、僕自身は人見知りなので、うまくコミュニケーションが取れるか心配で…。それをプロデューサーさんに相談したら、次の日に武田さんと岡本さん、それに僕とプロデューサーさんで撮影上がりに焼き肉を食べる会を作ってくれて。僕は2人と仲良くなる機会を作って下さったんだなって心の中で感謝していたのですが、会が始まって早々にプロデューサーさんが、“矢野が2人とコミュニケーション取れないって言うからさ”ってバラしちゃって(笑)。それは言わないでよって思ったんですけど、それをきっかけに、撮影中にいじられるキャラになった(笑)。でもそれが、役柄の3人の関係性とマッチしていたので、結局は良かったかなって思いましたけど(笑)」

 大自然とかわいいクジラたち、そして飼育員の絆など、見どころ満載の同作。どのあたりを注目して見てもらいたい?

「この映画って、いろんな要素があると思うんです。好きな事に夢中になるという事、人間関係、目標をやり遂げる事の難しさ、楽しさなど本当にさまざまな側面を持っている。だから、見る人によって、いろいろなふうにとらえてもらうのが一番いいかなと。何かに頑張っている人を応援する気持ちとか、夢中になれる事を見つける素晴らしさとか、シンプルにクジラに会ってみたいなとか、和歌山に行ってみたいなとか。見ていただいた方が、一番その時の気持ちにしっくりきて、何か自分なりの感想を持っていただければ、こんなにうれしい事はないと思います。青春映画だけど、ただの青春映画ではない。さまざまな事を感じ取り、いろいろなふうに解釈してもらえたらいいなと思います」

 今後、挑戦してみたい役を聞くと「二枚目のキラキラ系王子様!」と意外な回答。クジラをこよなく愛する心優しい太一君もキラキラ輝いていましたよ。

『ボクはボク、クジラはクジラで、泳いでいる。』
11月3日(土)シネリーブル池袋ほか全国順次ロードショー

【ストーリー】
くじらを飼育している、和歌山県南部にある「太地町立くじらの博物館」。来客も増えず、次々に飼育員が辞めていく中、館長は、経験豊富なベテランスタッフから強い反対を受けても、飼育員リーダーに、純粋にくじらを愛する青年・鯨井太一(矢野聖人)を任命する。東京の水族館からピンチヒッターとして呼ばれた白石唯(武田梨奈)や、学芸員の間柴望美(岡本玲)ら、同僚たちの中にも懸命に太一をサポートする人も現れるが、皆を悩ませていたのは来客が少ないことだった。そんな中、博物館を盛り上げるために太一は、スタッフの手作りによる「くじらまつり」を行うことを思いつく。しかし、開催を目前に控えたある日、「くじらまつり」中止の危機が訪れる…。