“学校歴”社会から“超高学歴”社会にシフトせよ【鈴木寛の「2020年への篤行録」第69回】

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 6月に入り、主要企業の新卒採用選考が本格化しています。ただ、もうこれは表向きのこと。実態はというと、人手不足による焦りから企業による優秀な学生の囲い込みは熾烈を極めており、就活シーズンは実質的に「終盤戦」です。

 3月に説明会、面接などの選考は6月に入ってから…という各社の横並びの慣行が続いてきましたが、いまや採用はグローバル化しています。大学生が留学をしない「内向き」も指摘される反面、意欲的な学生は卒業後の就職先も日系企業ではなく、若いうちから実力次第で大きな権限や高い報酬を得られる外資系企業をめざすようになっています。実際、東大の優秀な教え子たちを見ていても、その志向は年々強く感じるところです。

 ここにきて経団連の中西宏明会長が「終身雇用を続けるのは難しい」と発言し、新卒一括から通年での採用に変わる方向も見せはじめているのも、遅まきながら危機感が反映されてきたのだと思います。

 ところが日本の経営者、あるいは現場レベルでも、若い社員を育てる側の上司の人たちですら、まだまだ認識が変わっていないと思うことがあります。先月、毎日新聞の教育改革特集『令和のはじめに どう変わる教育』でロングインタビューを受け、そこでも申し上げましたが、そのひとつが「大学で学んだことなんて」という意識があることです。

 日本は学歴社会といわれていましたが、「本当に」そうなのでしょうか。理系人材の専門職は違いますが、文系人材の総合職採用について言えば、どこの大学を出たのか「学校歴」を気にはしても、本人が大学で何を学んできたのか「学歴」を軽視してきたのが全体的な傾向です。

 大学進学率でも見ても日本は5割強にまで増えましたが、それは国内だけの評価。世界的には、オーストラリアの9割をはじめ、他の先進国と比べても低すぎます。特に25歳以上の進学率は約2%と惨たんたるもので、社会に出た後の「学び直し」の環境が少なすぎることが、時代に即応した産業づくりに遅れをとった要因ではないでしょうか。

 かくいう私も学部卒のまま役所と政治家を経験しましたが、海外交渉で渡り合う相手方の政治家や高級官僚は、院卒が当たり前。博士号取得者も珍しくありませんでした。私個人は教授などの肩書きがあったので助かりましたが、官民とも「超高学歴」の人たちを相手に国際競争に身を投じ続けるのも限界でしょう。

 高校無償化や奨学金制度を充実し、政府もリカレント教育を推進するなど、この10年で学びの環境は整ってきました。あとは肝心の世の中の方が頭の切り替えをする段階です。(東大・慶応大教授)
東京大学・慶應義塾大学教授
鈴木寛

1964年生まれ。東京大学法学部卒業後、1986年通商産業省に入省。

山口県庁出向中に吉田松陰の松下村塾を何度も通い、人材育成の重要性に目覚め、「すずかん」の名で親しまれた通産省在任中から大学生などを集めた私塾「すずかんゼミ」を主宰した。省内きってのIT政策通であったが、「IT充実」予算案が旧来型の公共事業予算にすり替えられるなど、官僚の限界を痛感。霞が関から大学教員に転身。慶應義塾大助教授時代は、徹夜で学生たちの相談に乗るなど熱血ぶりを発揮。現在の日本を支えるIT業界の実業家や社会起業家などを多数輩出する。

2012年4月、自身の原点である「人づくり」「社会づくり」にいっそう邁進するべく、一般社団法人社会創発塾を設立。社会起業家の育成に力を入れながら、2014年2月より、東京大学公共政策大学院教授、慶應義塾大学政策メディア研究科兼総合政策学部教授に同時就任、日本初の私立・国立大学のクロスアポイントメント。若い世代とともに、世代横断的な視野でより良い社会づくりを目指している。10月より文部科学省参与、2015年2月文部科学大臣補佐官を務める。また、大阪大学招聘教授(医学部・工学部)、中央大学客員教授、電通大学客員教授、福井大学客員教授、和歌山大学客員教授、日本サッカー協会理事、NPO法人日本教育再興連盟代表理事、独立行政法人日本スポーツ振興センター顧問、JASRAC理事などを務める。

日本でいち早く、アクティブ・ラーニングの導入を推進。