玖村修平「第二の自分として進化していく姿を見せていきたい」
真面目に空手に取り組む弟を見て、“自分もせっかくずっとやってきたんだ”と思い直した
玖村兄弟はもともと3兄弟で空手を習っていたことが格闘技の世界に入るきっかけということですが、弟の将史さんとふたりでK-1ファイターを目指すことに。
「誰しも中学生くらいになると空手って、面白くなくなるんです。それで華やかな部活をやりたくなったり遊びたくなったり。長兄は年齢が3つ上なので彼が中1のときに自分は小4で、身体の大きさも違うから練習相手にもならなかったんですよね。そんな兄が中3の時“この大会で優勝したら空手を辞める”と言って月心会の大会で優勝したんです。兄の代は強豪が多くてそれまで全然勝ち上がれなかったのに辞めると宣言した大会で、人生で初めて勝ち抜いて(笑)、その後は色気づいてダンスを始めてましたね(笑)。かくいう僕は野球が好きで中学3年間は野球と空手を両立していたんです。けっこう野球うまかったですし、当時としては甲子園を目指すほうが、やり甲斐を感じられましたね。ハードな毎日をずっと送っているなかで、空手が面白くなくなって、心が一度折れて行かなくなってしまった。逆に弟はヤンチャに遊んだりしていても空手に対しては真面目で、休んだことがなかった。そんな姿を見ていて、“自分もせっかくずっとやってきたんだ”、と、思い直したんです」
大阪でふたりだけで練習していた時期があり、その後は弟さんが先に上京しています。どういう経緯でK-1五反田チームキングスに?
「逆説的なんですが、大阪ではここに行きたいというジムがなかったんです。それなら、昔のK-1の映像はいっぱいあるし、YouTubeだってあるから自分たちでできるだろうと思っていました。皇治選手のように『大阪から東京へ、大阪から世界へ』ということをやりたかったんです。そしていつか自分たちのジムを持ちたい、と。弟はずっと“K-1に出たい”と言っていたものの、出稽古でいろんな方と交流したり、兄弟ふたりという形で名前を売っていかなければと思って営業をかけたりしていた僕とは違って、弟は“自分は自分”という感じで特になにも動いていなかったんですよ。そんな彼が初めて、“ここに行きたい”と言ったのが五反田で、自ら体験に行って決めてきた。その後は僕だけ大阪に残って。それには前団体との関係など事情もあったものの、内心では“大阪から”ということに拘っていたこともあって、なかなか踏み込めなくて。弟からは “ここに来たら変わるぞ、何をしているんだ、今すぐ来い”と言われていて、そんな彼のデビュー戦を見たら本当に全然動きが変わっていたんです。それで、自分もここに行こうと心を決めました。今では、始めに目標としてきた選手も離れてジムの環境も変わりましたが、ここに行きたいと思ってやって来たジムなので、これから玖村兄弟の色に染めていこうと考えています。これも『第二章』ですね。若いメンバーでも意識を高く持って集まることで、すごいジムなんだと言わしめることができるよう、新しく作り上げていきたいですね。その分、背負うものは増えましたが」
K-1には兄弟ファイターも多くいますが、それぞれ兄と弟で個性や魅力に違いがあります。玖村兄弟の場合は?
「僕は兄弟でひとつのブランドにしたいので、そのなかでそれぞれの個性が出ていけばいいかな、というふうに思ってはいるんですけど。僕たちは仲もいいし、お互いリスペクトしあえているけど、性格はけっこう違います。弟はムスッとした……いえ(笑)、クールなイメージじゃないですか? ただクールでもコミュニケーションはちゃんととるし来る人は拒まない。 “こんなに喋ってくれるんだ” なんて言われるらしいですからね。僕の場合はクソまじめってイメージがあるらしくて“意外に喋るんですね” とよく言われます。ただインタビューや会見を見てくれれば喋るキャラなのも分かってくると思うので、そのままではないかと。クールな弟のほうが、甘えるとたくさん喋ったりもするし気分屋ですね。そういう違いもあるので、K-1公式LINE PR大使とかは僕のほうが積極的にやっていく感じでいいのかなと思います。ぼくだってSNSで発信するのは得意ではないけど、必要なこと以外は何も発信しないんで、弟は(笑)」
ふたりを表す関係性としては“ライバル”がふさわしい?
「ライバル意識は特にないのですが、同じ競技を同じリングでやっている以上、自分が負けたくないのと同時に、弟には誰にも負けてほしくないって思いますよね。そして、お互いに“コイツが負けてないなら自分も負けたくない”と思う。これは兄弟だからこその強い気持ちでしょうね。僕は弟が勝った選手に負けてしまったので、彼の後ろに立っているわけですが、それどころか今は置いていかれている感覚もありますね。僕の欠場中も弟は結果を出していますから。それにふたりとも対戦した相手だとどうしても比較されてしまいますし。最近では(2020年3月に)金子選手に勝利した弟のことを兄のリベンジをしたなんて言われたりするんです。アイツはそんなふうには思っていないし、僕も“リベンジは自分でやるから!” と思っているんですけどね」
そんな弟さんと、どういう心境で共に歩んでいるのでしょうか?
「彼は本当に天才なんですよ。ジムのチャンピオンクラスの人ができないようなことを難なくこなしたり、みんなが何日もかかるようなことを1日でやってしまったり。もうね、ただの弟じゃなくて、ちょっと第三者目線で見ている感じですね。“ジムにいるスゴいヤツ”みたいな」
そんな“スゴいヤツ”が、“弟”に戻る瞬間というのはある?
「最近、僕は身体を変えていく一環で、外食が多かったのを自炊するようになって、今ではレシピも何も見ずにご飯を作れるようになったんですけど、弟は料理をあんまりしないんです。それで"食べに行っていい?"ってウチによく来るようになりました(笑)。そのことを親に伝えたら"やっぱりお兄ちゃんやな"なんて言われましたよ。先日も、ちょうどいっぱいあった豚肉を何に料理しようかな、と考えていた時に"今日メシ何?””カレー食べたい”って連絡が来て。作りましたよ、カレー(笑)。家がわりと近いのでちょこちょこ弟が来ていて、僕は、兄というより“東京の母”です(笑)」