【徳井健太の菩薩目線】第50回通帳に記帳されているお金(数字)を眺めていても、お金に価値は宿らない



 CASHやTRAVEL Nowといったサービスを作り出した光本勇介さんと、『華丸大吉・千鳥のテッパンいただきます!』という番組でご一緒した。この番組は、ゲストが誰かに話したくなるようなテッパン話を披露するトークバラエティなんだけど、光本さんから聞いた話を、誰かに伝えたくて、今まさに番組の手のひらの上で踊りながらしたためている。

 光本さんは、芸術が好きで、驚くことに8億円の絵画を買ったそうだ。俺たちには想像もつかないことだけど、「8億の絵を買ったことで思ったことがある」と教えてくれた。8億円の絵画を購入する……、人によっては 「もっと有意義な使い方があったんじゃないのか?」なんて野暮なことを考えしまいそうなものだ。ところが、8億円の芸術品は、8億円の価値から下がることがないというんだ。

 つまり、8億円の価値がある芸術品は、8億円の価値を担保したまま存在し続ける。その上で、「毎日、8億円の絵画を眺めることができる」、「友人を招いたときに、8億円の絵画も楽しんでもらえる」ということも可能になる。「キャッシュで現金8億円を持っていることと、8億円の価値を持つ絵画を保有していること。どちらの方がいいと思いますか?」と問われたとき、あなたはどう思うだろうか。

 俺は、軽い衝撃を受けたよね。8億円の絵画は、8億円の価値があるわけで、誰かに売るとき“も”8億円のまま。ということは、一時的に数字の8億を、モノである芸術品に変えてしまった方が、間違いなく豊かな8億円のあり方が自分の生活に宿ることになる。通帳に記帳されている8億円という資産(数字)を眺めていたところで、誰かに何かを生み出せるのかって話。8億の価値に変えてしまうことで、驚きや喜びを生み出し、自身の考え方にも影響を与えてくれるかもしれない。お金なんて、ただ持っているだけでは、何の価値も生み出さないんだよね。

 お金というのは、使うこと、変えることで価値を作り出す。タンス預金なんてのは、お金の価値を減滅させているに等しいわけで、よほどお金に困っていない限りは、有効利用した方がいい。


金額の大小じゃない。お金の有意義な使い方を知ることが大事



 光本さんたちは、思い立ったらすぐに実行するために、会社を次々と立ち上げるそうだ。それを受けて、僭越ながら俺も一つ提案をさせていただいた。本当に自分のやりたいことしかしたくない芸術家肌の芸人たちを救済することはできないだろうか、と。

 話を整理する。芸人の単独ライブは、尊いものなんだ。企画からネタ考案に1~2か月費やし、その後、練習のために2か月ほど要する。大人気にでもならない限り、キャパシティは大きくても1000人。チケット代も最高5000円くらいが限界だろう。キャパ500人、価格3000円……それが若手の現実的なラインだと思う。

 仮に満席、ソールドアウトになったとして150万。ところが、ここから劇場代やスタッフの人経費など諸経費が引かれる。手元に残るのは、半分以下だろうか。約3~4か月費やして、(経常)利益が約70万。はっきり言って、割に合わなさすぎる。ネタだけで食べていく、好きなことだけでパフォーマンスできないから、テレビに出演したり、YouTubeデビューを飾るようになるわけだ。俺はこの狂った構造に、なんとか救いを求めたかった。そこで、光本さんに相談したんだ。

 すると、「昔、考えたことがある」と教えてくれた。

 そのシステムとは、“毎日1円など、少額を特定の人に送れるようなシステムを作る”といったことだったそうだ。なるほど、と膝を打った。

 仮に、フォロワー数が30万人いるとした場合、1円であれば、全員は無理だとしても半分の15万人くらいは寄贈するのではないか? そうすることで、その人は1日で15万円の資金を手に入れることができる。次の日も、「1円だったら」という理由から、同じくらいの人間が寄贈する。これを1か月続ければ、相当な軍資金になる。

 もちろん法律の問題もあるだろうし、少額決済をいかに行うか、といった諸問題もある。だけど、クラウドファンディングとは違う支援の形があるように感じて、俺はワクワクしたんだ。自分が本当に表現したいこと、やり続けたいことが、正当に評価されそうだし、何より作る側も受け取る側も審美眼が養われそうだから。
俺が、光本さんに「すぐに作ってください」と懇願したのは言うまでもないよね。金額の大小じゃない。こういうシステムができたら、お金は使うことで、価値を生み出していくことを教えてくれそうな気がするんだよね。芸人だけじゃなく、アイドルやミュージシャン、芸術家……多くの不器用な人間たちが、救われると思ったんだ。

※【徳井健太の菩薩目線】は、毎月10日、20日、30日更新です
◆プロフィル……とくい・けんた 1980年北海道生まれ。2000年、東京NSC5期生同期・吉村崇と平成ノブシコブシを結成。感情の起伏が少なく、理解不能な言動が多いことから“サイコ”の異名を持つが、既婚者で2児の父でもある。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。公式ツイッター:https://twitter.com/nagomigozen
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