「尾崎世界観は、私たちが大声で言えないことを言ってくれる」クリープハイプ最新ツアーライブリポート

撮影・冨田味我

代表曲のオンパレード! ここまで更新し続けるバンドがいたろうか



尾崎が書いた曲を、さまざまなアーティストとユニットで歌い話題になった「栞」では、会場に桜ではなく、金銀のリボンが散った。クリープハイプにしては、派手な演出だなあと感じた。しかし、一匹狼のように活動しているように感じていたクリープハイプが、他の様々なバンドと合同で歌う曲を出した時は衝撃だった。クリープハイプも、少しづつ前に進んでいるのだと思う。

後半戦は名曲のオンパレードだった。1stアルバムの名曲「オレンジ」、映画『百円の恋』の主題歌となった「百八円の恋」、シングルカットされた「社会の窓」、最も愛されている(ように感じる)「HE IS MINE」。

「社会の窓」の歌詞に、このようなフレーズがある。

すごく大好きだったのに あのバンドのメジャーデビューシングルが
オリコン初登場7位 その瞬間あのバンドは終わった
だって私のこの気持ちは シングルカットできないし

クリープハイプのキラーチューンだ。古株ファンが有名になっていくバンドを見て、少し今までより遠く感じてしまうような、そんな心境が歌われている。今やクリープハイプ自身が、そんな場所に来てしまっている。もう昔のような、小さなライブハウスでは見ることができない。

しかし、クリープハイプは前に進んでいる。昔の代表曲はやっぱりアツい。でも、アルバムの代表曲「栞」だって、同じくらいアツかった。

ここまで昔のファンを抱えながら、昔の曲を愛されながら、新しい曲を支持させるバンドが他にいただろうか。最近は音楽業界自体が、アップデートされないことを嘆かれることも多い。でもクリープハイプは違うのだ。

撮影・冨田味我

後悔だけではだめだ 自分を受け入れて前に進もう



公演の終盤。追加公演のツアー名「こんな日が来るなら、もう幸せといい切れるよ」は、本アルバム「燃えるごみの日」の1フレーズから来ている。

思えば昔のクリープハイプの曲は、「後悔」をはらむ曲ばかりだった。終わった恋愛、うまくいかない人生、噛み合わない男女。
しかし、「燃えるごみの日」は違う。大切な人と過ごす日々の、なんでもない日常の尊さを歌っている。

終盤のMCで、尾崎はこう語った。

「ライブをしなければ考えなくて済むことがたくさんある。でもライブをすると、こんなに考えることがある。幸せだと思って、ライブで歌うことはあまりないです。ライブをしていて 楽しい、気持ちいいと感じることはほとんどない。でも、だからこそ長く続けられるのだと思うし、これからも続けていきたいと思います」

尾崎自身、満たされない何かや、認められない自分を抱えながら生きてきたのかもしれない。でも、クリープハイプにはこうしてたくさんのファンがいて、今尾崎は、後悔ではない感情も歌っている。

最後の一曲はシングルカット曲、「おやすみ泣き声、さよなら歌姫」だった。会場の多くが涙していた。

終演後、今度は男性に「なぜクリープハイプが好きなのか」を聞いた。25歳の男性は、こう答えてくれた。

「彼の人間性に共感することがすごく多い。彼はきっと、声とか、他のもろもろ含めて、自分のことがキライなのかもしれないけど、でも恥ずかしいことや言いづらいことを、あんなに必死で歌ってくれるから。自分も、もう一歩進みたくなる。あこがれの人」

彼が歌う人間味の深い歌詞で、勇気づけられる人がいる。尾崎世界観も私たちも、明日も息をして生きていき、1日ずつ歳を取るのだ。

愛にあふれたライブだった。

(文・ミクニシオリ)

撮影・冨田味我
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