激動の朝鮮半島をめぐる「不都合な真実」(その3)【長島昭久のリアリズム】
北朝鮮情勢は、6月12日のシンガポールでの米朝首脳会談からあたかも時が止まったままのように見えます。まさしく交渉の入り口で米朝双方が睨み合ったまま動く気配がありません。何故そんなことになっているのでしょうか?
「非核化」に向けた実質交渉入りを阻む最大のネックとなっているのは、休戦状態のまま65年の歳月が経過した朝鮮戦争にピリオドを打つ「終戦宣言」の是非をめぐる問題です。シンガポールの米朝首脳会談に先立ち4月27日に板門店での南北首脳会談で合意された「板門店宣言」では、「南北は、休戦協定締結65年になる今年中に終戦を宣言し」と明記されました。その上で、同宣言は「休戦協定を平和協定に転換し、恒久的で強固な平和体制構築のための南北米3者または南北米中4者の会談開催を積極的に推進していくことにした」などと、その後の具体的なプロセスにまで言及しています。しかも、シンガポールでの米朝首脳合意では、この「板門店宣言を再確認し、朝鮮民主主義人民共和国は朝鮮半島の完全な非核化に向け取り組む」と明記されました。
したがって、北朝鮮サイドとしては、自分たちが非核化に着手する前に、南北で合意した年内の「朝鮮戦争終戦宣言」を行った上で、他ならぬ米朝首脳合意の第2項目に明記された「(米朝両国が)朝鮮半島での恒久的で安定的な平和体制の構築に向け協力する」との目的を達するため、南北朝鮮が模索する「南北米3者または南北米中4者の会談」を開催すべきではないか、という主張を繰り返すことになるわけです。
もちろん私たちとしては、一刻も早く北朝鮮が非核化の具体的行動を取るべきだという立場ですが、いやしくも南北や米朝の首脳間で合意した事項はきちんとわきまえて物事を進めて行かねばなりません。その意味では、北朝鮮が無理筋の主張を繰り返しているとは言い切れません。しかも、朝鮮戦争を終わらせる政治宣言くらいなら、さっさとやってしまえとの意見も根強くあります。
ただし、実際に「終戦宣言」を行うべきかについては、なお詳細な検討が必要です。紙幅が限られてきましたので、今回は懸念事項の頭出しにとどめますが、①「終戦宣言」によって、朝鮮半島の内外に展開する朝鮮国連軍の役割が終わるのか、②終戦宣言によって南北朝鮮の敵対関係まで解消されるのかどうか、③敵対関係が解消されるのであれば、在韓米軍の存在意義はどうなるのか、④在韓米軍が撤退あるいは大幅に削減されることによる我が国の安全保障への影響をどう考えるか、など検証すべき課題は少なくありません。
(衆議院議員 長島昭久)
東京21区(立川市、日野市、国立市、および多摩市・稲城市・八王子市の各一部)衆議院議員。元防衛副大臣。慶應義塾大学で修士号(憲法学)、米ジョンズ・ホプキンス大学SAISで修士号(国際関係論)取得。現在、衆議院文科委員会委員、子どもの貧困対策推進議連幹事長、日本スケート連盟副会長兼国際部長、2017年6月より日本体育協会(現在は「日本スポーツ協会」)理事