【徳井健太の菩薩目線】第66回 「××チャレンジ」「〇〇リレー」……俺からしたら、SNSのバトンは『暴走する正義』だよ

「××チャレンジ」「〇〇リレー」、SNS で定期的にバトンが流行る。俺は、『暴走する正義』と呼んでいる。「給付金の10万円はいらない」――、聞いてもいないのにわざわざSNS上で宣言するくらい、理解しがたい言動だよ。今回のコロナ禍、俺にもバトンが周ってきた。いやいやながらやってしまった。後日、バトンを渡してきた井戸田さん（スピードワゴン）に、直接そのことを伝えた。

「＃おうち時間」。これも気味が悪い。ハッシュタグを付けてまで在宅中の過ごし方を、世間様に公表する。おそろしい欲求だと思う。そういったことを、自らラベリングすることで、その物事がとてもつまらなく見えてしまうというか。

　例えば、俺がAさんのイエナカ行動を、たまたま見たとする。とても関心があるものだったら、「なかなか面白い時間の過ごし方もあるもんなんだな」という具合に、スムーズにAさんの暮らしに関心がわく。「＃おうち時間」であるかどうかなんてことはどうでもよくて、Aさんならではの時間の使い方として、好奇の目が開く。

　ところが、はじめから「＃おうち時間」とラベリングされると、見方が限定的になってしまって、途端につまらなく見えてしまう。なぜ、わざわざ想像力を乏しくさせるようなことをするんだろう。ひとえに、ステイホーム全盛だった先刻、「＃おうち時間」で共鳴したい、家にいることを声高に強調したい、そんな正義が暴走したからなんだろう。各人がそれぞれ勝手に家で過ごせばいいだけの話。正義を共有、強制する感じがして、俺は怖くなった。

　Twitterそのものは特に嫌ではない。でも、SNS特有のノリがあることに対しては、時折、首をかしげたくなる。代替できるものがあるなら、別にそれでもいいんだけど、現状、見当たらない。仕方なくTwitterを使っている人も少なくないと思う。

　Instagramはどうだろう。前提として、俺自身が写真や動画を撮ることが好きじゃない。なので、Instagramはできない。仕事で撮らなきゃいけない、はたまた他者を撮影する状況でもない限り、写真や動画を撮ることは苦手だ。なぜ、俺は自分が被写体になる写真や動画に忌避感を覚えるんだろう。

　家族で旅行に行くとする。この場合も、どこかで家族の顔色を見ながら写真を構えている俺がいる。「あ、いま写真におさめた方がいいんだろうな」。そう思い、スマホのカメラアプリを起動する。ちなみに、嫁や子どもたちとは仲が良い。

　思い出した。

　俺は、高校を卒業するとき、家にあった俺が映る写真を全部燃やしたんだ。鮭が異様に獲れる西別川の河原。一斗缶を用意し、卒業文集や卒業アルバムを投げ入れ、灯油を注ぎ、燃やし尽くした。懐かしいな。写真が灰になるまで見守り、川の水で消化した。あれは一体、何だったんだろう。自分でもなぜそんなことをする必要がったのか、いま考えるとよく思い出せない。Netflixのオリジナルドラマの予告編のような一部始終。そうして俺はNSCに入学するために、上京したんだった。

　今もその残響があるのかもしれない。実像みたいなものを、とどめておきたくないからなのか、とかく写真や動画を撮ることが苦手だ。この連載では毎回俺の写真を添えているけど、（自分で言うのも変な話だが）レアな姿を晒していると思われる。

　SNSというのは、俺たちのような仕事をしている人間にとっては、非常に扱いが難しいものだ。SNSでつぶやいたことやアップした写真をきっかけに、仕事につながることもある。台本を見ると、そういったことが組み込まれていることもある。打ち合わせでは、「最近〇〇らしいですね」とTwitterの情報を参考にしただろう会話が交わされることだってある。定期的に、小ネタをチラ見させる装置として活用している芸能人もいるに違いない。

　すべては使い方の問題なんだろうね。みながみな、Twitterを同じように使っていると思ったら大間違いなんだ。中には、あえていじられるためにプチ弱点をTwitterでさらしている芸能人もいる。その意図と乖離し、四方八方からリプが飛んできてしまうから事態が複雑化する。暇つぶしで使っている人もいれば、広告として使っている人もいる。

　SNSは、正義を暴走させる装置という側面を持っていることを忘れちゃいけないよ。用法用量を守らなければ、過剰摂取で重篤な事態に陥ると思う。