徳井健太の菩薩目線 第72回 コンビ芸人の関係性は“男兄弟”のようなもの。過剰に美化するのは営業妨害。



 世間一般の人が抱く「芸人に対する感覚」と、俺たち芸人が考える「芸人に対する感覚」が違うことが少なくない。今日は、俺が個人的に感じるコンビ芸人の関係性について考えてみようと思う。

 芸人が不祥事を起こしたり、問題発言をしたりした場合――。相方がフォローの言葉や態度の姿勢を示すと、その姿に世の中は、「見事なコンビ愛です」、「〇〇さんの言葉、泣けました!」などと賛辞を送る傾向が目立つ。特に、ここ最近。

 極端なことを言えば、もし(相方である)吉村が何かをしでかしたとき、俺は奴をいじり倒して最後に一言だけオチを付けれたら、としか思わない。おそらく世間からは、「死人に鞭を打つのか」と非難されるんだろう。逆に、俺自身が何かをやらかしてしまったら、吉村から無茶苦茶に言われた方が「気が楽だ」と思っている。占い師から言われる都合の良い一言に満足するように、世間は自分にとって都合の良いものを見たいんだろうね。芸人にも美談を求めるのかもしれない。

 俺が考えているコンビの関係性というのは、男兄弟の関係性に近い。それが一番、しっくりくる。ときに、「コンビは夫婦のような関係」などと言われるけども、夫婦には愛情があるはずだ。コンビ芸人に、夫婦のような愛情があったら気持ち悪い。

 男兄弟と考えたとき、「仲のいい男兄弟」もいれば、普通もしくは「仲の悪い男兄弟」もいる。俺の肌感覚では、「仲の良い男兄弟」というのはあまり聞かない。どちらかというと、兄貴に殴られたり、弟にコンプレックスを持っている「仲の悪い男兄弟」の方が多いんじゃないだろうか。

 多くのコンビ芸人は、どちらかというと「仲の悪い男兄弟」に属する。だからこそ、さまぁ~ずさんやサンドウィッチマンさんは極めて珍しいコンビだと言える。仲のいい男兄弟なんて、めったにいないからね。

 コンビ芸人の大半は仲が良いわけではなく、携帯番号も知らないし、相手の家がどこにあるかも興味ない。弟夫婦に子どもが生まれたらお祝いを出す、そんなような温度感に近い。法事のときは家族として合わせるけど、プライベートともなれば、別。限りなく他人に近い親族。

 子どものころによくケンカをしたし、殴られた方はそのときのことを今も根に持ち続ける。だけど、血は通っているから、死ねば悲しい――。他人にどうこう言われる筋合いは、ないんだよな。持ちつ持たれつの関係なわけがないし、一部のお笑いファンの中にはホモソーシャルな関係性で勝手に楽しむ好事家もいるかもしれないけど、まったくもってそんな努力・友情・勝利的な話でもない。

 兄なのか弟なのか。どちらか分からないけども、何かをしでかしたとき、もう片方がフォローに回るという家族的悪意。こういうときだけ家族ヅラをするか、なんて。それじゃ気持ち悪いから、俺は「ざまぁみろ」と思ったのちに、一案する。同じ墓に入るくらいの気持ちは、一応ある。

 男女コンビは、また違うだろう。会社の同期のような関係性。冷たい言葉で言うなら、「ビジネスパートナー」がしっくりくる。男と男のコンビ、女と女のコンビ、男女のコンビ、トリオだっている。関係性を一概にくくることはできない。 複雑なんだ。

 俺からすれば、コンビのやりとりに対して、過剰に外野が「美談である」とか、「良い話だ」なんて具合に仕立て上げるのは、営業妨害だよ。自分に兄弟がいる人であれば想像してほしい。まったく関係ない赤の他人が、お家騒動をかぎつけてきて、玄関前で「君たち兄弟はよく話し合っている! 感動した!」と旗を振っている、と。

 そもそもその兄弟が本当によく話し合っているのか、心の底から尊敬し合っているのかといったことは、同じ屋根の下で暮らしたことがない人に分かるわけがない。そう思いたい気持ちと、それを押し付けることは別なんだ。

 だからして15年以上コンビを続けていて、「解散をする」という選択は、異常なことでもある。いよいよ家族の縁を切るまでなのか……そんな感覚に近いと思うから。「解散をする」というのは、長年コンビを続けてきた当人からすれば、苗字を変えるとか戸籍を変えるとか、ライフイベントに近い。仲が悪くても舞台に立つおぼん・こぼん師匠、ともに活動はしていないけど解散はしないDonDokoDon さんを見て、「解散しないのが不思議」なんて思うことが、不思議なんだ。

 元々コンビの関係なんて、一般的に冠婚葬祭のときにしか会わないような距離感だと思う。世の中の人は、そんなにキャッキャウフフな光景を見たいのかな? でも、自分がそれを求められたら面倒だろうし、そもそもそんな関係性って、どれくらいあるんだろうね。

 求められていないものや、「なるほど」と思われないものは、意見や提案、願いじゃなくて、総じてヤジだよ。コメント欄に書く、知らない人にリプライを送る――。手をあげる=意見じゃない。本来、手を挙げるってのは素晴らしいことだと思うんだけど、そこに至るまでの思考力や思慮深さ……そういったものがないのであれば、それはもうヤジなんだよね。世の中には、キレイなヤジが増えたと思う。
【プロフィール】
1980年北海道生まれ。2000年、東京NSC5期生同期・吉村崇と平成ノブシコブシを結成。感情の起伏が少なく、理解不能な言動が多いことから“サイコ”の異名を持つが、既婚者で2児の父でもある。吉本興業所属。
公式ツイッター:https://twitter.com/nagomigozen 
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UC-9P1uMojDoe1QM49wmSGmw
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