【江戸瓦版的落語案内】引っ越しの夢(ひっこしのゆめ)& おススメ落語会

 落語の中には、粗忽、ぼんやり、知ったかぶりなどどうしようもないけど、魅力的な人物が多数登場。そんなバカバカしくも、粋でいなせな落語の世界へご案内。「ネタあらすじ編」では、有名な古典落語のあらすじを紹介。文中、現代では使わない言葉や単語がある場合は、用語の解説も。

 若い奉公人を大勢抱えている大店の主人。女の事で何かあっては困るから、女中はできるだけ器量が悪い女をと、口入屋(現在の職業紹介所)に頼んでおいた。しかし今回、口入屋の斡旋でやってきたのが、これまでとは真逆の絶世の美女。実はあまりにも不器量な女中ばかりが来るので、番頭が裏で口入屋に手を回し、美人の女中を紹介したもらったというワケ。願い通り、いやそれ以上の美女に、番頭だけではなく、店中の男たちがソワソワ。中でも一番鼻息があらいのが、件の番頭。50歳を越えていまだ独り身の番頭は女中にさりげなく近づき、着物を買ってやるなどと調子のいい事を言って口説こうとする。「なーに、お金の心配はすることないさ。いざとなったら、帳面をドガチャカドガチャカやってだな…」と上機嫌。

 そしてまた「そうそう、ワシは寝ぼけると人の部屋に入ってしまう癖があるけど、そうなっても声を出さないように」と夜這い宣告。ほかの男たちも、それぞれなんとかこの女中の気を引こうとやっきになっている。店の女将さんはそれを見て一計を案じ、女中を自分の部屋ではなく、台所の中二階で寝るように指示。念のため、そこに登る梯子を外しておいた。その夜、番頭は仕事を早じまいし、ほかの奉公人を無理やり寝かせて、自分は布団の中で様子を注意深く観察。みんなが寝静まったのを確認するとおもむろに起き上がり、抜き足差し足で部屋を出る。そして向かったのは台所。女中が中二階に寝ているのはとっくに調べ済みだった。真っ暗な中、手探りで梯子を探そうとする番頭。

 しかし、梯子は女将さんによって外されていたため、仕方なく吊ってある棚を使ってよじ登ろうと手をかけると、木が腐っていたのか崩れ落ちてきた。それを担ぐはめになったまま、身動きが取れないでいると、同じ事を考えていた二番番頭がこっそりやって来て、もう一方に手をかけた。案の定棚は崩れ落ち、こちらも担ぐはめに。結局2人で棚を担いでいる格好になったまま、動けないでいると、物音を聞きつけたお女将さんが灯りを持ってやってきた。「まずい!」とばかりに、そのままの格好でグーグーといびきをかいて狸寝入り。その様子を見たお女将さんが驚いて「2人ともこんな時間に棚を担いで、どうしたんだい?!」「へい。引っ越しの夢を見ていました」
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