出版界の6次産業! 誌面の内容を体験化する シニア女性誌「ハルメク」、飛躍の理由

「シニア女性ではなく大人の女性として、何を求めているのかを考える」。

 そう語るのは、シニア女性誌として国内ナンバーワンの販売部数31万部を誇る月刊定期購読誌「ハルメク」編集長の山岡朝子さん。出版不況と叫ばれる中にあって、購読者数を伸ばし続ける注目の存在だ。

 もともと「ハルメク」は、年金や健康といった、いかにも年配の方を対象とするような女性誌だった。ところが、2017年に山岡さんが編集長として就任すると、美容、レジャー、ファッションなど、“いくつになっても女性が気になること”をメインに誌面作りをリニューアル。その結果、シニア……じゃなかった(失敬!)、60代以上の大人の女性から大きな支持を集めるようになった。

「まず定義を変えました。シニア誌ではなく、総合女性誌という視点で考えようと。60代でも70代でも、女性として関心のあることは変わらない。一般女性誌で扱うような美容や旅行、さらにはスマホ特集など関心の高いことを誌面の中に組み込んでいくようにしました」(山岡さん、以下同)
「いきいき」として創刊され、2016年に「ハルメク」に名称を変更。 シニア女性誌として大きな支持を集めている。
 もともと山岡さんは、新卒で「主婦と生活社」に入社。「すてきな奥さん」「CHANTO」などの編集長を歴任した経歴を持つ。その後、2017年に(株)ハルメクに入社し、同誌の編集長に就任すると、女性誌で培ったノウハウを活かし、約2年で実売部数を約2倍にまで引き上げた。

 話を聞いていくと、ハルメクの取り組みがメディアの行く末を考える意味でもヒントになるだけでなく、読者の視点からも学びがあることに気が付く。自分のお母さんやおばあちゃんが暇を持て余していたり、ちょっと元気がないように見えたりしたら、本稿をヒントにしてみてほしい――。


“読者ファースト”の徹底リサーチと体験化



「ハルメク」は、書店販売を行わない(自宅に配送される)月刊定期購読誌だ。

「圧倒的に読みたくなるような誌面を作らないといけない」と、山岡さんは説明する。

「年間購読で約7000円です。例えば4月号が気になったとして、新規購読者はその号を手に入れるために7000円を払わなければいけません。「7000円を払ってでも読みたい」と思わせるようなクオリティが必要になるわけですね。また、多くの方は新聞広告を目にして購入を決断されますから、“明るくて楽しい”“カジュアルかつポップ”に読めるような内容や広告を心がけています」

 今月が面白くても来月、再来月が面白くなくては、新規購読者が増えないばかりか、定期購読を更新しない人も生み出してしまう。「バラエティの広い特集を月替わりに打ち出していかなければならない」というように、真摯に読者が何を求めているのか向き合う必要がある。とは言え、それが何なのかを知ることが難しいのだが、ハルメクには他出版社にはない独自の強みがある。

「編集者の情報感度も大切ですが、当社はハルメク一誌に限定して力を入れているので、情報を収集するための社内シンクタンクがあります。読者層の関心のあること、知りたいこと……アンケートや調査をもとにした膨大なデータがあるため、それを裏付けに特集を組んでいきます。ハルメクでは毎月必ず特集を3つ揃えるのですが、データを基にすることで“刺さらない”特集を避けることができます」

 さらに、唸らされるのは誌面で紹介した特集を、そのまま“体験できる”という試みに発展させている点だ。

「例えば、ハルメクでグレイヘアの特集をした際には、誌面で監修していただいた美容師さんから直接お話が聞け、個別にアドバイスがもらえるイベントを開催しました」

 なんでも100人の募集が、即完売(!!)したというから驚きだ。イベントに行けない人には、「当社は通販事業部があるため、自宅でもきれいにグレイヘアができるヘアカラーを開発しました」。読んで終わりにならないよう、いくつも“読者ファースト”の仕掛けを施しているというから目からウロコだ。

 全社売上の約8割を占めるというハルメクの通販事業だが、そのうちPB比率は約7割。広告に頼りがちな出版(配信ニュースサイト含む)業界において、新しいモデルを構築していると言えるだろう。今では、全国に4か所「ハルメク おみせ」と題し、通販商品をリアル店舗でも購入することも可能だという。
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