「実は私も症候群」【SOD女子社員・負け犬女の働き方改革】#2

2020年のSODグループ仕事始めの会にて。障害物走に負けてしまいました…来年は頑張ります
こういう仕事をしていると、なぜか内緒話を打ち明けてくれる人が多い。
この間もそうだった。

同じアダルト業界ではないが、いわゆる「源氏名」で働いている男性に、私の仕事が知られてしまった。
私の仕事は、女性向けのアダルトビデオを販売すること。
ソフト・オン・デマンドという20年以上続くAV会社で働いている。
その会社で、気が付けばもう5年近くも、こうして名前や顔を出して文章を書くことを、業務のひとつとしている。
(ちなみに私の名前は本名である)

最近はあえて「顔出しであること」「本名であること」に価値を置いたり、逆に匿名であることこそ価値があるとされたりと、書き手のスタンスやプロフィールにも重きが置かれている傾向がある。
私としては結局はどちらでもよいのだが、こうしてSNSが当たり前になる前は、アダルト業界でも顔出し本名であることはそれほど珍しいことではなかった。
なぜならAVメーカーが何か情報を発信するときは、正式な取材記事や、会社のオフィシャルホームページなど、検閲が済んだ状態で出されていたからだ。
検閲が済んだものであれば、社員に何かあったときに会社が守ることができる。
今では気軽に情報を発信できる反面、会社や組織が守り切れない危険性もはらんでいるため、顔を出さない、名前を出さない、現在地を明かさない、などは身を守る手段として最低限必要なことになってしまったのだと思う。

私はいわゆる「SNS以前」から顔出し本名で仕事をしていたので、気付いたときにはもはや隠しようがなかった。
とくに隠すつもりも消したいこともないし、この名前とこの顔で仕事をする意味を、後付けでもいいから作っていきたいとすら思っている。


だが、こういう仕事の仕方は、世間からしたら異常なのかもしれない。
自分の名前も顔も明かして、性欲がどうとか、風俗がどうとか、赤裸々な話をしている人間は、「体を張っている」とか「何もかもさらけ出している」という印象を与えてしまっているようだ。
だからこそ、私のことを信頼して、自分の秘密を話してくれたりする人が現れる。

前述の男性は、自身のプライベートのことをたくさん話してくれた。
私がどこかでその秘密を話してしまったらどうするのだろう?(しないけど)
そんなに簡単に私のことを信頼してしまって、大丈夫なのだろうか?
私ですら自分のことが信用ならないのに、そんな私に弱みを見せてくれたその男性のことを心配した。

こういったケースはこの日が初めてではなく、これまで何度も経験していた。
たとえば「不倫をしている」ということを教えてくれた子、SMに興味があるという子、夜の仕事をしているという子。

誰にも言えない世界を持っている人だからこそ、本当は誰かに理解してもらいたい気持ちがあるのだと思う。
だから、性的なことなど世間的には「誰にも言えない」ことをさらしている私を見て、同じく「誰にも言えない」ことを言ってもいいような勘違いをしてしまっているのではないだろうか。
私はそれを、「実は私も症候群」と呼んでいる。


秘密を共有されるのはつらい。
単純に、「言ってはいけないこと」「知らないふりをしなければいけないこと」が増えるからだ。
嘘をつくのが苦手な私にとっては、なかなか負担が大きいことだ。

それだけでない。
秘密を打ち明けてくれた誰かの気持ちに共感したり傷付いたり。
比較的感受性が強い私にとっては、感情がジェットコースターのように揺り動かされるから、心が疲れてしまう。
知りたくないつらい出来事を打ち明けられたときなどは、悲しくなってしまう。

「実は私も症候群」の餌食になることは不幸だ。
背負うものが増え、誰かの秘密を守らなければいけないし、一緒に乗り越えていかねばならない。
一方で、普通に生きているだけでは感じることができなかった、「実は私も…」を共有できるのは、こうして名前と顔を出して発信しているからこその醍醐味だ。
こうして文章で情けない生き方をさらしていることで、誰かの秘密に触れて心を通わせることができるのならば。
それは私の人生の中で煩わしくもあり、その反面、一番幸せな瞬間なのかもしれない。

(田口桃子)
田口桃子(たぐち・ももこ)
GIRL’S CHプロデューサー。2007年、新卒でソフト・オン・デマンド(株)に入社。
営業、マーケティング等の部署を経て、2012年よりGIRL’S CHの立ち上げに携わる。
以来現在まで、GIRL’S CHの現場リーダーとしてサイト運営をしつつ、オリジナル動画ではレポーター出演等をすることも。