結局タバコは吸えるの?吸えないの?「改正健康増進法施行後の新宿ゴールデン街を歩く」
クリシュナの店内(撮影・蔦野裕)
CASE1:新宿ゴールデン街で床面積が一番広いお店
新宿ゴールデン街には多くのバーがひしめきあう。2000坪ほどの面積の中に200軒以上の店舗があるといわれている。カウンターだけの小規模な店舗が多い中で「クリシュナ」はカウンターの他にテーブル席、座敷席も備えたゴールデン街では指折りの大型店舗だ。2000年にオープンし、今年で19年目を迎える。客席面積が100平方メートルを超えることから、今回の改正健康増進法ではこの規模のお店ではこのままではタバコを吸うことはできない。
ではこの4月からはどうするのか? 店長を務める木村裕さんによると「シガーバーと同じような形にすることにしました。シガーバーは飲食店なんですが、タバコを販売する許可を得て、喫煙目的施設としての認可を受けている。それと同じ施設になればタバコを吸ってもいいとのことでしたので、そちらの申請をしました」という。
クリシュナでは業者の販売支店という形になるのだが、ゴールデン街ではこの形式を取るお店がほとんどのようだ。
その代わり、これには条件がある。
「二十歳未満は全面入店禁止。おつまみはOKなんですが、パスタや米、パンといった主食が禁止となります」ということでカレーライスやパスタといったメニューは外すことになったという。
同店は姉妹店に「PAVO」という洋食のお店があるのだが、こちらは3月上旬に全面禁煙にした。これはPAVOは料理をメインにしているお店であることからの措置。店の特徴によって、オーナーが適宜判断したということだ。
なので「ご飯はPAVOで、お酒はクリシュナで」ということになるようだ。
この措置に関するお客さんの反応については「シガーバーのような形になっているので吸えますよ、とお伝えしたら、皆さんほっとしていました」という。
そして「この話が出始めた1年前くらいからお客さんもザワザワしていました。“電話ボックスみたいな喫煙スペースがいくらで買えるらしい”といった情報をくれる常連さんもたくさんいました。お店を好きで足を運んでくれるお客さんはどうしてもお店で吸いたいと思っておられたようです」とも。
この日、カウンターに居た常連さんによると「受動喫煙が嫌という人のことは尊重しますが、バーとタバコはセットだと思うんです。こういう雰囲気が好きで、リラックスできる。なるべく環境が変わらないでほしいと思っていたので、吸えるような措置を取ってくれてありがたいと思った」という。
また木村さん曰く「今回は受動喫煙に伴う健康への配慮とか東京オリンピックがあることから、世界の大都市の状況と合わせたいという政治的な思惑もあるとは思うんです。でもタバコの税金が上がる時にも思ったんですが、こういうところでタバコが吸えなくなることで、文化や民度が変わってしまうんじゃないかなって思います。例えばタバコの値段が上がることで、もらいタバコをしたり火を借りたりということが減りました。昔は“いいよ、いいよ”だったのに“高いから勘弁してよ”というふうに。そこにはお客さん同士のコミュニケーションがあったし、そういうきっかけから夜の世界のマナーを学ぶことができた。それひとつなくなるだけでもバーの風景が変わる。健康はもちろん大事だけど、文化も大事だと思うんです」
それはバー文化の破壊ということ?
「酒場は心と心のやり取りが多い。そこに権力が介入してくるというのもどうかとは思います。それはバーだけではなく、会社の喫煙スペースでも同じ。そこでしか会わない別の部署の先輩もいるだろうし、自分の近い人には相談できないことも、そこでは相談できるということもありますよね。タバコひとつでその人の性格や人間性が見えたりもします。ちょっと話がそれましたが、今回のタバコに限らず、政治政策は、こういった文化まで影響を及ぼすということまで議論されているのかな?と思います」