堀潤氏が小学生に「伝える」ことの大事さを講義【夢の課外授業】
子どもたちが夢や目標を持つためのきっかけづくりを目指す『夢の課外授業』(主催:二十一世紀倶楽部)の「学校訪問スタイル」の授業が1月17日、ジャーナリストの堀潤氏を先生に迎え、神奈川県横浜市のマリア・モンテッソーリ・エレメンタリースクールで開催された。この日は小学1~6年生の66人が参加した。
日本では伝えられていないニュースを知ってほしい
同スクールは子どもの主体性を重んじる教育方針を持つことから6年生の児童たちが中心となって、会場づくり、堀氏ら来校した関係者の出迎え、案内などを行った。
堀氏は年末年始にかけアジア、中東、ヨーロッパを取材で回ったことから、前半は中東、特にシリアの内戦から逃れてきた人たちがいるヨルダンの難民キャンプでの取材について話した。
まずは現地で活動する日本人ボランティアの活動を紹介。それは栄養失調になりがちな子供たちのために、母親たちに限られた食糧で栄養のバランスのいい食事を作るレシピを伝えるというもの。堀氏は「こういう活動は日本のニュースの中では十分に伝えられていない。もっとみんなに知ってほしい」と子供たちに訴える。
そして現地でのエピソードとして堀氏が「早く平和になればいい」と言うと「平和というのは誰にとっての平和の話なのか? 我々パレスチナも平和を求めているが、銃を向けているイスラエルも平和を求めているはず。だからぶつかる」と返されたこと。そこで「ジレンマ。そこをどう乗り越えていくのか」と深く考えさせられたことを明かした。
またヨルダンでの取材を語るにおいては「シリアには残酷な映像がたくさんある。今日はみんなにはそれは見せたくない。でもいつか自分で“見る”という判断をしたときには自分で検索して見てほしい。多くのジャーナリストや現地の人が自分で撮った映像をインターネット上にアップしている」と小学生たちに自分で判断することを進めた。
伝える内容がすごく偏っていたらどうなる?
また難民キャンプの子供たちに将来なりたい職業を聞くと、だいたいが医者か学校の先生と答えることについて「この子たちはその職業しか知らないから」という現地のボランティアの言葉を紹介。そして「子供のころから難民キャンプにいる子たちは医者と先生くらいしか知らない。イメージがない。これはすごく悲しいこと。子供たちの未来の選択を奪っている。平和な国は頑張れば自由に選択ができる。平和じゃないことの何が一番悲しいか。選択ができないこと。生まれる場所は選べない。たまたまシリアに生まれた。たまたまガザ。たまたま東京に生まれた。同じ年なのに、ある子供は選択ができる。ある子供は想像もできない。こんなアンフェアなことがあっていいのか」と続けた。
そして原因不明の病気の子供がキャンプでの生活ではお金を工面できないことから手術を受けられないというケースについて、母親に「私の息子を助けるためにも世界に向けてこの情報を発信してほしい」と託されたことを明かし「こんなことも行ってみないとなかなか分からない。でも誰かがこの情報を受け取ればアクションが起こる可能性がある。どこかの誰かがひょっとしたら動き始めるかもしれない。ゼロの可能性を前に進めることができる。発信する、伝えることはすごく大事なこと」と話した。
実際に難民キャンプで出会ったシリアの木工職人と日本の職人がコラボする場を作りたいと、堀氏のフェイスブックにアップしたところ、「内戦前にこういうイベントを準備していた」という日本にいる中東出身の人が手を挙げてくれたという例を挙げ「現場に行かなければ、僕もそんなことは1ミリも思わなかった。現地で話を聞いて感じて、発信したら応えてくれる人がいた。知った、伝えた、伝わった。それが今度はアクションに変わる。“知った”がなければ何も進まなかった。伝える人がいなかったら伝わらなかった。バトンを受けた人がまた伝えた。いろいろな連鎖が起こった」と知ることから始まる情報の伝達の重要さについても語った。
一方で、北朝鮮に取材に行った時の現地の様子が堀氏の知っている北朝鮮とは大きく違っていたことから「伝える」ことについても「伝えることは大事。でももし伝える内容がすごく偏っていたらどうなる? 危ない、敵という情報しか伝わっていなかったらどうする?」と問題提起をしたうえで「僕の考えをみんなに強要しているんじゃない。自分で考えてごらん、ということ。選択してほしい。これからニュースを見る時に“どういうことかな?”と考えてほしい」と情報が同時に持つ危うさの一面を指摘し、ニュースを見るうえでのアドバイスを送った。
伝えることについて3つのポイントを伝授
そして講義は緩やかに「伝える」ということの重要性にシフト。
堀氏はまず「みんなには伝える人になってほしい。伝えることがどうして大切なのか。それはあなたがあなたらしくいられるため」と前置きしたうえで「きちんと伝えられない状況は自分らしさを失う。自分の思っていることをちゃんと誰かに言う。逆に誰かが自分にちゃんと気持ちを言ってくれる関係は、それぞれの“らしさ”をみんなで許し合っている社会。健全。誰かがどこかで我慢しなければいけない。だれかが我慢しているから一見幸せに見えるのはおかしい。だからみんなが思っていることをしっかり伝えればいい。伝わらないで起きることは分断、対立、いじめ、戦争」と続けた。
そして伝えることについて3つのポイントを上げる。まずは「大きな主語<小さな主語」。これについては堀氏は「大きな主語は乱暴。誤解、余計な差別を生みやすい。大きな主語で語る前に、一瞬、踏みとどまって、小さい主語で語ってほしい」と説明。
2つ目は「オピニオン<ファクト」。
「僕は事実を知らなければ意見なんてなかなか生まれないんじゃないかと思う。意外にテレビで喋っている人の中にも本当は知らないのに語っている人がいっぱいいる。イメージと決めつけで喋っている。これは危うい。意見を持つ前に事実を知ろう。事実を共有してから話し合いを進めようということをしてほしい」と話した。
そして最後は「言葉の因数分解」。
堀氏は「平和ってなに?」と子供たちに問い掛ける。すると、自由、選択、幸せ、豊か、ラッキー、気持ちいい…といった言葉が飛び出した。堀氏は序盤のイスラエルにおける平和の話をもう一度し、「同じ言葉でも自分の思っていることと相手が思っていることは違うかもしれないということを一度考えてほしい」と訴えた。続けて「優しいってどういうこと?」と問うと、ここでも愛、思いやり、我慢、気配り…とさまざな言葉が並んだ。こちらについても「優しさの定義も違う。良かれと思ってやったことも相手を傷つけることがあるかもしれない」と説いた。
そして「私とあなたは違う。でもそれが当たり前と思ってコミュニケーションを取るということが伝える力かなと思う」と講義を締めくくった。