【江戸瓦版的落語案内】花見の仇討ち(はなみのあだうち)
落語の中には、粗忽、ぼんやり、知ったかぶりなどどうしようもないけど、魅力的な人物が多数登場。そんなバカバカしくも、粋でいなせな落語の世界へご案内。「ネタあらすじ編」では、有名な古典落語のあらすじを紹介。文中、現代では使わない言葉や単語がある場合は、用語の解説も。
長屋仲間の江戸っ子4人が何やらひそひそ。大勢の人でにぎわう上野の花見の趣向に、やらせの仇討ち狂言をやって、見物人を驚かそうと話がまとまった。浪人者に扮した男が桜の木の下で煙草を吸っていると、巡礼の兄弟が煙草の火を借りようと、顔を覗き込む。するとそこには親の仇。「やや、それがしは、わが父を討って逃げた大悪党。ここで会ったが百年目。いざ、尋常に勝負しろ!」と刀を抜く。浪人も「2人とも返り討ちにしてやる」と刀を構え、双方にらみ合い。と、そこにもう一人が六部の姿で現れ仲裁。酒と肴を振る舞い、三味線に音曲、踊りとなったところで、花見の趣向だという事が分かり、拍手喝さいという寸法だ。練習を重ね、花見の当日。それぞれが衣装や小道具を用意し、上野の山へ。浪人役は桜の木の下で煙草を吸ってスタンバイ。
一方、六部役の男は、途中バッタリと叔父さんに出くわした。この叔父さんが男のいで立ちを見て、四国巡礼に行くと勘違いし、必死に引き留める。いくら説明しても耳が遠い叔父さんには通じない。やむなく叔父さんを酔い潰して逃げようと思ったが、逆に酔いつぶれて寝入ってしまった。そして巡礼の仇討ち兄弟も、立ち回りの稽古のため、振り回していた杖が通りかかった侍の頭に当ってしまう。怒りが収まらない武士に仇討ちの途中だと嘘の言い訳。侍は感心し、仇に出会ったら、必ず助太刀すると言って立ち去った。待ちくたびれた仇の所へ巡礼兄弟が登場。「親の仇!」と言うと、筋書き通りに茶番の立ち回り。どちらもケガをしないように呼吸を合わせているので、まったく迫力がなくへんてこりんな仇討ちに。
しかし、止めに入る六部が一向に現れず、最初は盛り上がっていた野次馬もざわつき始めた。そこへ、運悪く先ほどの武士が通りかかり「さっきの巡礼兄弟。とうとう仇を見つけたか。約束通り助太刀致す!」と抜刀。驚いたのは仇役の男「なんだい、助太刀って。なんだってこんなもん頼んだんだ!」「なんだか分からないうちに、こうなっちまったんだよ。仕方ないからあきらめて切られてくれ」「冗談じゃない、逃げるぞ」「じゃ、俺らも逃げるよ」。何故か一緒に逃げ出した。その背中に武士が「逃げるにはおよばぬ。勝負は五分と見た!」「いえ、肝心の六部が参りません」