社会課題は起業アイデアの宝庫! 次世代のソーシャルビジネスが持つ可能性「SDGs×起業」

特定非営利活動法人コミュニティビジネスサポートセンター代表理事・永沢映(ながさわ えい)…2002年、CBSを設立。全国各地で起業講座、NPO講座、創業支援施設の立ち上げや運営支援などに携わる

「SDGsを通して 経営者や起業家が持つべき視点」


 コミュニティービジネスに携わり企業や自治体のサポートを行う中で、しだいにSDGsへの意識の高まりを感じている、と語る永沢さん。

「SDGsは途上国と先進国がともに取り組もう、というものなので、例えば“安全な水とトイレを世界中に”というような、主に途上国が抱える深刻な課題解決を目指すものもあれば“ジェンダー平等を実現しよう”、“働きがいも経済成長も”といった、先進国においても大切な目標もあります。分野も多岐にわたり範囲も幅広く、また抽象的に示されているので、とらえ方や実践の仕方には国や地域などによってかなりギャップがあるのが現状です。ただ日本でも、大きな企業を中心にSDGsへの親和性を意識する傾向が見られますし、自治体でも新規の基本計画に盛り込むなど、日本においてもSDGsの意識は高まっているのは確かだと思います」

 企業の社会貢献は社会の関心度が重要。

「SDGsという言葉の認知度はここ数年で広がったものですが、もともと大企業はメセナ活動、CSRと社会貢献をステイタスとして行ってきました。一方で、日々の売り上げや業務改善で手いっぱいで、社会貢献は余力ができればやるもの、ととらえている企業がほとんどでしょう。企業の姿勢には、経営者がいかにSDGsを自社の活動に落とし込むかも重要ですが、やはり一般社会の意識の高まりが大きく関わってくるのです。ヨーロッパでは以前からCSRが活発な企業の商品を選択するCSR調達が根付いていますが、まだ日本ではそういう意識が薄い。一般市民にも意識が広まり、SDGsを体現している企業が社会の中で注目され利益をあげて成長していくという状況になれば、日本の社会全体も大きく変わってくると思います」

 ソーシャルビジネスの担い手にも時代に根差した意識が求められる。

「一般的に、社会貢献型事業いわゆるソーシャルビジネスは事業性、社会性、革新性という3つのファクターが重要視されます。留学していたときに感じたことですが、アメリカでは革新性を重視する姿勢が顕著な一方、日本では社会性に重きを置く傾向があるように思います。ソーシャルビジネスにおいては、クラウドファンディングにしろ、補助金や助成金にしろ、ビジネスとして利益を追求する姿勢より、献身的な姿勢のほうが賛同を得やすい。さらに誰もやっていないことより、すでにあちこちでやっている事業のほうが信頼されやすいので、革新的なビジネスが生まれにくい。これでは結果的に、事業の成長というビジネスの前提と相反する経営視点につながりかねません。2030年へ向けた目標を設定したSDGsを意識することは、今の時代に合わせて視野を広げ、いかにイノベーションしていくかを考えるきっかけとなります。それは時代に即した事業基盤を作っていくうえで必要なことでもあるのです」

 社会課題はビジネスアイデアのネタの宝庫ともいえる。

「“良い商品を丁寧に販売すれば売り上げが上がる”というプロダクトアウトと“市場の声を聞いて商品を売る”マーケットインという概念がありますが、マーケットを把握してそこにサービスを提供するという視点は、社会貢献を考える新規事業者や創業者がまず持つべき視点だと思います。マーケットインの視点で生活圏や地域に目を向けると、何が求められているのか、どんな市場があるのかに気がつくでしょう。ローカルな課題を把握してマーケットの声を反映し、そこに必要なサービスを提供していくことが解決につながれば、事業の継続性や成長も期待できると思います。そうなれば、危機感をあおったり義務付けるような伝え方をしなくても、その事業が自然とSDGsの大切さを社会に広めることにもつながるはずです」


「課題解決も利益もあきらめない」。
社会課題と向き合う注目の起業家たち


NPO法人AlonAlon 理事長、A&A株式会社代表取締役社長・那部智史(なべ さとし)…1969年東京都生まれ。IT分野で起業、10年間で取扱高400億円に。2013年NPO法人AlonAlonを設立。2017年、Alon Alonオーキッドガーデン開設、A&A株式会社を設立。
胡蝶蘭栽培で企業の障がい者雇用と自立を目指す就労を実現

「AlonAlonオーキッドガーデン」


Q.事業内容を紹介してください
「NPO法人AlonAlonを本体として、胡蝶蘭栽培を主な事業とした就労継続支援B型事業所を運営しており、合わせてA&A株式会社として貸農園事業を行っています。貸農園では、企業が雇用した障がい者の方が、その企業から派遣された社員として当園で働いています。今では大手企業さん4社(2019年10月現在)と契約しています。企業側は法定雇用率を達成でき、贈答用の胡蝶蘭を自社で栽培することができる形です」

Q.アイデアを見出した背景は?
「私の息子は重度の知的障害を持って生まれてきました。親として子供の将来を案じ、同じような方々の就労状況を調べたのですが、当時は毎日働いても1カ月1万円にもならない作業所もあり、大きなショックを受けたんです。せめて経済的な部分の不安だけでも解消しようと、29歳でベンチャーを立ち上げ10年で社員150人規模の会社にまで成長させたのですが、しだいに障がい者の就労を継続して支援する事業ができないかと思うようになったんです。そこで思い付いたのが、企業が慶弔に合わせて送り合っている胡蝶蘭の栽培。3万円から5万円、高いものだと10万円、お祝いなので値崩れもほぼない。調べてみると胡蝶蘭のマーケットは毎年330億円あるんです。この1/3でも働きたい障がい者の方たちの収入となれば、とガーデンを設立しました。現在、ここでは月額工賃10万円になるメンバーもいます」

Q.プロでも難しい胡蝶蘭栽培を可能とした要因とは。
「胡蝶蘭栽培経験何十年という方を見学させていただんですが、その方は勘と経験で気温や温度を読んでいたんです。僕はそれならAIを使えばいいと思った。障がいはテクノロジーである程度超えることができる。AIは人を駆逐するのではなく、あらゆる人に社会に参加する可能性を与えてくれるものだと思うんです。また、胡蝶蘭の作業工程は簡単なものから難しいものまで約60工程あり、うちでは難しい作業ができる人や生活態度がきちんとしている人には高い評価が与えられ、それが工賃に反映されます。向上心や達成感、自己肯定感も生まれるので、けっこう皆、熱いです(笑)。作業に入ると、みな職業人の顔に切り替わりますね」

AlonAlonオーキッドガーデン
【住所】千葉県富津市西大和田1234-2
【URL】https://www.alon-ocd.org/