コロナ危機克服が人を成長させる【鈴木寛の「2020年への篤行録」第79回】

東京・銀座の和光本館(写真:アフロ)
 3.11から10年近く経ち、若い社会人は当時の修羅場を知らない人も増えてきました。若手は、このコロナ危機をどう受け止めればいいのでしょうか。

 大前提として有事は、平時では当然に思っていた枠組みが崩壊します。毎日がトレードオフ、矛盾、コンフリクト(葛藤)の連続であり、「正解のない難問」に向き合い続けることになります。コロナ危機でいえば、「ロックダウン(都市封鎖)をすれば感染拡大は抑えられるが、経済が死んでしまう」といった問題が典型例。そういう中で自分の会社の生き残り策を考えていかねばなりません。

 OECDが2030年に向け、近未来を担う人材に要求される能力として掲げたのが、①新しい価値を創造する力②緊張とジレンマの調整力③責任をとる力…の3つでした。②はまさにいまの修羅場で経験を積んでいる局面です。ここを突破し、次に進むための①は、個人的な力だけではなく、他者との協力・協働を通じて見出していくものです。そして③は文字通りの責任を取ることだけではなく、自らを客観的に評価し、知的に成熟していくことです。

 危機を克服した時、人も組織も社会も成長します。ポスト3.11の時は、官民の若手リーダー候補が東北に集まり、今も活躍しています。コロナ危機は治療法確立まで長期化しそうですが、この苦難をバネに新たな逸材が出てくると思います。

(鈴木寛 東大・慶応大教授)
東京大学・慶應義塾大学教授
鈴木寛

1964年生まれ。東京大学法学部卒業後、1986年通商産業省に入省。

山口県庁出向中に吉田松陰の松下村塾を何度も通い、人材育成の重要性に目覚め、「すずかん」の名で親しまれた通産省在任中から大学生などを集めた私塾「すずかんゼミ」を主宰した。省内きってのIT政策通であったが、「IT充実」予算案が旧来型の公共事業予算にすり替えられるなど、官僚の限界を痛感。霞が関から大学教員に転身。慶應義塾大助教授時代は、徹夜で学生たちの相談に乗るなど熱血ぶりを発揮。現在の日本を支えるIT業界の実業家や社会起業家などを多数輩出する。

2012年4月、自身の原点である「人づくり」「社会づくり」にいっそう邁進するべく、一般社団法人社会創発塾を設立。社会起業家の育成に力を入れながら、2014年2月より、東京大学公共政策大学院教授、慶應義塾大学政策メディア研究科兼総合政策学部教授に同時就任、日本初の私立・国立大学のクロスアポイントメント。若い世代とともに、世代横断的な視野でより良い社会づくりを目指している。10月より文部科学省参与、2015年2月文部科学大臣補佐官を務める。また、大阪大学招聘教授(医学部・工学部)、中央大学客員教授、電通大学客員教授、福井大学客員教授、和歌山大学客員教授、日本サッカー協会理事、NPO法人日本教育再興連盟代表理事、独立行政法人日本スポーツ振興センター顧問、JASRAC理事などを務める。

日本でいち早く、アクティブ・ラーニングの導入を推進。
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