齊藤工がオンラインの可能性と映画界への想いを語る「今のこの動きによって、最終的にまた劇場で至福の映画体験をしてもらいたい」

SPOTTED PRODUCTIONS・直井卓俊代表

現状できる形で製作・配給・興行という経済サイクルをまわす


―― 映画配給会社の代表という立場の直井さんは、コロナ禍のアクションについてはスピード感を大切にしながらも慎重に思案していたとか。

直井「齊藤さんがおっしゃるとおり、ミニシアター・エイド基金のアクションから一気にムーヴメントとして動いた感覚があります。僕としては『STAY HOME MINI-THEATER powered by mu-mo LIVE THEATER』(以下SHMT)を形にするまでには二段階ありまして。まず観客の方々にとっては自分たちが映画を見る場所=劇場が休館になるという危機はイメージしやすい一方で、間に立つ映画の届け手=配給というのは何をやっているか分からない立場だと思うんですけれども、ひとつはっきりしているのは、劇場という場所がないと何もできないということ。作品を預かっていながらそれを送り届けることができません。さらに続々と制作現場はストップしていき、新作が生まれない状況になっていきました。つまり業界全体の経済活動が止まってしまった。さらにコロナウイルス終息の長期化も予想されるなか、この局面で経済をまわすためには落ち着いて仕組みを整える必要があるな、と。そこで“通常の映画興行”をオンラインで実現するベストな方法を模索していました。そして、まだ緊急自体宣言は発令されていなかった時期ですが、SPOTTEDの配給作品で上映中止を余儀なくされた『ワンダーウォール劇場版』の無観客配信イベントを自力でやってみたところ、なんとか形になりまして。もちろん現場には無観客という寂しさはいささかあったけれども“できた!”という手応えを感じられたんです。その後、自粛要請で実店舗が営業できず無観客イベントすら開催が困難になってしまいましたが、今度はネット上でZOOMが台頭してきました。そういうなかでSPOTTED配給作品にはインディペンデントだからこそフットワーク軽くいろんなことがやれるという強みがあるので“手作りでいいから配信でやってみよう”と。そんな矢先にエイベックスさんから『mu-mo LIVE THEATER』についてのお話を伺い、そこからスピード感をもって企画の相談を進め、なんとか4月中のプレオープンに漕ぎ着けました」

――SHMTは、現時点で上映がストップしている映画や今後の上映展開が危ぶまれている作品を中心とした上映企画ということですが、興行収入から必要経費を差し引いた額を対象劇場と配給・製作サイド=5:5で分配するという仕組みでプレオープンでは劇場収入分の部分を、齊藤監督2作品の上映では日本赤十字社とミニシアター・エイド基金へ寄付、もうひとつのシアター『眉村ちあきのすべて(仮)』では今後上映が決定されていた全国の映画館9館へ分配しています。

直井「プレでは予想を上回る数の方にご覧いただくことができました。ただ実はコロナ禍にあって、映像製作・配信をめぐっては有料でやるか無料にすべきかの判断が問われるところもあります。実際“こんな時期だから全て無料で取り組むべきだ”と言う方も。また、当然ながら分配やチケット料金についてもご意見はさまざまあると思います。ただ僕としては現状なんとかギリギリできる形で製作・配給・興行の経済のサイクルをまわすということが命題でした」

齊藤「最前線で戦ってくれている医療従事者の方が最優先であることが重要なのでこのような形をとりました。SHMTは有料の、映画館という立て付けですから、それを選択した意味があるものにしたいとは強く思います。作品を送り出す側としては正直判断が難しいですね。4月下旬にSHMT情報が解禁されるとすぐに行定監督が僕に連絡をくれて、自分は無料で配信することを選んだということをわざわざお伝えくださったんです。それで意見交換をさせていただいて、これから横の繋がりを広げて連携していこう、という結論に至りました」

直井「僕の背中を押してくれたのは、根本宗子さんが、超、リモートねもしゅー『あの子と旅行いきたくない。』を有料で配信するにあたって語っていたことです。お客さんがお金を払いたいと思うことに対して、発信者側はそれに応えられるだけのコンテンツを作る、そうでなければエンターテインメントが成立しない、というものなのですが、これには大変共感しました。だからこそ通常の仕組みを維持しなくてはいけない。倒れたら終わりなんだ、と」